ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
2026年3月5日、日本とアラブ首長国連邦との間で包括的経済連携協定、いわゆる日UAE CEPAの交渉妥結が確認されました。日本が中東・アフリカ地域の国と結ぶ初めての経済連携協定であり、経済産業省の発表によれば自動車や自動車部品、鉄鋼製品といった日本の輸出関心品目について幅広く関税撤廃と削減を獲得しています。
報道は自動車輸出が中心でしたが、当会計事務所がドバイでいただくご相談の文脈で読むと、この協定は別の意味を持ちます。ドバイに法人を置いて中東やアフリカへ商売を広げたい方にとって、拠点としてのUAEの位置づけが変わる可能性があるからです。
本記事ではCEPAの内容を整理したうえで、ドバイに拠点を置く事業者が発効前に確認すべき論点を解説いたします。本土輸入との区分、原産地規則、輸入申告での特恵の申請体制という3点です。
日UAE CEPAで何が決まったのか
UAE側の無税割合が11.5%から96.4%へ
今回の協定でもっとも数字として大きいのは、UAE側の市場開放です。経済産業省が公表した協定概要資料によれば、物品貿易における輸入額に占める無税割合を協定発効後10年以内に、UAEは現行の約11.5%から約96.4%へ引き上げます。日本側は約98.7%から約99.9%への改善となります。
つまり、日本市場はもともと開放度が高かったため改善幅は限定的ですが、UAE側は約85ポイントもの上昇となります。これまで日本からUAEへ輸出される製品の大半には5%の関税が課されていましたが、それが段階的に消えていくということです。
| 項目 | 内容 |
| 交渉妥結日 | 2026年3月5日(東京での大臣会談で確認) |
| UAE側の無税割合 | 約11.5%から約96.4%へ(発効後10年以内) |
| 日本側の無税割合 | 約98.7%から約99.9%へ(発効後10年以内) |
| 完成車の関税撤廃 | 主な乗用車、バス、トラックは7年以内に撤廃 |
| 自動車部品と鉄鋼 | タイヤ、エンジン等を含め10年以内に撤廃 |
| 日本の農林水産品輸出 | 牛肉、水産物、味噌、醤油、パックご飯などで撤廃を獲得 |
| 清酒と焼酎 | 関税の撤廃ではなく削減にとどまります |
| 日本が守った品目 | 米、麦、豚肉、乳製品、甘味資源作物の重要5品目は撤廃対象外 |
関税だけではなく幅広いルールが整備されます
日UAE CEPAの実質的な価値は、関税率よりもむしろルール整備の部分にあると当会計事務所は考えています。ジェトロの報道および経済産業省の概要資料によれば、デジタル貿易、サービス貿易、税関手続きと貿易円滑化、知的財産、政府調達、補助金、投資円滑化、競争、環境と労働といった幅広い分野でルールが定められます。
デジタル貿易についてはサーバーの現地設置要求やソースコードの移転要求の禁止が規定されました。知的財産権については、フリーゾーンを含めた取締りの確保が明記されています。UAEにとってEPAで初めての補助金規律も導入され、税関分野では通常貨物の通関を48時間以内で処理する目標も盛り込まれています。
妥結と発効はまったく別のものです
現時点で確認されたのは交渉妥結にとどまります
ここが実務上もっとも重要な確認事項です。2026年3月5日に確認されたのは交渉妥結であり、協定はまだ発効していません。関税の恩恵を今日から受けられるわけではありません。
発効までには法的審査と協定文書の最終化、両国の外相または首脳レベルによる正式署名、日本側は国会承認、UAE側は内閣および国家評議会の承認という国内批准手続きを経る必要があります。税関の公表でも交渉妥結という表現にとどまっており、発効時期は現時点で確定していません。
したがって、輸出入の実務に携わる方が今すぐ準備すべきことは、自社製品のHSコードの確認と原産地規則への対応可能性の精査です。品目別原産地規則の詳細は協定文書の正式署名後に確定して公表される見通しです。
ドバイ在住の日本人にとっての実務インパクト
再輸出ハブとしてのUAEの価値が高まります
ドバイに法人を設立して中東やアフリカへ商品を展開されている日本人経営者の方は少なくありません。当会計事務所のお客様にも、日本から商品を仕入れてUAEを経由してGCC諸国やアフリカへ販売するモデルをお持ちの方がいらっしゃいます。
これまでこのモデルには、日本からUAEへの輸入時に5%の関税負担がのしかかるという構造的なコストがありました。CEPAが発効すれば、対象品目についてその負担が段階的に消えていきます。日本からの入口コストが下がることは、UAEを経由するビジネスモデルの経済性を素直に改善いたします。
ただし注意点があります。CEPAが改善するのは日本とUAEの間の取引に限られます。UAEからGCC諸国やアフリカへ輸出する際の関税や規制は別の枠組みで判断されます。UAEを経由すれば中東全域が無税になるという理解は誤りです。
日UAE間の経済活動の厚みが増しています
日本からUAEへの輸出額は2022年から2023年の平均で約1兆8548億円で、そのうち59.1%が輸送用機器です。両国の非石油分野の貿易額は2025年に203億米ドルに達し、前年比16.7%の伸びを示しました。
Khaleej Timesの分析記事では、CEPAが先端技術、物流、医療、教育を将来の協力の優先分野として位置づけていると指摘されています。
CEPAは税務の協定ではありません
法人税やVATの扱いは何も変わりません
ここで明確に申し上げておきたいことがあります。CEPAは通商協定であり、税務協定ではありません。UAEの法人税9%の枠組み、フリーゾーン法人のQFZP判定、VATの5%といった税制の内容は、CEPAによって一切変更されません。
関税は輸入時に課される国境措置であり、法人税やVATとは別の税目です。CEPAで関税が撤廃されても、UAEに輸入する際のVAT5%は従来どおり課税されます。フリーゾーンや指定地域を活用する場合のVATの取扱いも変わりません。
また、日本とUAEの間には別途、日UAE租税条約が存在します。CEPAと租税条約は別の枠組みですので、配当や利子の源泉税の扱いをCEPAで判断してはなりません。
フリーゾーンを経由する輸入では特恵の適用関係を確認します
ドバイの実務でもっとも判断が必要になるのは、ここです。UAEのフリーゾーンや指定地域は関税上、本土の関税領域の外側として扱われます。日本からフリーゾーンに搬入した時点では関税の課税関係が生じず、その後本土へ搬入する段階で関税の対象となります。
つまり、CEPAの特恵税率がコスト削減に直結するのは、UAE本土に引き取る取引です。フリーゾーンに在庫したまま第三国へ再輸出するモデルであれば、従来からUAE側の関税負担は生じていませんので、CEPAによる削減効果も生じません。自社の物流フローのうち、どの部分が本土輸入に当たるのかを先に分けておくと、メリットの大きさを見誤りません。
もう一つ確認が必要なのは、積替や保税輸送を伴う場合の取扱いです。日本が締結している既存のEPAでは一般に、物品が第三国を経由する場合でも単なる積替や一時蔵置の範囲にとどまるときに限って特恵が維持されるとされています。第三国で加工や商取引を介すると、特恵税率を失う可能性があります。具体的な規定は協定文書の公表後に確定しますので、現時点では自社の輸送ルートを洗い出しておく作業が準備となります。
進出の増加に伴って居住地の検討場面が増えます
CEPAの発効によって日本からUAEへ進出する企業が増えれば、現地法人の役員や駐在員としてドバイに移られる方も増えていきます。このときに検討が必要になるのは、出国のタイミングと居住者判定、源泉徴収の切り替え、納税管理人の届出、そして対象資産が1億円以上である場合の国外転出時課税、いわゆる出国税です。
これらはいずれも日本の国内税法に基づく論点であり、会社の輸出入実務とは別のトラックで進めることになります。事業側の関税対応と個人の税務を同じスケジュールで確認しておくことをお勧めします。
よくある間違い
すでに関税が撤廃されたと考えてしまうこと
報道の見出しだけを見て、日本からUAEへの輸出が無税になったと理解される方が少なくありません。しかし交渉妥結の段階であり、正式署名と批准を経て発効した後、品目ごとの段階的なスケジュールに従って税率が下がっていきます。
原産地規則を満たさずに恩恵を期待してしまうこと
CEPAの特恵税率は、輸出品が日本原産品であると証明できて初めて適用されます。日本で最終組立をしただけで自動的に日本原産品となるわけではありません。完全生産基準、原産材料のみからの生産基準、実質的変更基準のいずれかの充足が必要です。
輸入申告で特恵を申請し忘れてしまうこと
特恵税率は、輸入申告の際に協定税率を適用する旨を申告し、原産地の証明書類を揃えて初めて受けられます。手続きを行うのはUAE側の輸入者ですが、原産地の証明資料は日本側の輸出者しか用意できません。この役割分担を決めていないために、対象品目であるのに従来の税率で納税してしまう例は他のEPAでも見られます。
なお、事業側の準備と平行して、ドバイへ渡航される方個人の出国前手続きも項目が多いため、早めの着手をお勧めします。
まとめ
📋 今回のポイント
- 日UAE CEPAは2026年3月5日に交渉妥結、日本の中東初のEPA
- UAE側の無税割合は約11.5%から約96.4%へ(発効後10年以内)
- 完成車は7年以内、自動車部品と鉄鋼は10年以内に関税撤廃
- 妥結は発効ではなく、正式署名と批准手続きが残存
- デジタル貿易・知財・政府調達・補助金のルール整備が実質的な価値
- 法人税9%、VAT5%、租税条約はCEPAの対象外
- 特恵のメリットが出るのはUAE本土に引き取る取引
- 特恵税率の適用には原産地規則の充足と証明が必須
当会計事務所は、ドバイに拠点を置く日本人公認会計士事務所として、UAE法人の設立と法人税およびVATの申告実務、日本の居住者判定と出国税の検討をワンストップでサポートしています。CEPAを踏まえた中東進出のご検討や、ドバイ移住に伴う税務のご相談は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 経済産業省 日UAE包括的経済連携協定の交渉が妥結(2026年3月5日) – 関税撤廃品目と交渉妥結の公式発表
- 経済産業省 日UAE包括的経済連携協定の概要 – 無税割合の改善見込み、デジタル貿易、知的財産、補助金規律の詳細
- METI Negotiations for Japan-UAE Comprehensive Economic Partnership Agreement – 英文プレスリリース
- 税関 日UAE包括的経済連携協定(CEPA)の交渉妥結について – 通関実務所管官庁の公表
- ジェトロ 日本とUAE、包括的経済連携協定(CEPA)の交渉が妥結 – 品目別の関税撤廃スケジュールとサービス貿易の約束
- Khaleej Times Japan-UAE Cepa signals shift toward long-term investment ties – 非石油貿易額203億米ドルと優先協力分野
- 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)
- UAE連邦法令2022年第47号(法人税法)およびUAE連邦法令2017年第8号(VAT法)





