ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
2026年6月12日、モナコとUAEの間で締結された租税条約が発効しました。両国はともに個人所得税がほぼ存在しない地域として知られており、その2つの無税ジュリスディクションがあえて租税条約を結んだという事実には、ドバイ移住を検討する日本人にとっても見逃せない意味があります。
当会計事務所には、ドバイ移住後の配当や利子の受け取りについて、日本側でいくら源泉徴収されるのか、租税条約でどこまで軽減できるのかというご相談が数多く寄せられます。今回のモナコ・UAE条約は、UAEが租税条約ネットワークを着実に広げている象徴的な事例です。この記事では、新たに発効したモナコ・UAE条約の中身を確認したうえで、日本とUAEの租税条約と比較し、ドバイ在住者が実務でどう活用すべきかを整理します。
モナコ・UAE租税条約の中身
まず発効した条約の事実関係を正確に押さえます。モナコ・UAE租税条約は2021年11月13日にドバイで署名され、2026年6月12日に発効しました。両国間で初めて締結された租税条約であり、適用開始日も発効日と同じ2026年6月12日とされています。
対象となる税目は、モナコ側が自然人に課される事業所得への利得税と法人所得税、UAE側が所得税と法人税です。最も注目すべきは源泉徴収の限度税率で、配当・利子・使用料のいずれも0パーセントとされています。つまり、一方の国の居住者がもう一方の国からこれらの所得を受け取っても、源泉地国で税が課されない仕組みです。
これは、両国がもともと個人所得に対する課税をほとんど行っていないという特性を反映したものです。モナコは原則として個人所得税を課さず、UAEにも個人所得税は存在しません。無税同士の条約であるため、二重課税の排除というより、租税条約ネットワークへの参加による国際的な信頼性の確保と、脱税防止の枠組みへの組み込みという意味合いが強い条約だと当会計事務所は見ています。
日本とUAEの租税条約はどうなっているか
次に、ドバイ在住の日本人にとって本当に重要な日本・UAE租税条約を確認します。日本とUAEの租税条約は2013年5月2日に署名され、2014年12月24日に発効しました。すでに10年以上運用されている条約です。
限度税率は、モナコ・UAE条約とは大きく異なります。配当については、受益者が議決権の10パーセント以上を6か月間保有する法人である場合は5パーセント、それ以外の場合は10パーセントが限度税率です。利子は10パーセント、使用料も10パーセントが限度税率とされています。利子については、相手国政府や一定の政府系機関が受益者である場合は免税となる規定もあります。
ここで決定的に重要なのは、日本・UAE条約が0パーセントではないという点です。モナコ・UAE条約がすべて0パーセントであるのに対し、日本・UAE条約には配当5から10パーセント、利子・使用料10パーセントという限度税率が残ります。日本という所得の源泉地国に課税権が一定程度残されているのです。さらにこの条約はBEPS防止措置実施条約、いわゆるMLIの対象であり、主要目的テストや濫用防止規定が適用される点も押さえておく必要があります。
ドバイ在住者が受け取る日本からの配当はどう課税されるか
この比較が、ドバイ在住の日本人に具体的にどう効いてくるかを見ていきます。日本の非上場会社が非居住者の株主に配当を支払う場合、日本国内法では原則として20.42パーセントの源泉徴収が行われます。上場株式の配当の場合は15.315パーセントが多くのケースで適用されます。オーナー経営者が保有する会社は非上場であることが多いため、20.42パーセントが基準になる方が少なくありません。
ここで日本・UAE租税条約を適用すると、この源泉徴収を引き下げることができます。UAEの法人株主が日本の会社の議決権の10パーセント以上を保有している場合は、原則として5パーセントまで引き下げられます。個人株主の場合は、5パーセントの要件である法人保有テストを満たさないため、通常は10パーセントの限度税率が適用されます。20.42パーセントから5パーセントまたは10パーセントへの引き下げは、金額が大きくなるほど効果が大きくなります。
ただし、この軽減は自動的には受けられません。受取人が受益者であること、主要目的テストを満たすこと、そして租税条約に関する届出書を支払いの前後に提出することが必要です。手続きを失念すると国内法どおりの源泉徴収が行われてしまうため、配当を受け取る前の準備が欠かせません。なお、UAEには個人所得税が存在しないため、UAE居住の個人オーナーにとっては、この日本側の源泉徴収税が実質的にその配当に対する最終的な税負担になることが多いという点も重要です。
モナコ・UAE条約から日本人が読み取るべき示唆
モナコ・UAE条約そのものは、日本人居住者が直接適用する条約ではありません。それでも、ドバイ移住を検討する日本人がこの条約から読み取るべき示唆があります。
第一に、UAEが租税条約ネットワークを着実に拡大しているという事実です。財務省の租税条約一覧によれば、UAEは140を超える国・地域と租税条約を結んでおり、無税国であるモナコとまで条約を締結しました。条約網が広いほど、UAE居住者は世界各国からの所得について二重課税の調整や源泉税の軽減を受けやすくなります。これはドバイを拠点とする国際的な資産運用や事業展開の追い風になります。
第二に、租税条約の特典を受けるには税務居住証明書、いわゆるTRCが鍵になるという点です。日本・UAE条約の配当軽減を受ける場合も、UAEの居住者であることを証明するTRCが必要になる場面があります。UAEのTRCは2026年1月からデジタル化され、居住要件を満たした時点で申請できるようになりました。ゴールデンビザを持っているだけでは取得できず、実体的な居住要件を満たす必要があります。条約の特典を活用するには、まずUAE側の居住資格を確実に固めることが前提になります。
よくある間違い
最も多い誤解は、モナコ・UAE条約がすべて0パーセントだから、日本・UAE条約も同じように源泉税がゼロになると考えてしまうことです。両者はまったく別の条約であり、日本・UAE条約には配当5から10パーセント、利子・使用料10パーセントの限度税率が残ります。日本からの所得には日本側の課税権が一定程度残る点を混同してはいけません。
次に多いのが、租税条約を適用すれば自動的に源泉税が軽減されると考える誤りです。実際には受益者要件、主要目的テスト、そして届出書の提出という手続きが必要です。手続きを怠れば国内法どおりの20.42パーセントが源泉徴収され、後から取り戻すには還付請求という手間がかかります。
そして見落とされがちなのが、UAEの居住者であることを証明できなければ条約の特典を受けられないという点です。ドバイに住んでいるつもりでも、TRCを取得できる実体的な居住要件を満たしていなければ、条約上のUAE居住者として扱われないおそれがあります。条約の限度税率に目を向ける前に、自分が確実にUAE居住者と認められるかを確認すべきです。
まとめ
📋 今回のポイント
- モナコ・UAE租税条約は2026年6月12日発効・配当/利子/使用料すべて限度税率0%
- 日本・UAE租税条約は配当5〜10%、利子・使用料10%の限度税率が残る
- 日本の非上場会社の配当は国内法で20.42%源泉徴収だが、条約適用で5%または10%に軽減可能
- 条約の軽減は自動ではなく、受益者要件・主要目的テスト・届出書の提出が必要
- 条約特典の前提としてUAEの居住資格とTRC取得が不可欠
当会計事務所は、ドバイ移住と法人設立を専門とする日本人公認会計士として、日本・UAE租税条約を活用した配当・利子の源泉税軽減の手続きや、UAE居住者としてのTRC取得、日本側の非居住者判定まで一貫してサポートしています。ドバイ移住後の日本からの所得の受け取り方や、租税条約を使った税負担の最適化を検討されている方は、できるだけ早い段階でのご相談をおすすめします。当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- モナコ・UAE租税条約(Orbitax) – 2021年11月13日署名、2026年6月12日発効、配当・利子・使用料0%
- 日本国とアラブ首長国連邦との間の租税条約(財務省条約本文PDF) 2013年5月2日署名、2014年12月24日発効、第10条・第11条・第12条
- 所得税法第212条(非居住者・外国法人への源泉徴収)、復興特別所得税
- 租税条約等の実施に伴う所得税法等の特例等に関する法律(特例法)および租税条約に関する届出書
- BEPS防止措置実施条約(MLI、主要目的テスト)
- UAE 2025年閣議決定第174号(TRC制度改正、2026年1月施行)
- 財務省 租税条約一覧(条約・議定書の正文と適用関係)





