ドバイへの法人設立や移住を検討する方にとって、避けて通れないのが日本のタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制、CFC税制)です。この税制を正しく理解していないと、せっかくドバイに法人を設立しても、その利益がまるごと日本で課税されてしまうことになりかねません。
本記事では、2025年時点の日本側のCFC税制について、ドバイ法人を設立する方向けにわかりやすく解説します。
タックスヘイブン対策税制とは何か
タックスヘイブン対策税制とは、税率の低い国や地域に設立された外国子会社の所得を、日本の親会社や個人株主の所得とみなして合算し、日本で課税する制度です。
この税制の目的は、実態のないペーパーカンパニーを利用した租税回避行為を防止することにあります。逆に言えば、現地に実体のある事業活動を行っている会社には適用されません。
✅なぜドバイ法人が対象になりうるのか
UAEの法人税率は9%です。これは日本のタックスヘイブン対策税制における「トリガー税率」を大幅に下回っています。そのため、ドバイに法人を設立した場合は、この税制の対象となるかどうかを必ず検討しなければなりません。
トリガー税率と租税負担割合による判定
トリガー税率とは、外国子会社合算税制(CFC税制)の判定に使用する外国子会社の租税負担割合のことを指します。タックスヘイブン対策税制では、このトリガー税率の割合によって取扱いが大きく変わります。
トリガー税率による区分(2025年4月以降開始事業年度)
| 租税負担割合 | 会社の区分 | 課税の取扱い |
|---|---|---|
| 27%以上 | 適用免除 | 合算課税なし |
| 20%以上〜27%未満 | 条件付き適用免除 | ペーパーカンパニー等に該当しなければ合算課税なし |
| 20%未満 (ドバイ) |
対象外国関係会社等 | 経済活動基準を満たさなければ会社単位で合算課税、満たしても受動的所得は合算対象 |
UAEの法人税率は9%であるため、ドバイ法人はトリガー税率が20%未満の区分に該当します。よって、外国関係会社に該当するかどうか、経済活動基準を満たすかどうかの検討が必要になります。
合算課税の対象となる外国関係会社とは
✅対象となる会社の要件
日本の内国法人または居住者が、合計で50%超の株式等を直接的もしくは間接的に保有する外国法人が「外国関係会社」として対象になります。ここで注意すべきなのは、自分自身が50%超を保有している必要はないという点です。たとえ第三者の日本居住者が株式を保有していたとしても、日本の内国法人及び居住者の持分比率が合計で50%超になっていれば、この税制の対象になります。
✅合算課税が適用される株主
外国関係会社の発行済株式等の10%以上を保有している内国法人や居住者に対して合算課税が適用されます。
個人株主の場合、合算された所得は雑所得として総合課税の対象となり、最高税率(55%)が適用される可能性があります。法人株主であれば法人税率(約30%)が適用されるため、個人よりも税負担が軽くなる傾向があります。
特定外国関係会社(ペーパーカンパニー等)とは
特定外国関係会社とは、実体を伴わない形式上の法人等を指します。下記に該当する場合、その全ての所得が会社単位で合算課税の対象となります。
特定外国関係会社の3つの類型
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| ペーパーカンパニー | 事務所等の固定施設を持たず、かつ事業の管理・運営を自ら行っていない会社 |
| キャッシュボックス | 総資産に比して受動的所得の割合が高い会社(受動的所得が30%超、かつ一定資産が50%超) |
| ブラックリストカンパニー(ドバイは非該当) | 租税に関する情報交換に非協力的な国に所在する会社 |
経済活動基準の4つの要件
特定外国関係会社に該当しない場合でも、租税負担割合が20%未満であれば経済活動基準を満たすかどうかの検討が必要です。4つの基準をすべて満たすことで会社単位の合算課税を免れることができます。
経済活動基準の内容
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| 事業基準 | 主たる事業が株式・債券の保有、工業所有権等の提供、航空機・船舶のリース業ではないこと |
| 実体基準 | 本店所在地国に主たる事業を行うための事務所、店舗、工場等の固定施設を有すること |
| 管理支配基準 | 本店所在地国において、事業の管理・支配・運営を自ら行っていること |
| 所在地国基準または非関連者基準 | 業種に応じて、本店所在地国で主たる事業を行っているか、または関連者以外の者と主に取引していること |
経済活動基準を1つでも満たさない場合は、その外国関係会社の所得全額が日本で合算課税されることになります。
受動的所得の部分合算課税
経済活動基準をすべて満たした場合でも、一定の受動的所得については部分的に合算課税の対象になります。受動的所得とは、自ら積極的に活動しなくても得られる所得であり、租税回避に利用されやすい性質があるためです。
たとえば、日本居住者がドバイに法人を設立し、ドバイ不動産を購入して賃貸収入を得る場合、その賃貸収入は「有形固定資産の貸付け対価」に該当し、受動的所得として日本で合算課税される可能性があります。ここは経済的実態や主たる事業目的にもよるので、一概に判断することは難しく、個別的判断になります。
受動的所得の主な種類
| 所得の種類 | 内容・留意点 |
|---|---|
| 剰余金の配当等 | 持株割合25%未満の法人から受ける配当に限る |
| 受取利子等 | 業務の通常の過程で生じる預貯金の利子は除く |
| 有価証券の貸付けによる対価 | ― |
| 有価証券の譲渡損益 | 持株割合25%以上の株式等の譲渡損益は除く |
| デリバティブ取引・外国為替差損益 | ヘッジ目的の取引は除外規定あり |
| 無形資産等の使用料・譲渡損益 | 特許権、著作権等 |
| 有形固定資産の貸付け対価 | 不動産賃料等 |
| 異常所得 | 上記に該当しない受動的な所得 |
(参考)不動産売却収入(キャピタルゲイン)の取扱い
不動産の売却収入が受動的所得に該当するかどうかは、ドバイ法人の主たる事業の内容により判定されます。
不動産開発業や不動産販売業を主たる事業としている場合、不動産の譲渡損益は能動的所得(事業所得)として扱われ、受動的所得には該当しません。この場合は経済活動基準の事業基準を満たす必要があります。
一方で、ドバイ法人の主たる事業が建設業やコンサルティング業などであり、投資目的で保有していた不動産を売却した場合は、その譲渡損益が「異常所得」として受動的所得に分類される可能性があります。特に事業年度内の一時的な不動産売却は、主たる事業活動との関連性が薄いと判断されやすく、受動的所得として扱われる傾向があります。
デミニマス要件(少額免除基準)
受動的所得があったとしても、その金額が少額であれば合算課税が免除されます。これをデミニマス基準(少額免除基準)と呼びます。
デミニマス基準の要件
| 要件 | 基準 |
|---|---|
| 収入金額基準 | 受動的所得の収入金額の合計が2,000万円以下 |
| 所得割合基準 | 受動的所得が外国関係会社の税引前利益の5%以下 |
合算課税の具体的な影響
ドバイ法人がタックスヘイブン対策税制の対象となった場合、どのような税負担が生じるのかを具体例で確認します。
✅前提条件
- 日本親会社の実効税率:30%
- ドバイ子会社の法人税率:9%
- ドバイ子会社の利益:3,000万円(日本親会社の利益は0円と仮定)
✅タックスヘイブン対策税制が適用されない場合
ドバイ子会社は外国法人として日本で課税されず、UAEでのみ法人税がかかります。
UAE法人税:3,000万円 × 9% = 270万円
グループ全体の税負担:270万円
✅タックスヘイブン対策税制が適用される場合
ドバイ子会社の利益が日本親会社の所得に合算されます。
日本での法人税:3,000万円 × 30% = 900万円
UAE法人税:3,000万円 × 9% = 270万円
外国税額控除:▲270万円
グループ全体の税負担:900万円
このように、タックスヘイブン対策税制が適用されると、結果的に日本の税率と同等の税負担が生じることになります。
タックスヘイブン対策税制を回避するための実務対応
ドバイ法人がタックスヘイブン対策税制の適用を受けないためには、以下の対応が考えられます。
1. 日本の非居住者になる
株主である個人が日本の非居住者となれば、日本のタックスヘイブン対策税制の適用対象から外れます。非居住者となるためには、生活の本拠を海外に移し、日本との関係を希薄化させる必要があります。
2. 経済活動基準をすべて満たす
ドバイ法人に実体のある事業活動を持たせることで、経済活動基準を満たし、会社単位の合算課税を回避することができます。具体的には:
- ドバイに実際に使用する事務所を確保する
- 事業の管理・運営をドバイで自ら行う
- 主たる事業として株式保有業等ではなく、実業を行う
- 関連者以外との取引を主とするか、ドバイで実際に事業活動を行う
3. 受動的所得を発生させない
経済活動基準を満たしても、受動的所得(配当、利子、不動産賃料等)があれば部分合算課税の対象となります。事業構造を検討し、受動的所得の発生を抑えることも一つの対策です。
まとめ
タックスヘイブン対策税制は、租税回避を目的とした実態のないペーパーカンパニーを規制するために設けられた制度です。一方で、実際に現地に移住し、実体のある事業をしっかりと営んでいる会社には適用されません。
ドバイは中東経済の中心地であり、多くのビジネスチャンスが存在します。タックスヘイブン対策税制の適用を回避したい方や、現地法人を設立するにあたって日本の税制に抵触しないか不安な方は、お気軽に当会計事務所までお問い合わせください。
