源泉徴収税(Withholding Tax:WHT)は、国際税務において非常に頻繁に議論されるトピックです。日本企業が海外に進出する際、現地から資金を還流させる、つまり日本へ送金するタイミングで課税されるこの税金は、ビジネスのキャッシュフローに直結するためです。
特に中東地域、例えばサウジアラビアなどでは高い税率の源泉税が課されていることから、「UAE(アラブ首長国連邦)でも同様に高額な税金が引かれるのではないか?」というご質問をよくいただきます。
結論から申し上げますと、2026年5月現在、UAEにおける源泉徴収税率は「0%」です。
しかし、「税率が0%だから何も知らなくて良い」というわけではありません。制度自体は存在しており、将来的なリスク管理の観点から仕組みを理解しておくことは非常に重要です。
今回は、UAEの法人税法に基づく源泉徴収税の仕組みと、実務上の注意点について解説してまいります。
UAEにおける源泉徴収税の現状
2023年6月から施行されたUAE法人税法において、源泉徴収税の枠組み自体は導入されました。しかし、現時点ではすべてのカテゴリーの支払において税率は0%と設定されています。
これは、UAEが国際的なビジネスハブとしての競争力を維持するため、および投資家にとって魅力的な環境を提供し続けるための戦略的な判断といえます。
世界的に見ても、配当や利息の支払に対して源泉税を課さない国は限られており、これはUAE進出の大きなメリットの一つです。サウジアラビアなどの周辺国と比較すると、UAEの税制優遇措置がいかに競争力を持っているかが明確に理解できるでしょう。
📖 関連記事:UAE法人税の全体像についてはUAE法人税(Corporate Tax)の基本をご確認ください。
源泉徴収税の対象となる所得(国内源泉所得)
税率は0%ですが、法律上「何が源泉徴収の対象となり得るか」は定義されています。これらは「国内源泉所得(State Sourced Income)」と呼ばれ、主に以下の取引が該当します。
| 所得の種類 | 具体的な内容 | 現在の税率 |
| 配当 (Dividends) |
UAE法人から株主(非居住者)への利益配当 | 0% |
| 利息 (Interest) |
親子ローンや貸付金に対する利払 | 0% |
| ロイヤリティ (Royalties) |
知的財産権の使用料、フランチャイズ料など | 0% |
| その他 | 一定のサービス対価など | 0% |
現状では、これらの支払を日本本社や海外の取引先に行う際、UAE側で税金を差し引く必要はなく、申告手続きも不要です。この点は、グローバルにビジネスを展開する企業にとって、キャッシュフロー管理という観点から非常に有利な環境といえるでしょう。
📖 関連記事:UAE法人から株主への配当についてはUAE法人からの配当課税と日本側の取扱いをご確認ください。
サウジアラビア等、近隣諸国との違い
中東ビジネスでよくある勘違いとして、サウジアラビアの税制と混同されるケースがあります。
実務の現場でも、「サウジアラビアではロイヤリティ支払で15%引かれたが、UAEはどうなのか」という相談を受けることが少なくありません。サウジアラビアには厳格な源泉徴収制度がありますが、UAEは全く異なるアプローチをとっています。
| 国・地域 | 源泉徴収制度 | 配当税率 | 利息税率 | ロイヤリティ税率 |
| UAE | 枠組みあり | 0% | 0% | 0% |
| サウジアラビア | 厳格な制度 | 5~10% | 5~10% | 15% |
| 日本 | 複雑な制度 | 配当控除対象 | 変動 | 変動 |
ただし、注意が必要です。これは「UAEから海外へ支払う場合」の話です。逆に「サウジアラビアからUAEへ支払う場合」は、サウジアラビア側の税制が適用されるため、租税条約(DTAA)を活用した減免申請などの手続きが必要になる点はご注意ください。国ごとに税制が異なるため、取引の流れをしっかり理解することが重要なのです。
📖 関連記事:日UAE租税条約の個人・法人別の取扱いは日UAE租税条約と個人への適用をご確認ください。
非居住者に対する課税の考え方
源泉徴収税が0%である一方、海外法人(非居住者)がUAE国内でビジネスを行い、そこに恒久的施設(PE)があると認定された場合、またはUAE国内の不動産から所得を得ている場合(Nexusがある場合)は、通常の法人税(9%)の申告義務が発生する可能性があります。
つまり、「源泉税はかからないが、法人税申告は必要」というケースがあり得るということです。
UAE内での取引フロー
海外法人 → UAE進出 → PE認定リスク判定
・物理的拠点あり → PE認定の可能性大
・頻繁なスタッフ派遣 → PE認定の可能性あり
・顧客獲得活動 → PE認定のリスク要素
特に、海外法人がUAE国内に物理的な拠点を置かずに、頻繁にスタッフを派遣してサービス提供を行っているようなケースでは、PE認定リスクを見落とすと、想定外の法人税申告義務と追徴課税のリスクが発生します。OECDのモデル租税条約に基づくPE認定基準と、UAE法人税法の規定がどのように適用されるのかを事前に検討しておくことが重要です。
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今後のリスクと法改正の可能性
ここで一つ、法務的な観点から非常に重要な注意点があります。
現在の0%という税率は、「内閣決定(Cabinet Decision)」によって定められているという点です。
法律自体を改正しなくても、内閣等の行政判断一つで、特定の所得に対する源泉税率を5%や10%に引き上げることが可能な法的構造になっています。
YouTubeやX(旧Twitter)などのSNS上では「UAEは永遠に無税」といった極端な情報も散見されますが、国際的な課税圧力やOECDの「第2の柱(グローバル・ミニマム課税)」への対応の中で、将来的に取り扱いが変更される可能性はゼロではありません。
2024年末の国際租税環境の動きを見ると、多国籍企業に対する最低限の課税ルール(Global Minimum Tax)が世界的に導入されています。OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトと第2の柱(Pillar Two)の枠組みにUAEも組み込まれており、今後の税制変更の可能性に目を向ける必要があるのです。
実際のところ、OECDのBEPS対応やデジタル課税の影響を受け、既に中東各国でも税制見直しの動きが活発化しています。単なる「無税国家」としてのポジションではなく、透明性の高い法人税制度を備えた国家へのシフトが進んでいるのです。
実務上の推奨事項
源泉徴収税制度の枠組みを理解した上で、以下の対応を講じることが推奨されます。
- 定期的に連邦税務当局(FTA)のウェブサイトを確認し、最新の通達や指針を把握する
- UAE進出企業の場合、PE認定リスクについて専門家に相談し、適切な事業体制を構築する
- 租税条約の適用可能性を事前検討し、減免申請の準備を整えておく
- 会計記録・税務文書を整備し、いかなる税務調査にも対応できる体制を整える
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まとめ
📋 今回のポイント
- 現在の税率は0%:UAEから海外への配当・利息・ロイヤリティ等の支払に対する源泉徴収税は、2026年5月現在すべて0%
- 申告手続きは不要:0%のため源泉徴収に関する申告書の提出や納税手続きは発生しない
- サウジ等の近隣諸国とは別物:サウジは配当5〜10%・ロイヤリティ15%の厳格な制度、UAEと混同しないこと
- 「源泉税0%=法人税申告不要」ではない:PE認定や不動産Nexusがあれば9%の法人税申告義務が別途発生
- 法改正リスクへの注視:税率は内閣決定で変更可能。OECDの第2の柱への対応で将来引上げの可能性ゼロではない
UAEの源泉徴収税制度は、現時点で0%という非常にシンプルな構造ですが、これは恒久的に保証されたものではなく、「内閣決定」による行政判断で速やかに変更可能な法的構造になっています。制度がシンプルである今こそ、基本的な枠組みを正しく理解し、将来の変動に備えることが賢明な経営判断といえるでしょう。
UAE進出を検討されている企業や、すでに現地で事業展開されている企業にとって、源泉徴収税制度は一見シンプルに見えますが、配下の法人税申告義務、非居住者課税、国際租税条約の活用といった複数の法務・税務要素が絡み合っています。これらを総合的に理解し戦略的に対応する必要があります。当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠法令
- Federal Decree-Law No. 47 of 2022 on the Taxation of Corporations and Businesses(UAE法人税法)第45条 源泉徴収税(Withholding Tax)
- Federal Decree-Law No. 47 of 2022 第12条 非居住者の国内源泉所得(State Sourced Income)
- Federal Decree-Law No. 47 of 2022 第14条 恒久的施設(Permanent Establishment)の定義
- Cabinet Decision No. 55 of 2023(源泉徴収税率を0%とする内閣決定)
- 日UAE租税条約(2014年12月22日署名、2015年12月24日発効)
- OECD BEPS Action Plan / Pillar Two(グローバル・ミニマム課税)モデルルール
