外貨同士の交換も雑所得|令和8年最高裁初判断を公認会計士が解説

投稿:2026年6月17日更新:2026年6月17日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

令和8年6月16日、最高裁判所が外貨を別の外貨へ交換した際に生じた為替差益について、所得として課税対象になるとの初判断を示しました。外貨建ての資産運用をしている富裕層にとって、これは決して他人事ではありません。とりわけドバイ移住を準備する段階で外貨建てポートフォリオを整理する場面では、円に戻していないつもりでも課税が発生し得るという落とし穴が、今回の判決ではっきりと示されたからです。出国税の話ばかりに気を取られていると、その手前にあるこの為替差益課税を見落としかねません。今回はこの判決の中身と、ドバイ移住を見据えた実務上の注意点を整理してお伝えします。

最高裁が示した初判断の内容

今回の事案は、東京都内に住む男性がスイスの銀行口座に計105億円を送金して資産運用を一任し、その過程で外国通貨が別の国の通貨へ交換された際に生じた為替差益について、税務署が雑所得として課税したことの是非が争われたものです。男性側は、日本円に換金するまで利益は確定しないと主張していました。

これに対して最高裁第3小法廷は令和8年6月16日、課税できるとの初判断を示し、男性側の上告を棄却しました。裁判官5人全員一致の結論で、国側の勝訴が確定しています。小法廷は、円との関係で変動していた外貨の経済的価値は、別の外貨や有価証券を取得した時点で固定化されて利益が確定するとし、その円換算額が所得税法の収入すべき金額に当たると判断しました。1審の東京地裁、2審の東京高裁がいずれも国側勝訴としていた判断が、そのまま維持された形です。

ここで押さえるべきは、課税のタイミングです。日本円に戻したときではなく、外貨を別の外貨や別の資産に交換したその瞬間に、含み益が実現したものとして課税されるという点が、最高裁によって明確に確認されました。

為替差益が課税される仕組み

そもそも個人の為替差損益は、外貨を保有しているだけでは課税されません。しかし、その外貨を使って別の資産を手に入れた時点で、それまで評価差額にすぎなかった含み益が実現したものとして扱われます。国税庁の質疑応答事例でも、外貨預金を払い出して外貨建てMMFを購入した場合や、保有する外貨を他の外貨へ交換した場合には、その時点で為替差益を所得として認識する必要があるとされています(国税庁質疑応答事例)。

具体的には、円高のときに1ドル100円で取得した外貨を、1ドル160円のときに別の外貨や金融商品へ交換すれば、その差額が為替差益となります。この為替差益は原則として雑所得に区分され、総合課税の対象です。給与など他の所得と合算され、累進税率が適用されるため、所得が大きい富裕層では所得税と住民税を合わせて最高で55パーセント前後の負担となり得ます。為替差損が出た場合は他の雑所得とは相殺できますが、給与所得など別の区分の所得とは損益通算できず、相殺しきれない損は切り捨てとなる点も見落とせません。

今回の最高裁判決は、この外貨同士の交換という局面について、これまで明確な司法判断がなかったところに初めて決着をつけたものです。国税当局は従来から課税対象として運用してきており、その実務を最高裁が追認した格好になります。

補足意見が示した立法への課題

注目すべきは、判決に付された補足意見です。裁判官出身の林道晴裁判長を含む3人は、為替差損益への課税については所得税法に明文の規定がなく、本判決はあくまで現行法を前提とした解釈論にとどまると指摘しました。その上で、外貨建ての投資や国際取引が活発になっている現状を踏まえ、課税のあり方を抜本的に検討し、必要な法的手当てを講じることが強く望まれると付言しています。

これは実務に対する重い示唆です。為替差益の課税ルールが今後法律として整備される可能性があり、その整備の方向によっては、これまで曖昧なまま放置されてきた取引にも課税が及ぶ余地が出てきます。外貨建て資産を多く持つ層は、現行の解釈実務だけでなく、将来の制度変更も視野に入れて資産構成を点検しておく必要があります。

ドバイ移住前の外貨整理に潜む落とし穴

ここからがドバイ移住を考える方にとっての本題です。ドバイへ移住して非居住者になれば、その後に得る為替差益や投資益は日本の課税対象から外れます。だからこそ移住前に外貨建てポートフォリオを整理し、通貨配分を組み替えたり、米ドルからユーロへ持ち替えたりといったリバランスを行う方が少なくありません。しかし今回の判決が示したとおり、外貨を別の外貨や別の資産に交換した時点で為替差益が実現します。移住直前に良かれと思って行った外貨の組み替えが、まだ日本の居住者である段階で多額の雑所得を生むのです。

さらに見落としやすいのが、出国税との関係です。出国税、すなわち国外転出時課税は、1億円以上の有価証券等を保有する居住者が国外転出する際に、その含み益に対して所得税等を課す制度です(国税庁タックスアンサーNo.1478)。出国税の対象資産の中心は株式や投資信託などの有価証券であり、外貨預金そのものは原則として対象外です。ところが、外貨建ての有価証券を移住前に整理しようとして売却し外貨で受け取り、その外貨をさらに別の外貨へ交換すれば、出国税とは別に為替差益課税が発生します。出国税のシミュレーションだけを精緻に行っても、その前段の外貨整理で生じる為替差益を計算に入れていないと、想定外の納税が後から判明することになりかねません。

関連記事:出国税(国外転出時課税)の納税猶予制度|申請要件と最大10年延長ルールを解説

外貨建て有価証券を持つ場合の注意点

外貨建ての株式や債券を保有している場合、課税のタイミングはさらに複雑です。外貨で株式を購入した時点で、その購入に充てた外貨の取得時からの為替差益が雑所得として実現します。一方、その株式を売却して得た譲渡損益には、保有期間中の為替変動も含めて譲渡所得として課税されます。つまり一つの投資の中で、購入時には雑所得としての為替差益、売却時には譲渡所得という二段階の課税が生じる構造になっています。

厄介なのは、外貨で株式を売却し、その代金をいったん外貨で受け取ってから新たな外貨建て商品を買い直すようなケースで、為替差益の存在を金融機関が通知してくれる仕組みがないことです。外貨預金の利子や為替差益については支払調書が提出されないため、納税者自身が取得時のレートと数量を管理し、総平均法に準ずる方法で計算して申告する責任を負います。海外口座を通じた運用ほどこの自己管理が難しく、申告漏れが起きやすい領域です。今回の判決は、こうした海外運用の場面にこそ正面から課税が及ぶことを確認したものだといえます。

関連記事:国外転出時課税の課税シミュレーション【1億円超の非上場株式オーナー向け】

よくある間違い

最も多い誤解は、日本円に戻していないから為替差益は発生していないという思い込みです。今回の最高裁判決が明確にしたとおり、外貨を別の外貨や別の資産に交換した時点で利益は確定し、課税対象となります。円転していないことは非課税の理由にはなりません。

次に多いのが、ドバイ移住を決めたから外貨は移住後に整理すればよいという考えと、逆に移住前にきれいに組み替えておこうという考えのいずれかに偏ってしまうことです。移住後の非居住者期間に行う組み替えは日本の課税対象から外れますが、移住前に居住者の立場で行えば為替差益が課税されます。整理のタイミングをいつにするかで結論が正反対になるため、移住スケジュールと一体で設計する必要があります。

三つ目は、出国税さえ対策すれば移住時の課税は完結すると考えてしまうことです。出国税の対象は有価証券等の含み益であり、外貨整理に伴う為替差益はその外側にあります。両者は別の課税であり、出国税のシミュレーションだけでは移住前後の税負担の全体像はつかめません。

関連記事:ドバイ移住で非居住者と認定されるための実務ガイド|「生活の本拠」の判断基準

まとめ

📋 今回のポイント

  • 最高裁令和8年6月16日判決、外貨同士の交換時点で為替差益実現と初判断
  • 為替差益は雑所得・総合課税、富裕層は最高55パーセント前後の負担
  • 補足意見は明文規定なしの解釈論と認識、今後の立法対応に注視
  • 移住前の外貨整理は居住者段階の課税イベント、移住スケジュールと一体設計
  • 出国税と為替差益課税は別物、両建てでのシミュレーション必須

当会計事務所は、ドバイ移住と日本の出国税対策を専門とし、外貨建てポートフォリオの整理に伴う為替差益の試算から、出国税の1億円判定シミュレーション、移住タイミングの設計、非居住者要件の確立、ドバイ法人を用いた資産保有構造の組み替えまで一貫してご支援しています。今回の最高裁判決を受けて、ご自身の外貨建て資産がどの局面で課税されるのかを移住の前に正確に把握しておくことが、想定外の納税を避ける最も確実な備えになります。

外貨建て資産の整理やドバイ移住に伴う出国税の取り扱いについて、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。

根拠条文・出典

  • 所得税法第36条(収入金額)、第57条の3(外貨建取引の換算)
  • 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例、国税庁タックスアンサーNo.1478)
  • 最高裁第3小法廷 令和8年6月16日判決(外貨同士の為替差益の課税、裁判官5人全員一致、国側勝訴確定)
  • 国税庁質疑応答事例「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して外貨建MMFに投資した場合の為替差損益の取扱い」
  • 共同通信、時事通信、読売新聞、毎日新聞(令和8年6月16日報道)

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

の記事一覧へ

コメントをどうぞ!

メールアドレスが公開されることはありません。

twelve + 14 =

パーマネントトラベラーは危険?税務上の居住地がない場合の取り扱い

お気軽にお問い合わせください