ドバイ法人の給与計算ガイド|給与システムや退職金、失業保険について解説

投稿:2025年12月1日更新:2026年6月5日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

UAE・ドバイで会社を経営する日本人にとって、給与計算は日本と大きく異なる制度設計になっています。所得税が存在せず、社会保険料の天引きも基本的に不要である一方で、WPS(賃金保護システム)による給与振込の義務化、退職金(Gratuity)の計算、失業保険(ILOE)への加入など、UAE独自のルールを正しく理解しておく必要があります。

本記事では、日本との比較を交えながら、UAE給与計算の実務ポイントを2026年最新情報に基づき解説します。

日本とUAEの給与計算の違い

項目 日本 UAE
所得税源泉徴収 必須 不要(個人所得税なし)
社会保険料 健康保険・厚生年金・雇用保険等 外国人は原則不要(自国民はGPSSAに加入)
給与振込 指定なし WPS経由が義務
退職金 企業任意(規程による) Gratuityが法定義務
失業保険 雇用保険(会社・本人折半) ILOEへの個人加入義務

WPS(賃金保護システム)の実務

WPS(Wages Protection System)は、UAE労働省(MOHRE)が運営する給与の電子振込システムで、メインランド企業はすべての従業員給与をWPS経由で支払う義務があります。DMCC等の一部フリーゾーンも強制適用となっており(DMCCは2024年1月から)、DIFC・ADGMはそれぞれ独自の給与支払い制度を採用しています。

2026年6月1日からの新ルール(重要)

閣僚決議第340号(2026年)により、2026年6月1日から給与支払期日が抜本的に変更されました。従来の「翌月15日まで」のグレース期間は完全に廃止され、すべての民間企業は前月分の給与を翌月1日(グレゴリオ暦)までにWPS経由で振込む義務を負います(Morgan Lewis解説)。

段階的エンフォースメント(遅延時の処分)

遅延日数 処分内容
2日目から 電子警告通知
5日目から 新規労働許可(ワークパーミット)の発給停止
11日目から 行政罰金・企業格付け(カテゴリー)の引き下げ
16日目から 労働紛争として登録
21日目から 司法手続きへの移行(特に従業員25名以上の企業は加重措置)

出典:KPMG解説(Ministerial Resolution 340 of 2026)

根拠条文・出典

  • Ministerial Resolution No. 340 of 2026(閣僚決議第340号・2026年5月12日発出、2026年6月1日施行)
  • UAE Federal Decree-Law No. 33 of 2021(労働関係規制法)第16条・第22条
  • MOHRE公式アナウンスメント(2026年5月)
  • 旧Ministerial Resolution No. 598 of 2022(2026年6月1日廃止)

WPSはUAE中央銀行に登録された銀行・両替業者(Exchange House)経由で行います。月次の給与ファイル(SIF)を作成し、振込指示と同時にMOHREへデータが送信される仕組みです。2026年6月以降は月末締め・翌月1日支払のサイクルが事実上の標準となるため、給与計算の締日設定や経理処理スケジュールの見直しが急務です。なお、UAE政府公式ポータルでも給与支払いに関する公式ガイダンスが公開されており、適宜参照することをおすすめします。

関連記事:UAE銀行口座開設ガイド

Gratuity(退職金)の計算

UAE労働法(Federal Decree-Law No. 33 of 2021)第51条により、1年以上継続勤務した従業員には退職時に法定退職金(End of Service Gratuity)の支払いが義務付けられています。

計算式

計算ベースは「基本給(Basic Salary)」のみで、住宅手当・交通手当などの諸手当は含まれません。日割計算は、基本給÷30日 × 21日(または30日)× 勤続年数で算定します。

根拠条文・出典

  • UAE Federal Decree-Law No. 33 of 2021, Article 51(End of Service Benefits)
  • u.ae 公式ガイド(End of Service Benefits for Employees in the Private Sector)
  • MOHRE(人的資源・エミラタイゼーション省)ガイダンス
関連記事:UAE退職金Gratuityの計算ルールと実務

ILOE(失業保険)の加入義務

ILOE(Involuntary Loss of Employment Insurance)は、2023年1月1日に施行された連邦法令第13号(2022年)に基づく失業保険制度です。UAE国民・外国人を問わず、民間企業・連邦政府の被雇用者は原則加入が義務付けられています(ILOE公式)。

保険料区分

区分 基本給 月額保険料 最大給付額
カテゴリA AED 16,000未満 AED 5+VAT 月AED 10,000
カテゴリB AED 16,000以上 AED 10+VAT 月AED 20,000

給付条件

制度の詳細はUAE政府公式ポータルの失業保険ページでも公開されています。

残業代の計算ルール

UAE労働法上、所定労働時間は1日8時間・週48時間が原則です。これを超える労働には残業手当が必要で、計算ルールは以下のとおりです(UAE政府公式ガイド:労働時間と残業)。

役員・General Manager・部門責任者など一定の上級管理職は、UAE労働法上の残業代規制の対象外とされる場合があります。役職と実態の両面から個別判断が必要です。

給与計算でよくあるミス

関連記事:日UAE租税条約は個人にも適用されるか

まとめ

📋 今回のポイント

  • UAEには所得税がなく、給与から税金を源泉徴収する必要はない
  • 2026年6月1日からWPSの給与期日が「毎月1日」に統一(閣僚決議第340号)。翌月15日のグレース期間は完全廃止
  • コンプライアンス基準は給与総額の85%以上(旧80%から引き上げ)
  • Gratuityは基本給ベースで、最初の5年は21日分、5年超は30日分、上限2年分
  • ILOEは外国人も加入義務、未加入はAED 400の罰金、給付は60%×最大3ヶ月
  • 残業代は通常1.25倍・夜間1.5倍、1日2時間まで

UAEの給与計算は、所得税がない分シンプルに見えますが、WPS・Gratuity・ILOEといった独自制度の運用ミスが思わぬ罰金や労使紛争を招きます。給与制度設計やWPS導入支援、Gratuity引当金の計上方法など、実務面でお悩みの際は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。日本・UAE双方の労務・税務に精通した専門家として、お客様の事業構造に最適なソリューションをご提案いたします。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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