ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
ドバイで事業を営んでいると、商品やサービスの対価をビットコインやUSDTなどの暗号資産で受け取る場面が増えています。ここで悩ましいのが、暗号資産の価値をどのようにUAEディルハムへ換算してVAT申告書に記載するのかという問題です。暗号資産の価格は取引所ごとに異なり、しかも刻一刻と変動します。この換算方法があいまいなままでは、申告額の根拠が問われかねません。
連邦税務庁が2026年7月17日に公表したFTA Directive on Tax Transactions No. 3 of 2026は、まさにこの暗号資産のAED換算方法を初めて標準化するものです。今回はドバイ在住の日本人事業者の視点から、この新しい換算ルールの中身と、日本の暗号資産の取扱いとの違いまで整理していきます。
前提となる暗号資産のVAT上の位置づけ
換算方法の話に入る前に、UAEにおける暗号資産のVAT上の扱いを押さえておく必要があります。UAEでは2024年の改正により、暗号資産の移転や交換そのものは金融サービスに準じる取引として、2018年1月1日にさかのぼってVAT免税とされています。この扱いはFTAの仮想資産に関するVATページでも確認できます。
つまり、暗号資産を暗号資産に交換する、あるいは暗号資産を移転するといった取引自体には、原則としてVATはかかりません。今回のDirective No.3が対象にしているのは、暗号資産そのものの売買ではなく、課税対象となる商品やサービスの対価として暗号資産を受け取る場合の、その対価の価額をAEDでいくらと評価するかという点です。ここを混同しないことが理解の出発点になります。
Directive No.3 of 2026が定める換算方法
3つの承認取引所の平均レートを使う
新しい指令が定める換算方法は明快です。FTAが公表する中央集権型の公開暗号資産取引所リストの中から3つの取引所を選び、その3社が公表するレートの単純平均を用いて暗号資産の価額をAEDに換算します。選んだ3つの取引所は暦年を通じて同じものを使い続ける必要があり、年の途中で恣意的に有利な取引所へ乗り換えることは認められません。
FTAが現時点で承認している取引所は次のとおりです。
| 承認された暗号資産取引所(2026年7月時点) |
| Binance FZE |
| Bybit Fintech FZE |
| Deribit FZE |
| Bitget |
| Payward FZCO |
レートを適用する時点
換算に用いるレートは、供給が行われた日時、または対価を受け取った日時のいずれかの時点で成立しているレートを使います。VATの課税時期のルールに沿って、どちらの時点で価額を確定させるかを判断することになります。暗号資産は価格変動が大きいため、同じ取引でも時点が異なれば換算額が変わり得ます。この点は日々の記帳で特に注意が必要な部分です。
エビデンスの保持義務
事業者は、換算に用いた3つの取引所のレートについて、その根拠となる記録を保持しておく必要があります。後日の税務調査で換算額の妥当性を問われた際に、どの取引所のいつのレートを使ったのかを示せるようにしておくことが求められます。承認リストにない取引所のレートしか得られない場合の取扱いについては、FTAが別途パブリッククラリフィケーションを公表する予定とされています。
ドバイ在住事業者にとっての実務ポイント
この指令は、暗号資産で決済を受ける可能性のあるドバイの事業者すべてに関係します。たとえば、ドバイのフリーゾーン法人がコンサルティングサービスを提供し、その対価としてUSDT相当を受け取ったとします。このサービスがUAE国内での標準税率5パーセントの課税取引に該当する場合、受け取ったUSDTの価額を承認3取引所の平均レートでAEDに換算し、その5パーセントをVATとして申告することになります。
ここでの換算額が、そのまま課税標準になります。仮に受領時点の平均レートで10万AED相当と算定されれば、5000AED、43円換算で約21万5千円がVAT額の計算基礎に組み込まれます。暗号資産の価格が乱高下する局面では、いつの時点のレートを課税標準とするかで納税額が変わってくるため、社内の経理フローに換算時点のルールを明文化しておくことが重要です。
暗号資産を保有し続ける場合の含み益に対する法人税の扱いは、VATとはまったく別の論点として整理する必要があります。ドバイ法人での暗号資産の期末評価と法人税の関係については、次の記事で詳しく解説しています。
日本の暗号資産の取扱いとの違い
ドバイ在住であっても、日本での納税義務が残る方や、将来の帰国を視野に入れている方にとっては、日本側の取扱いとの違いを理解しておくことが欠かせません。日本では、暗号資産で商品やサービスの対価を受け取った場合、その暗号資産の時価をもって課税資産の譲渡等の対価の額とする点はUAEと似ています。しかし、日本の消費税では暗号資産、いわゆる支払手段に類するものの譲渡自体は非課税とされており、UAEが金融サービスとして免税に位置づけているのと考え方が近い一方で、細部の取扱いには差があります。
大きく異なるのは所得課税の側面です。日本では個人が暗号資産を売却したり、暗号資産で決済したりして生じた利益は原則として雑所得となり、給与所得などと合算して最大で住民税を含め55パーセント程度の累進課税がかかります。一方、UAEには個人所得税がなく、法人であっても年間37万5000AEDを超える課税所得に対して9パーセントの法人税がかかるにとどまります。この差が、暗号資産を扱う事業者や投資家がドバイへ移住する大きな動機になっています。
もっとも、日本の居住者のまま暗号資産取引を行えば全世界所得課税の対象になり、ドバイへ移住して非居住者となる際には、国外転出時課税、いわゆる出国税の対象資産に暗号資産が含まれるかどうかといった論点も生じます。移住のタイミングと資産構成の設計は、VATの換算ルールとは別の次元で慎重に検討する必要があります。
よくある間違い
暗号資産取引がすべて非課税だと思い込む
最も多い誤解は、暗号資産は免税だからVATを気にしなくてよいという思い込みです。免税とされているのは暗号資産の移転や交換そのものであり、暗号資産を対価として受け取った商品やサービスの供給が課税取引であれば、その供給にはVATがかかります。今回の換算ルールは、まさにこの課税取引の場面で使うものです。
取引所を都度都合よく選んでしまう
換算に使う3つの取引所は暦年を通じて固定する必要があります。取引ごとにレートの高い取引所や低い取引所を選ぶといった運用は認められません。年初に使用する3社を決め、その根拠記録を残しておく運用が安全です。
換算時点をあいまいにする
供給時点なのか対価受領時点なのかを明確にしないまま換算すると、後の調査で指摘を受けるおそれがあります。自社の取引パターンに応じて、どの時点のレートを課税標準とするかをあらかじめ整理しておくことが求められます。
まとめ
📋 今回のポイント
- FTA Directive No.3 of 2026が暗号資産のAED換算方法を2026年7月に標準化
- FTA承認の3つの取引所の平均レートを暦年を通じて固定して使用
- レートは供給時点または対価受領時点のものを適用し、根拠記録を保持
- 対象は暗号資産で対価を受け取る課税取引であり、暗号資産の移転や交換自体は従来どおり免税
- 日本は暗号資産の利益が最大55パーセント程度の累進課税、UAEは個人所得税なし
- 移住のタイミングと出国税の論点はVAT換算とは別に慎重な設計が必要
当会計事務所は、ドバイと日本の双方で会計事務所を運営し、暗号資産を扱うドバイ在住の日本人事業者の国際税務とコンプライアンスをサポートしています。暗号資産で決済を受ける際のVAT換算の社内ルール整備、法人税の含み益課税への対応、移住スケジュールと出国税の設計まで、個別の事情に応じてご案内しています。ドバイでの暗号資産ビジネスを安心して進めたい方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- FTA Legislation(連邦税務庁 法令ページ) – Directive on Tax Transactions No. 3 of 2026 for Value Added Tax on the Method of Converting the Value of Digital Currencies into UAE Dirham(2026年7月17日公表)
- FTA 仮想資産に関するVATページ – 暗号資産の移転・交換の金融サービスとしての免税扱い
- UAE財務省(Ministry of Finance) – VAT制度の全般的枠組み
- Cabinet Decision No.100 of 2024(VAT執行規則改正)、Public Clarification VATP040
- 日本 消費税法別表第一(非課税取引・支払手段等の譲渡)、所得税法(暗号資産に係る雑所得)



