なぜ今「タックス・ヘイブン税制」が注目されるのか
近年、UAE・ドバイをはじめとする低税率国に法人を設立し、国際的に事業を展開する日本人経営者・投資家が急増しています。UAEでは2023年6月以降に法人税が導入されたものの、税率は9%(課税所得AED375,000超部分)と日本の実効税率(約30%)と比較して大幅に低く、フリーゾーン優遇措置(Qualifying Free Zone Person)を活用すれば0%となるケースもあります。
こうした環境下で日本居住者がUAE法人を保有・支配している場合、必ず検討しなければならないのが日本のタックス・ヘイブン対策税制(CFC税制:Controlled Foreign Company Rules、外国子会社合算税制)です。本記事では、令和5年度税制改正後の最新ルールを踏まえ、ドバイ法人を保有する日本居住者・日本法人が押さえるべき実務上のポイントを解説します。
本記事の対象読者
- UAEに子会社・関連会社を保有する日本法人の経営者・税務担当者
- ドバイにオフショア法人やフリーゾーン法人を保有する日本居住者の個人投資家
- 国際的な事業再編・持株会社設立を検討中の日系企業
タックス・ヘイブン対策税制(CFC税制)の基本構造
CFC税制とは、日本居住者や内国法人が低税率国に設立した外国関係会社の所得を、一定の要件のもと日本側で合算課税する制度です。本来は外国法人の所得ですが、租税回避防止の観点から、日本の株主側で課税します(国税庁「No.6716 外国子会社合算税制の概要」参照)。
外国関係会社の定義
「外国関係会社」とは、日本居住者・内国法人等が直接・間接に株式等の50%超を保有する外国法人、または実質的に支配している外国法人を指します(租税特別措置法第66条の6第2項第1号、第40条の4第2項第1号)。
合算課税の対象者
| 対象者 | 合算対象となる株式保有割合 |
|---|---|
| 内国法人(日本法人) | 外国関係会社の株式等を直接・間接に10%以上保有 |
| 居住者個人 | 外国関係会社の株式等を直接・間接に10%以上保有 |
トリガー税率と3つの会社区分(令和5年度改正後)
令和5年度税制改正により、CFC税制のトリガー税率(合算課税を免除する基準となる租税負担割合)が引き下げられました。この改正は2024年4月1日以後に開始する外国関係会社の事業年度から適用されます(詳細は財務省「令和5年度税制改正の解説」参照)。
| 租税負担割合 | 会社区分 | 取扱い |
|---|---|---|
| 27%以上 | 一般的な外国関係会社 | 会社単位の合算課税は適用免除(受動的所得の部分合算もなし) |
| 20%以上27%未満 | 一般的な外国関係会社 | 経済活動基準を満たせば会社単位の合算課税は免除。ただし受動的所得は部分合算課税の対象 |
| 20%未満 | 対象外国関係会社 | 経済活動基準を満たせば会社単位課税は免除されるが、満たさない場合は所得全額を合算 |
| 税率不問 | 特定外国関係会社(ペーパーカンパニー等) | 租税負担割合が30%以上の場合のみ免除。それ以外は所得全額を合算 |
UAEフリーゾーン法人(QFZP適用で実効税率0%)やUAE本土法人(9%)は、いずれも租税負担割合20%未満に該当するため、CFC税制の検討が必須となります。
ペーパーカンパニー(特定外国関係会社)の判定
特定外国関係会社に該当すると、租税負担割合が30%未満であれば所得全額が日本側で合算課税されます。実体のないペーパーカンパニーかどうかは以下の基準で判定されます。
ペーパーカンパニー判定基準(いずれかに該当すると特定外国関係会社)
- 実体基準:本店所在地国に主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の固定施設を有していない
- 管理支配基準:本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていない
- 外国子会社保有割合基準:保有する一定の外国子会社株式等が総資産の50%超
- 不動産保有等基準:保有する一定の不動産・有価証券・無形資産等が総資産の50%超かつ受動的所得が総収入の30%超
- キャッシュボックス(一定の受動的所得が総資産の30%超かつ一定資産が総資産の50%超)
- ブラックリスト国所在(情報交換に非協力的な国・地域)
ドバイで法人設立する場合、賃貸オフィス契約・現地スタッフ雇用・現地での経営判断記録などにより実体基準・管理支配基準を満たすことが極めて重要です。バーチャルオフィスのみで現地に人的・物的実体がない場合、ペーパーカンパニーと認定されるリスクが高くなります。
経済活動基準(4要件)
租税負担割合が20%未満の外国関係会社であっても、以下の4つの経済活動基準をすべて満たせば、会社単位の合算課税は免除されます(ただし20%未満の場合は受動的所得の部分合算は別途検討必要)。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| ① 事業基準 | 主たる事業が株式等の保有、知的財産権の提供、船舶・航空機リース等の特定事業でないこと |
| ② 実体基準 | 本店所在地国に主たる事業を行うに必要な固定施設を有すること |
| ③ 管理支配基準 | 本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること |
| ④ 所在地国基準/非関連者基準 | 卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業、航空機貸付業の場合は非関連者基準(取引の50%超が非関連者)、それ以外の業種は所在地国基準(主として本店所在地国で事業を行う) |
受動的所得の部分合算課税
租税負担割合が20%以上27%未満(または20%未満で経済活動基準を満たす場合)の外国関係会社であっても、配当・利子・使用料・キャピタルゲイン等の受動的所得は部分合算課税の対象となります。
主な受動的所得
- 剰余金の配当等(持株割合25%以上の株式からの配当等は除外)
- 利子(業務の通常の過程で生ずるものを除く)
- 有価証券の貸付対価
- 有価証券の譲渡損益
- デリバティブ取引損益
- 外国為替差損益
- その他金融資産から生ずる収益
- 固定資産の貸付対価(一定のものを除く)
- 無形資産等の使用料
- 無形資産等の譲渡損益
部分合算の少額免除(デミニマス基準)
以下のいずれか一方を満たせば部分合算課税は免除されます。
少額免除要件(いずれかに該当)
- 部分合算課税対象金額が2,000万円以下
- 部分合算課税対象金額が外国関係会社の税引前当期利益の5%以下
UAE法人保有時の実務的留意点
租税負担割合の計算
UAE法人税率は本土で9%、フリーゾーンQFZPで0%(適格所得部分)です。租税負担割合は実際に課されている外国法人税額を所得金額で除して計算するため、UAE法人は原則として20%未満のカテゴリーに該当します。
経済活動基準を満たすための実務
- フリーゾーン内またはメインランドでの物理的オフィス契約(バーチャルオフィスのみは避ける)
- UAE居住ビザを取得した取締役・従業員の雇用
- 取締役会をUAE国内で開催し議事録を作成・保管
- 主要な経営判断・契約締結をUAE国内で実施した記録
- 銀行口座をUAE国内で開設し、主要取引をUAE経由で実行
UAE法人税制との関連
UAE法人税の課税対象となる「Resident Person」「Permanent Establishment」「Place of Effective Management(POEM)」の判定は、日本側のCFC税制における管理支配基準の判定と密接に関連します。UAE法人税側で「実質的管理場所が日本」と認定されればUAE法人税の納税義務関係も変わるため、両国の整合的な事業実態の構築が必要です。
申告・添付書類
合算課税の対象となる場合、確定申告において以下の対応が必要です。
- 合算所得を「特定外国関係会社等に係る所得の課税の特例に関する明細書」(別表17(3)、個人は明細書)で計算・記載
- 外国関係会社の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書を添付
- 外国関係会社が課された外国法人税については外国税額控除の適用が可能
- 租税負担割合が20%未満の場合、合算課税の有無にかかわらず別表17(3)の添付が必要(無申告加算税の対象となるため要注意)
具体的な記載例・計算例については国税庁「外国子会社合算税制パンフレット」もあわせてご参照ください。
【根拠条文・出典】
- 租税特別措置法 第66条の6(内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例)
- 租税特別措置法 第40条の4(居住者の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例)
- 租税特別措置法施行令 第39条の14~第39条の20の7
- 令和5年度税制改正(外国子会社合算税制の見直し:トリガー税率を30%→27%に引下げ、2024年4月1日以後開始事業年度から適用)
- 国税庁「No.6716 外国子会社合算税制の概要」
グローバル・ミニマム課税(GloBE)との関係
2024年4月1日以後開始事業年度から、日本でも各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(IIR:Income Inclusion Rule)が導入されました。連結売上高7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループが対象で、構成会社の実効税率が15%未満の場合に上乗せ課税が行われます。CFC税制とは別制度ですが、UAE法人を含む国際グループ企業は両制度の同時検討が必要です(国税庁「グローバル・ミニマム課税」参照)。
まとめ:ドバイ法人を保有する際のチェックリスト
📋 今回のポイント
- UAE法人は租税負担割合が20%未満となるため、日本居住者・内国法人が10%以上保有する場合はCFC税制の検討が必須
- バーチャルオフィスのみの法人はペーパーカンパニー(特定外国関係会社)と認定され、所得全額が合算課税される可能性
- 令和5年度改正で一般会社のトリガー税率は27%・20%の2段階に。2024年4月1日以後開始事業年度から適用
- 経済活動基準(事業基準・実体基準・管理支配基準・所在地国基準/非関連者基準)の4要件を満たすことで会社単位課税を回避可能
- 受動的所得は2,000万円超かつ税引前利益の5%超の場合に部分合算課税の対象
- UAE法人税のPOEM判定とCFC税制の管理支配基準の整合性確保が重要
- 租税負担割合20%未満の場合は別表17(3)の添付が必須(合算課税がなくとも)
CFC税制は日本の国際税務の中でも特に複雑な制度であり、個別の事実関係によって取扱いが大きく異なります。ドバイ法人の設立・保有・再編をご検討の際は、UAEと日本両国の税制に精通した専門家にご相談ください。当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
