電子インボイスが2026年7月1日にパイロット開始|中小企業はいま何をすべきか解説します

投稿:2026年7月2日更新:2026年9月16日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

2026年7月1日、UAEの電子インボイス制度(eInvoicing)が任意参加のパイロットフェーズとしてスタートしました。ドバイで法人を運営されているお客様から、うちも7月から対応が必要なのかというご相談をいただいています。結論として、年商5000万AED未満の中小企業がいま慌てて何かを導入する必要はありません。ただし制度の全体像と自社の位置づけは、いまのうちに把握しておくべきです。UAE財務省が公開している電子インボイスの公式ポータルと、直近の報道をもとに、ドバイ在住者・法人オーナーの目線で整理します。

7月1日に始まったのは強制ではなくパイロット

今回7月1日に始まったのは、招待制のパイロットプログラムと、希望する事業者が参加できる任意採用フェーズです。Gulf Newsの報道によれば、UAE財務省と連邦税務庁は6月26日にシャルジャで説明会を開き、5コーナーモデルのパイロット開始を発表しました。この段階では誰にも強制されておらず、参加は任意です。

制度の法的な枠組みは、連邦法令第16号および第17号(2024年)と、閣議決定第106号(2025年)、閣僚決定第243号・第244号(2025年)によって整備されています。技術面ではPeppolネットワーク上でPINT AEというUAE独自のXMLフォーマットを用い、認定サービスプロバイダー(ASP)経由で請求データを準リアルタイムに報告します。紙やPDFに代えて機械可読の構造化データをやり取りする点が最大の変化になります。

対象・区分 ASP選定の期限 強制適用の開始
全事業者(任意パイロット) 2026年7月1日から参加可能 任意(罰則なし)
年商5000万AED以上の大企業 2026年10月30日 2027年1月1日
年商5000万AED未満の事業者 2027年3月31日 2027年7月1日
政府機関 2027年3月31日 2027年10月1日
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中小企業に強制が及ぶのは2027年7月から

ドバイの日系企業の多くは、年商5000万AED(1AED43円換算で約21億5000万円)未満に収まります。この規模の事業者への強制適用は2027年7月1日からで、ASPの選定期限は2027年3月31日ですので、実質的な準備期限まで1年半以上の猶予があります。

大企業とは事情が異なります。年商5000万AED以上の大企業は、ASPの選定期限が2026年10月30日、強制適用が2027年1月1日と、すでに数か月後に迫っています。PwCの2026年6月の実務解説でも、大企業は待ったなしのフェーズに入っている一方、中小企業には段階的なスケジュールが与えられていると整理されています。

フリーゾーン企業も原則として対象になる

QFZPでも請求書フォーマットの義務は免除されない

電子インボイスの義務は、閣僚決定第243号(2025年)に基づきUAEで事業を行うすべての者に及びます。適格フリーゾーンパーソン(QFZP)の地位を持っていても、指定地域(Designated Zone)で活動していても、請求書フォーマットの義務は免除されません。DMCC、JAFZA、DIFC、ADGMなど、どのフリーゾーンでもB2BとB2Gの取引はメインランドと同じPINT AE形式での発行が求められます。

法人税で語られるフリーゾーンだから0%という優遇と、電子インボイスの義務はまったく別の話です。税率の優遇があっても請求書の様式や報告義務は残るという構造は、法人税の申告義務にも共通しています。

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義務の根拠条文と仕入税額控除の要件

FTAは2026年9月4日に公開解説VATP046を発出し、電子インボイス制度がVAT法のどの条文に支えられているのかを条項ごとに明示しました。根拠は2024年連邦法令第16号による改正で、2024年10月30日から施行されています。まずVAT法第1条に電子インボイスシステム、電子インボイス、電子クレジットノートの定義が新設され、タックスインボイスおよびタックスクレジットノートの定義に電子版が含まれることになりました。公開解説の原文はFTAのVATガイド・公開解説の一覧に掲載されています。

経理実務にいちばん重く響くのは第55条第1項(c)の改正です。電子インボイスの発行が求められる場合、または実際に発行された場合、電子インボイスの形式で保管していなければ仕入税額控除ができません。紙に印刷したものやPDFを別途保存しているだけでは要件を満たさない可能性があり、保管の形式そのものが控除の要件に組み込まれたという意味になります。あわせて第55条第1項(d)が新設され、閣議が仕入税額控除について追加の要件を定められるようになりました。

条文 内容 実務上の意味
第1条 電子インボイスシステム、電子インボイス、電子クレジットノートの定義を新設 タックスインボイスの定義に電子版が含まれる
第55条第1項(c) 電子インボイスの形式での保管を仕入税額控除の要件とする 保管形式が不適切だと控除そのものが否認される
第55条第1項(d) 閣議が仕入税額控除について追加要件を定められる 今後の閣議決定で要件が上乗せされる可能性がある
第65条第5項 対象登録者にタックスインボイスの電子発行と送信を義務づけ 電子インボイス義務化の直接の根拠条文
第70条第4項 タックスクレジットノートも電子形式で発行し送信する 返品や値引きの訂正処理も電子化の対象になる
第76条第4項・第5項 法定期間内に発行しない場合の取扱いを整理 行政罰金の賦課決定の対象として明確化された

対象となる登録者がタックスインボイスとタックスクレジットノートを電子形式で発行し送信する義務を負うのは、第65条第5項と第70条第4項です。義務の出どころが閣僚決定だけでなくVAT法本体にある点は押さえておきたいところです。第76条第4項および第5項の改正では、これらの書類または代替書類を法定期間内に発行しない場合、行政罰金の賦課決定(Administrative Penalty Assessment)の対象になることが整理されました。発行漏れが形式の不備ではなく罰金の対象として位置づけられたことになります。

日本の適格請求書等保存方式、いわゆるインボイス制度と考え方は似ていますが、UAEでは保管形式そのものが控除の要件に入っている点が明確に異なります。日本で電子帳簿保存法の対応を経験されている方でも、UAE側は別建てで社内ルールを設計する必要があります。ドバイ移住後も日本に法人や事業を残している方は、国外転出時課税、いわゆる出国税の判定と同様に、二か国の要件を並べて確認しておくと安全です。

中小企業がいま現時点でやっておくべきこと

猶予があるとはいえ、何もしなくてよいわけではありません。いま着手すべきことと、まだ着手しなくてよいことを区別しておくのが賢明です。以下は年商5000万AED未満の中小企業を念頭に置いた当会計事務所の推奨です。

いま着手しておくべきこと

やること 理由・ポイント
自社の年商が5000万AEDの内か外かを確認 属するフェーズで期限が変わるため最新の財務諸表で確認する
いま使っている会計・請求システムの棚卸し PINT AE形式のXMLを出力できるか対応予定をベンダーに確認する
請求データの整備状況を点検 TRN・取引先情報・税区分などが正確に管理されているか見直す
2027年前半のスケジュール感を把握 ASP選定期限2027年3月末、強制開始2027年7月の時間軸を把握する

あわせて確認したいのが会計システムの保管形式です。第55条第1項(c)の改正により、受領する立場でもデータを電子インボイスの形式のまま保管できるかが仕入税額控除に直結します。PDFへの変換保存しかできない仕様であれば、XMLなどの原本データを保持できるかをベンダーに確認してください。ASP経由で受領する場合も、ASP側の保管期間が終わった後に自社で原本を保持できるかを契約前に確かめる必要があります。

いま急いでやらなくてよいこと

反対に、ASPとの契約を今月中に結ぶことや、既存の請求書をすべて電子インボイスへ切り替えることは現時点では不要です。UAE財務省は認定サービスプロバイダーのリストを随時更新しており、選択肢は今後さらに増える見込みです。中小企業にとっての実質的な準備開始は、2026年後半から2027年初頭にかけてで十分間に合います。

よくある間違い

もっとも多い誤解は、7月1日から自社にも電子インボイスが強制されるというものです。7月1日に始まったのは任意のパイロットであり、中小企業の強制開始は2027年7月です。

次に多いのが、フリーゾーンだから対象外という思い込みです。前述のとおり請求書フォーマットの義務は免除されません。三つ目は、罰金があるなら早く契約しようという先走りです。閣議決定第106号に基づく月額5000AEDの罰金は、自社の強制適用日以降に対応しなかった場合の話であり、任意フェーズのいま罰則が発生することはありません。

四つ目は、電子インボイスを発行すればそれだけでタックスインボイスの要件を満たすという誤解です。VAT法上のタックスインボイスとして扱われるには、施行規則である2017年閣議決定第52号の第59条および第60条が定める記載要件を満たす必要があります。フォーマットが電子になっただけでは足りず、必要な記載事項が欠けていればタックスインボイスではありません。受け取る側にとっては控除の可否に直結しますので、ASPを導入するときはPINT AEの技術要件だけでなく、第59条と第60条の記載事項がすべて出力に含まれるかを検証してください。

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まとめ

📋 今回のポイント

  • 7月1日開始は任意パイロット、強制ではない
  • 年商5000万AED未満の強制開始は2027年7月
  • 義務の根拠はVAT法第65条第5項と第70条第4項
  • 第55条第1項(c)により保管形式が仕入税額控除の要件
  • 電子であっても施行規則第59条・第60条の記載要件が必要
  • いまは自社規模、会計システム、保管形式の棚卸しから

当会計事務所は、ドバイでの法人設立から会計・税務、電子インボイス対応まで日系企業のUAE進出を一貫してサポートしています。自社がどのフェーズに属し、いつまでに何を準備すべきかを整理したい方は、お気軽にお問い合わせください。

根拠条文・出典

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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