ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。本記事では、UAE VATについて解説します。
UAEでは2018年1月1日から標準税率5%の付加価値税(VAT)が導入されています。もっとも、ゼロ税率と免税の区別、指定ゾーンの特例、リバースチャージなど判断を要する論点は多いです。さらに2026年には2025年連邦法令第16号の改正と、仕入先の検証を義務づけるFTA決定第13号が加わり、制度の重心は申告から取引相手の確認へ移りました。
UAE VATの税率区分と適用範囲
UAEのVATは、標準税率5%、ゼロ税率0%、免税、課税対象外の4区分で、国内供給には原則5%が適用されます。ゼロ税率の主な対象は輸出、国際旅客輸送、投資用貴金属、新築住宅の初回供給、教育および医療、免税の主な対象は住宅用不動産の賃貸、金融サービス、裸地、国内旅客輸送です。
ゼロ税率と免税の決定的な違い
どちらも顧客から預かるVATは発生しませんが、異なるのは仕入税額控除の可否です。ゼロ税率の供給は課税供給に含まれるため仕入VATを全額控除できますが、免税の供給は控除できず自社のコストになります。申告負担を軽くする方法は、VAT申告を四半期から年次に変更する方法でも触れています。
VAT登録の義務と手続
強制登録と任意登録の閾値
過去12か月の課税売上高とリバースチャージ対象輸入額の合計がAED37万5,000(約1,612万円)を超えた場合、または今後30日以内に超える見込みなら登録が強制されます。任意登録は半額のAED18万7,500(約806万円)から可能です。
EmaraTaxでの登録と遅延の罰則
登録手続はFTAのポータルであるEmaraTaxから行い、取引ライセンスや設立書類、身分証明書を提出して審査を経てTRNが付与されます。期限内に登録しなければAED1万のペナルティが課されます。
申告と納付のサイクル
課税期間は原則四半期で、年間課税売上高AED1億5,000万以上の事業者は月次申告です。申告と納付の期限はいずれも課税期間終了後の翌月28日です。仕入VATが上回れば還付請求か繰越ですが、2026年の改正で繰越に5年の上限が入りました。
タックスインボイスの記載事項
仕入税額控除には要件を満たしたタックスインボイスの保持が前提で、記載に不備があると控除が否認され得ます。
標準タックスインボイスと簡易タックスインボイス
標準タックスインボイスは登録事業者への供給または対価AED1万超の供給に用います。記載事項は、Tax Invoiceという表示、双方の名称と住所とTRN、連続番号、発行日と供給日、供給の内容と数量、税抜対価、適用税率とVAT額です。簡易版は対価AED1万以下の消費者向け供給に用います。
2026年7月から電子インボイス制度のパイロットが始まっていますが、発行しただけでタックスインボイスになるわけではありません。施行規則第59条および第60条の記載要件を満たさなければタックスインボイスとして扱われず、仕入税額控除も認められません。
リバースチャージの仕組み
リバースチャージは、供給者ではなく受領者がVATを申告する仕組みです。国外からサービスを輸入した場合、受領者であるUAE法人が自ら5%を計算し、売上VATとして申告したうえで同額を仕入VATとして控除します。越境取引の課税関係はデジタルサービス・SaaSの越境VAT課税でも整理しています。国内取引でも投資用貴金属や一定の電子機器には適用されます。
見落としやすいのは、この制度が供給者がVAT上の非居住者であることを前提とする点です。FTAは外国企業の従業員がUAEの顧客先で常時勤務する例を挙げ、固定的施設が成立するため非居住者に該当しないとしています。この場合は供給者側がVAT登録して5%を課しますので、受領者が誤って処理すると税額票のないまま控除を主張することになります。
指定ゾーンと輸出入取引
指定ゾーンでの物品とサービス
閣議決定で指定された地域(Designated Zone)はVAT上UAE国外として扱われ、ゾーン内で完結する物品の供給と移動は対象外です。ただしこの特例は物品に限られ、サービスの供給には5%が課される点に注意が必要です。相手が同じゾーン内でも標準税率が適用され、フリーゾーンが自動的に指定ゾーンになるわけではありません。
輸出入と観光客向け還付
輸出はゼロ税率ですが通関書類の保持が要件で、輸入は通関時に5%が課され登録事業者が申告書上でリバースチャージで精算します。関税との関係はドバイ法人の関税実務で整理しています。
VAT法の改正とFTA公開解説VATP046
FTAは2026年9月4日に公開解説VATP046を発出しました。2024年連邦法令第16号(2024年10月30日施行)と2025年連邦法令第16号(2026年1月1日施行)の解説で、原文はFTAのVATガイド・公開解説の一覧から入手できます。居住者と電子インボイスの定義を動かした2024年改正の影響も広範です。
| 改正条文 | 内容 | 施行 |
| 第1条(定義) | 事業所または固定的施設を有する者は居住者、電子インボイスの定義を新設 | 2024年10月30日 |
| 第55条・第65条・第70条・第76条 | 電子形式での保管が控除要件、電子発行と送信を義務づけ、期限内未発行は行政罰金 | 2024年10月30日 |
| 第48条第1項 | 輸入に係る自己宛てインボイスが不要、2026年1月1日以後の輸入に限る | 2026年1月1日 |
| 第54条bis | 脱税に関連する供給の控除を否認、検証未実施は認識とみなす | 2026年1月1日 |
| 第74条第3項 | 繰越VATは課税期間の末日から5年で失効 | 2026年1月1日 |
2024年連邦法令第16号で入った改正 電子インボイスと非居住者の定義
まず第1条の定義が改正され、UAEに事業所または固定的施設を有する者は、所有していなくても居住者に当たることが明確化されました。賃借でも顧客の敷地の一部を使うだけでも成立するため、リバースチャージの判定に直結します。
あわせて電子インボイス、電子クレジットノート、電子インボイスシステムの定義が新設されました。第55条第1項(c)により、電子インボイスの発行が求められる場合または実際に発行された場合は、電子形式で保管していなければ仕入税額控除ができません。
2025年連邦法令第16号で入った改正 控除否認と還付の5年ルール
第48条の改正で関連物品および関連サービスの輸入時の自己宛てタックスインボイス発行義務が廃止されましたが、対象は2026年1月1日以後の輸入に限られ、それ以前はサービスがVATP044、物品がVATP045の扱いです。申告書に計上する義務と書類の保管義務は残ります。
2026年9月の閣議決定第149号で施行規則が改正されました
2026年9月1日には、VAT施行規則を改正する閣議決定第149号(2026年)が公布され、原則2026年10月1日から発効しています。第57条の資本資産スキームの閾値がAED500万(約2億1,500万円)に上がり、この金額未満の固定資産は調整計算から外れます。第52条にはサービスの受領者がUAE国外にいるかを判定する30日間のテストが新設され、供給の期間中に30日を超えてUAEに滞在しない場合にゼロ税率を適用できる形に整理されました(Grant Thornton UAEの解説)。
第54条には現金払いの仕入れの控除を制限する規定が入りましたが、金額の閾値を定める大臣決定は2026年9月13日時点で未公表です。第60条ではTax Credit Noteの記載文言の要件も追加されました。ドバイへ移住して法人を設立される方は、固定資産の取得計画と国外顧客向けサービスのゼロ税率判定を改正後の条文で組み直す必要があります。
仕入先と供給の検証義務
影響が大きいのは第54条bisで、供給の連鎖が脱税に関連していた場合の控除が否認されます。決定第13号は2026年10月1日から適用され、EYの解説も事実上のデューデリジェンス義務と整理しています。詳しくは仕入先の検証が2026年10月から義務化|FTA決定第13号で仕入税額控除が否認される条件をご覧ください。
罰則とドバイ移住者が注意すべき点
主要な行政ペナルティと自主開示
主な行政ペナルティは、登録遅延がAED1万(約43万円)、申告遅延が初回AED1,000、記録保存違反が初回AED1万です。納付遅延は期限から2%、以後は月4%が加算されます。
日本から移住して法人を持つ場合
日本からドバイへ移住しUAE法人で事業を行う方にとって、VATは法人税とは別の管理項目で、スモールビジネスレリーフのような緩和はなく閾値超えで申告が必要です。また移住時に日本の有価証券を1億円以上保有していれば出国税の対象です。国税庁のタックスアンサーに要件が示されており、出国前に確認すべき論点です。
まとめ
📋 今回のポイント
- ゼロ税率と免税は仕入税額控除の可否が正反対
- 強制登録はAED37万5,000超、任意登録はAED18万7,500以上
- 申告は原則四半期、期限は翌月28日
- 事業所または固定的施設があれば居住者で、リバースチャージは使えない
- 電子インボイスは電子形式での保管が仕入税額控除の要件
- 繰越VATは5年で失効、2026年10月から仕入先の検証が義務
- 閣議決定第149号で資本資産の閾値はAED500万、第52条に30日テストが新設
UAEのVATは標準税率が低いぶん見落とされやすいですが、一連の改正で控除を受ける側の責任が重くなりました。供給者の居住者区分と実在性、書類の保管形式まで自社で確認する体制が必要です。
当会計事務所は、UAEのVAT登録から申告、リバースチャージの実務、税務調査対応まで一貫してサポートしています。仕入先検証チェックリストの整備もお引き受けしています。当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- Cabinet Decision No. 149 of 2026(VAT施行規則改正) – 2026年9月1日公布、原則2026年10月1日発効
- Federal Decree-Law No. 8 of 2017 – UAE VAT法、No. 16 of 2024とNo. 16 of 2025で改正
- Federal Decree-Law No. 16 of 2024 – VAT法改正、2024年10月30日施行
- VATP046 – VAT法改正に関するFTA公開解説、2026年9月発出
- FTAのVATガイド・公開解説の一覧 – VATP046の掲載ページ
- Cabinet Decision No. 52 of 2017(施行規則第59条・第60条)、No. 59 of 2017、No. 49 of 2021
- Federal Decree-Law No. 28 of 2022(税務手続法)
- FTA Decision No. 13 of 2026 – 供給の検証、2026年10月1日適用
- FTA VAT公式ページ、VAT法令一覧、閣議決定一覧、連邦法令一覧
- KPMG UAEによる2025年連邦法令第16号の解説
- EYによるFTA決定第13号の解説 – デューデリジェンス要件の整理
- EmaraTax、UAE財務省、Planet
- 国税庁タックスアンサー No.1478 – 国外転出時課税、いわゆる出国税
※本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。法令や実務運用は変更され得るため、最新の公式情報または当会計事務所までご確認ください。




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