移住直前・直後によくある税務トラブル6事例|居住者判定や出国税など税制の落とし穴とその対策

投稿:2025年11月29日更新:2026年6月2日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

ドバイをはじめとする海外移住では、税務上の論点を「住民票を抜けばよい」「日本を出国すれば日本の税金は終わり」と単純化してしまうと、移住直前・直後に深刻な税務トラブルに発展します。実際に裁判で争われた居住者判定、納税管理人届出漏れによる無申告加算税、出国税の見落とし、不動産売却時の源泉徴収漏れ、社会保険・住民税の二重払い、そしてCFC税制(タックスヘイブン対策税制)まで、典型的な6つのトラブルパターンとその対策を、根拠条文・判例・実務上のチェックポイントとともに整理します。なお円換算は1 AED = 43円(2026年5月時点参考値)で記載しています。

1. 居住者判定を誤って「非居住者」と自己判断したケース

トラブルの典型例

海外で長期間生活していたにもかかわらず、税務署から「あなたは日本の居住者である」と認定され、海外所得を含む全世界所得に対して追徴課税されるケースです。マレーシアに移住したA氏が、日本国内に持ち家・家族・社会的関係を残したまま現地に滞在していたところ、税務調査で居住者と認定された裁判例(武富士事件型の生活の本拠争い)も知られており、住民票を抜くだけでは非居住者と認められない実態を示しています。

なぜ起こるのか

所得税法上の居住者判定は、所得税法第2条第1項第3号および所得税法施行令第14条・第15条に基づき、「住所」すなわち「生活の本拠」がどこにあるかで判断されます。住民票の有無や滞在日数だけでは決まらず、家族の所在、職業、資産の所在、生活関連施設の利用状況などを総合的に勘案する点が見落とされがちです。

対策

チェック項目 非居住者と認められやすい状態
家族の所在 配偶者・子も同行して海外居住
職業・収入源 海外法人での就労または現地法人運営
滞在期間 継続して1年以上海外滞在、日本滞在は年183日未満
国内資産 日本の持ち家を売却または賃貸に出している
海外での生活基盤 現地で長期賃貸契約・銀行口座・運転免許等を取得

関連記事:日本の非居住者判定とUAE個人居住者ルールについて徹底解説

2. 納税管理人の届出漏れによる無申告加算税

トラブルの典型例

非居住者となった後も日本国内に不動産賃貸収入や役員報酬がある人が、納税管理人を選任・届出せずに確定申告期限を徒過し、無申告加算税・延滞税を課されるケースです。本人が海外にいて税務署からの郵便物を受け取れないため、催告にも気付かず延滞が長期化することがあります。

なぜ起こるのか

国税通則法第117条により、日本に住所・居所がない納税者で日本国内に課税対象がある者は、納税管理人を選任して所轄税務署に届出る義務があります。これを怠ると、申告・納付の責任主体が不明確になり、申告期限経過後に発覚した時点で無申告加算税(原則15%、税額50万円超部分は20%、300万円超部分は30%)と延滞税(年率2.4%〜14.6%)が課されます。

対策

関連記事:海外移住時の納税管理人制度とは?選任のメリットと届出のポイントを国際税務の専門家が解説

3. 出国税(国外転出時課税)の見落とし

トラブルの典型例

有価証券・株式・投資信託など合計1億円以上の対象資産を保有する個人が、海外移住時に出国税の申告を失念し、後日修正申告・重加算税の対象となるケースです。特に未上場株式(自社株を含む)の評価額が高額になっていることに気付かず、申告漏れとなる事例が多く見られます。

なぜ起こるのか

所得税法第60条の2(国外転出時課税制度)に基づき、出国日時点で対象資産1億円以上を保有する居住者は、含み益に対して15.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%)の所得税が課されます。対象は上場・非上場の株式、投資信託、債券などの有価証券および匿名組合契約の出資持分であり、不動産・暗号資産・預金は対象外である点が混同されやすい部分です。

対策

手続 内容
対象資産の棚卸し 出国日時点の有価証券評価額を確認し合計1億円を超えるか判定
準確定申告 出国日までに所得税の準確定申告書を提出(納税管理人選任時は翌年3月15日まで)
納税猶予の活用 担保提供と納税管理人選任で最長10年(5年+延長5年)の納税猶予が可能
帰国時の取扱い 5年以内(延長で10年以内)に帰国し対象資産を保有していれば課税取消し可能

関連記事:国外転出時課税の課税シミュレーション|1億円超の非上場株式オーナーが海外移住で支払う出国税の実額

4. 不動産売却時の源泉徴収漏れ

トラブルの典型例

非居住者となった後に日本国内の不動産を売却した際、買主が源泉徴収義務(譲渡対価の10.21%)を怠り、後日税務署から徴収不足分を請求されるトラブルです。売主側も確定申告で精算する必要があるにもかかわらず、申告せず還付を受け損ねるケースもあります。

なぜ起こるのか

所得税法第212条第1項により、非居住者が日本国内の不動産を譲渡した場合、買主は譲渡対価の10.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%)を源泉徴収して納付する義務を負います。ただし、譲渡対価が1億円以下で買主が自己または親族の居住用に使用する場合は源泉徴収不要となる例外規定があり、ここの判断ミスが頻発します。

対策

5. 社会保険・住民税の二重払い

トラブルの典型例

1月1日時点で日本に住所がある状態で出国した場合、その年度の住民税が翌年度まで課税され続けるにもかかわらず、現地でも所得税・社会保険料を支払うことになり、実質的な二重負担が発生するケースです。健康保険についても任意継続中の本人が海外で現地保険にも加入すると保険料が重複します。

なぜ起こるのか

住民税は地方税法第39条・第318条により1月1日(賦課期日)時点の住所地で課税され、その年度分(6月から翌年5月まで分割納付)は出国後も納付義務が残ります。一方、現地での給与所得については現地国の所得税・社会保険料も発生するため、租税条約や社会保障協定でカバーされない部分が二重負担となります。UAEは日本との社会保障協定が未締結のため、年金・健康保険の二重加入防止証明書を取得できない点に注意が必要です。

対策

項目 対策
住民税 12月中に転出届を提出し翌年1月1日時点で非居住者となれば翌年度住民税は非課税
国民健康保険 転出届と同時に資格喪失手続を実施
厚生年金 社会保障協定締結国であれば二重加入防止証明書を取得(UAEは未締結)
健康保険任意継続 海外移住なら通常は解約し現地民間保険・現地公的保険に切替

関連記事:ドバイ移住の出国タイミング完全ガイド|住民税・所得税・出国税・UAE居住者認定の全論点

6. CFC税制(タックスヘイブン対策税制)の見落とし

トラブルの典型例

ドバイをはじめとする低税率国に法人を設立し、日本居住者が株式の50%超を保有している場合、CFC税制(外国子会社合算税制)により当該外国法人の所得が日本側で合算課税されるケースです。UAE法人税率が9%(一定要件下のQFZPは0%課税)であるため、ペーパーカンパニーや事業実体の薄い法人は合算対象となり得ます。

なぜ起こるのか

租税特別措置法第66条の6(外国子会社合算税制)に基づき、日本居住者および内国法人が合計で50%超の株式を保有する外国関係会社のうち、租税負担割合が20%未満の場合はペーパーカンパニー要件・事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準(または非関連者基準)の経済活動基準4要件を満たすか否かで合算課税の要否が判定されます。事業基準とは、株式の保有、債券の保有、無形資産の提供、船舶・航空機リース等を主たる事業としていないことを意味し、UAEで事業会社として実体ある営業を行っていることが要件となります。

対策

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7. CRSによる情報交換と「黙っていればばれない」リスク

上記6事例に共通する背景として、日本とUAEはいずれもCRS(共通報告基準)の参加国であり、UAEの銀行・証券口座情報は毎年自動的に日本の国税庁へ通知されています(国税庁・CRSに基づく自動的情報交換)。UAE移住後にUAE側で保有する金融資産・受領した配当・キャピタルゲインは、日本側でも把握される前提で申告・課税関係を整理する必要があります。「日本側に知られないだろう」という前提は実務上もはや成立しません。

関連記事:ドバイ移住の出国前手続き完全ガイド2026|国外転出時課税・源泉徴収・非居住者口座対応

まとめ

移住直前・直後の税務トラブルは、いずれも事前準備で回避可能な論点ばかりです。所得税法・国税通則法・地方税法・租税特別措置法という4つの法令体系が同時に動くため、出国スケジュールに合わせて納税管理人選任・出国税申告・住民票異動・社会保険喪失届・関連申告の手続を時系列で計画することが重要です。

根拠法令・参考資料

本記事の主な根拠法令・公的資料は以下のとおりです。

本記事は2026年6月時点で公表されている法令・通達・公的資料に基づき作成しています。個別事案への適用は事実関係により異なるため、実際の手続きにあたっては税務署または専門家へご相談ください。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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