ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
日本からドバイへの移住を考える方の多くは、税負担の軽さを最初の動機として挙げられます。所得税も住民税もない国で暮らせば手取りが大きく増えるという期待は、たしかに移住の入り口として強力です。ところが、UAEで実際に暮らす外国人居住者を対象にした最新の意識調査を見ると、移住者がこの国に住み続ける理由は、すでに無税であることだけではなくなってきています。
今回は、UAE居住者の本音をとらえた調査結果を紹介しながら、ドバイ移住を税金の損得だけで判断することの危うさと、日本人がドバイへ移る際に避けて通れない税務の論点について、当会計事務所の実務経験を踏まえて整理いたします。
調査が示すドバイ移住者の本音
UAEの外国人居住者を対象にした調査「UAE Expat Monitor」によると、回答者の94パーセントが今後しばらくUAEに住み続ける予定だと答えました。この調査はARCET GlobalがQuestionProと共同で実施したもので、2026年4月と5月にUAEの7つの首長国すべてで、18歳以上の駐在員708人を対象に行われています。なお回答者の57パーセントは西欧出身者で、この比率は意図的に設定されたものであり、UAEの外国人人口全体の構成をそのまま反映したものではないと注記されています。
注目すべきは、UAEに留まる理由として無税収入が最上位ではなかった点です。残留理由として最も多く挙げられたのは生活の質と雇用機会で、いずれも88パーセントの回答者が重要だと答えました。次いで安全性と治安の良さが87パーセントで続きます。無税収入を重要な理由として挙げた回答者も81パーセントと依然として高い水準ではあるものの、順位としては生活の質や安全性の後ろに位置しています。
さらに、97パーセントの回答者がUAEを安全で安定した居住地だと考え、87パーセントが母国よりUAEのほうが機会に恵まれていると回答しました。今後5年間でUAEのイノベーションが増えると予想する回答者も87パーセントにのぼります。調査に登場するUAE在住9年の会社員は、来た当初は無税給与が大きな魅力だったが、今は生活の質や安全、効率的な公共サービス、成長機会こそが住み続ける理由だと語っています。
無税という入り口だけで移住を決めない
この調査結果が示すのは、ドバイという移住先が単なる税金回避の場所から、生活の基盤そのものとして選ばれる場所へと成熟してきているという現実です。当会計事務所が日本の方から移住相談を受ける際にも、当初は税負担の話から入った方が、最終的には子どもの教育環境や治安、ビジネスの広がりを理由に移住を決断されるケースが確実に増えています。
逆に言えば、無税であることだけを動機に移住を決めると、移住後の生活が想定と合わずに後悔につながりやすいということでもあります。手取りが増えても、住居費や教育費、生活コストが日本と大きく異なり、家族の生活設計が追いつかないという声も実際にあります。税の損得は移住判断の一要素にすぎず、生活全体の設計の中に位置づけて考えることが欠かせません。
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ドバイの無税は本当?居住者が押さえる前提
無税が残留理由の一位ではないとはいえ、税負担の軽さがドバイの大きな魅力であることは変わりません。ただし、ドバイが完全な無税であるという理解には注意が必要です。UAEには個人の給与所得や配当、キャピタルゲインに対する個人所得税はありません。この点は日本と比べて圧倒的に有利です。一方で、2023年6月以降は事業所得に対して9パーセントの法人税が導入され、付加価値税であるVATも5パーセント課されています。
つまりドバイは、個人の給与や投資の利益には課税しないものの、事業を営む場合には一定の税負担が発生する国です。フリーランスや法人を通じて事業を行う日本人移住者にとっては、この法人税とVATの仕組みを正しく理解しておくことが重要になります。無税という言葉のイメージだけで移住すると、事業を始めた段階で想定外の税務対応に直面することになりかねません。
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日本人移住者が避けて通れない出国の税務
ドバイの生活の魅力に惹かれて移住を決めたとしても、日本人にとっては出国の段階で日本側の税務という関門が待っています。とりわけ重要なのが、一定の資産を持つ方が出国する際に課される国外転出時課税、いわゆる出国税です。これは所得税法60条の2に定められた制度で、有価証券や投資信託などの対象資産が合計1億円以上ある方が日本を出て非居住者になる際、まだ売却していない含み益に対しても課税する仕組みです。
加えて、住民税にも注意が必要です。住民税は毎年1月1日時点で日本に住所がある人に対して前年の所得をもとに課税されるため、出国の時期によって負担する住民税の額が変わってきます。生活の質に惹かれてドバイへ移ることと、日本側の出国税や住民税を適切に処理することは別の話であり、移住の意思が固まった段階で早めに税務面の準備を始めることが、移住をスムーズに進める鍵になります。
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よくある間違い
移住相談の現場で繰り返し見受けられる誤解を整理します。第一に、ドバイは無税だから移住すれば税金の悩みから完全に解放されるという思い込みです。個人の給与や投資の利益に課税がないのは事実ですが、事業所得には法人税が、消費にはVATがかかります。また日本側でも出国税や住民税、一定期間の相続税など、出国してもなお課税が及ぶ場面が残ります。
第二に、無税というメリットだけで移住先を決めてしまうケースです。今回の調査が示すように、実際に住み続ける人が重視しているのは生活の質や安全性であり、税の損得は移住満足度の一部にすぎません。第三に、移住さえすればすぐに日本の課税対象から外れるという誤解です。非居住者になるための判定には実態が問われ、生活の本拠を本当にドバイへ移したと言える状態を作る必要があります。
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まとめ
📋 今回のポイント
- UAE居住者の94パーセントが残留を希望し、残留理由の上位は生活の質と雇用機会だった
- 無税収入を重視する回答者は81パーセントで、生活の質や安全性の後ろの順位だった
- ドバイは個人の給与や投資には無税だが、事業所得には9パーセントの法人税、消費には5パーセントのVATがある
- 日本人移住者は出国税や住民税など日本側の税務を避けて通れない
- 税の損得だけで移住を決めず、生活全体の設計の中に位置づけることが大切である
ドバイ移住の価値が無税だけにとどまらず生活の質へと広がっている今こそ、税の損得を冷静に見極めたうえで生活全体の設計を行うことが、移住成功の鍵になります。当会計事務所では、ドバイ移住と法人設立を専門とする日本の公認会計士として、移住の意思決定段階での税務シミュレーションから、出国税の試算、UAEでの税務居住者証明書の取得、現地での法人運営まで、移住の前後を通じて一貫してサポートしております。当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠法令・参考資料
- Khaleej Times「94% of UAE expats plan to stay; tax-free income no longer top reason」(2026年6月27日) https://www.khaleejtimes.com/uae/94-percent-expats-plan-stay-tax-free-income-quality-of-life-safety-jobs
- UAE連邦法令第47号(2022年)法人税法(事業所得に対する9パーセントの法人税)
- 所得税法60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
- 国税庁タックスアンサー No.1478 国外転出時課税制度 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/1478.htm





