ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
令和8年(2026年)9月24日、国税庁の基幹システムが約25年ぶりに全面刷新され、次世代システム「KSK2」が稼働します。政府共通ネットワーク(GSS)を経由して外部データと直結し、税目別の縦割り管理から納税者単位の横断管理へ移行するという、日本の税務行政史上最大級の転換です。国税庁レポート2024にもコンセプトが明記されています。
日本の富裕層とドバイ移住検討者にとって、この刷新は単なるIT更新にとどまりません。CRS情報や国外送金等調書、国外財産調書、海外資産の申告状況が、これまでとは比べものにならない速度と精度で照合されます。本稿では、公表資料と一次ソースに基づき、KSK2で何が変わり、ドバイ在住者・移住検討者にどのような影響が及ぶのかを、誇張と誤解を排して整理します。
KSK2で何が変わるのか
KSK2の正式名称は「次世代国税総合管理システム」で、国税庁の申告受付・賦課・徴収・調査・滞納処分に至るすべての事務を支える基幹インフラです。稼働日は2026年9月24日、この切替に伴いe-Taxは9月19日から24日朝まで長時間停止する予定です。国税庁のKSK2対応版仕様公開ページで、法定調書や源泉徴収票を含む各種様式の対応状況が順次公表されています。
3つの開発コンセプト
国税庁が公式に掲げるKSK2の開発コンセプトは、次の3点に集約されます。
| コンセプト | 従来KSK | KSK2 |
| 事務処理 | 紙中心 | データ中心(AI-OCR対応) |
| データベース | 税目別に縦割り | 納税者単位で横断統合 |
| 基盤技術 | メインフレーム(COBOL) | オープンシステム(Java等) |
| 外部連携 | 閉域・個別要請ベース | GSS経由でオンライン照会 |
| 調査官アクセス | 署内端末に限定 | 調査先からリモート可 |
納税者単位で個人・法人・資産・相続・贈与の情報が一元管理されるため、たとえば「法人の売上は低いのに、代表個人の資産が急増している」といった不整合を、システムが横断的に把握できるようになります。辻・本郷税理士法人の解説でも、税目横断の一元管理がKSK2の核心とされています。
誤解を招く「AI税務調査システム」という表現
ネット上では「KSK2はAI税務調査システム」という表現が散見されますが、これは正確ではありません。国税庁の公式資料においてKSK2は「税務行政全般を支える基幹システム」と位置付けられており、AI-OCRや機械学習の導入はコンセプトの一部です。AIによる調査対象選定は既に別の取り組みとして進んでおり、KSK2はあくまでそのデータ基盤を提供する側です。ただし、データ統合とオンライン照会が飛躍的に強化されることで、結果として調査の精度と速度が向上することは確実です。
CRS情報と国外送金等調書が即時照合される時代
KSK2稼働で最も影響が大きいのが、CRS(共通報告基準)情報と国外送金等調書の突合強化です。財務省の政策評価調書にも、国外財産調書・財産債務調書・CRS情報の活用による包括的分析が明記されています。
CRSの現状規模
令和6事務年度のCRS受領件数は約275万件、把握された口座残高の総額は約17.7兆円に上ります。参加国・地域は101カ国以上で、UAE、シンガポール、香港、スイス、ケイマン諸島など、日本の富裕層が資産を保有しがちな地域はほぼすべて対象です。海外に置いておけば把握されないという前提は、既に2018年以降通用しなくなっています。KSK2稼働で、これらのCRSデータが国内の申告データと機械的に突合される速度が桁違いに上がります。
100万円超の海外送金は完全に可視化
金融機関は1回100万円超の海外送金・海外からの入金について、税務署に「国外送金等調書」を提出する義務があります。KSK2ではこの調書が納税者単位でリアルタイムに紐付き、確定申告の内容との差異が自動検知される仕組みが整います。ドバイ在住者が日本の銀行から生活費や運用資金を送金する場合、送金元・送金先・金額・送金理由が、申告所得と整合するかチェックされる時代が来たと考えるべきです。
富裕層プロジェクトチームとの直結
国税庁は全国の国税局に「重点管理富裕層プロジェクトチーム(PT)」を設置し、富裕層本人だけでなく、親族や関係法人を一体として管理しています。選定基準は明示されていないものの、実務上は次の水準が目安とされます。
- 純金融資産1億円以上
- 総資産3億円以上
- 国外財産5,000万円超(国外財産調書の提出義務ライン)
- 年間所得2,000万円超
KSK2稼働後は、富裕層PTが持つ個人・法人・資産・相続の情報が一つのビューで確認できるようになります。辻・本郷税理士法人の富裕層向け解説でも、生前の収入や保有不動産の規模に対して申告された相続財産が少なすぎるといった矛盾が、システムで自動検知されると指摘されています。
ドバイ在住者・移住検討者への3つの影響
ここからは、ドバイ在住の日本人および移住検討中の富裕層に、KSK2稼働がどのように影響するかを整理します。
影響1 出国前の国内申告の履歴が横断照合される
ドバイ移住を計画される方は、出国前の複数年にわたる所得税・法人税・消費税・相続税の申告履歴が、KSK2で納税者単位に統合されて閲覧できるようになる点に留意すべきです。「法人の役員報酬は低いが、個人資産は急増している」「不動産売却益がある年に贈与税の申告がない」といったパターンは、これまで税目別の担当官が個別に発見しなければならなかったのが、KSK2では自動リストアップの対象になります。ドバイ出国前の3〜5年間の申告整合性を、出国前に自主的に見直しておく重要性が高まっています。
影響2 出国税と非上場株式評価の再検討
1億円以上の有価証券等を保有した状態でドバイ移住する場合、いわゆる出国税(国外転出時課税)が課されます。KSK2稼働後は、出国届出書と過去の株式保有・売買履歴・配当受領履歴が一元管理されるため、出国税の申告漏れや評価誤りが即座に検知される可能性が高まります。特に非上場株式を保有する経営者の方は、出国前に純資産価額方式・類似業種比準方式の両面から評価を精査し、必要に応じて出国前の株式再編を検討する余地があります。
影響3 相続10年ルールの実務が厳格化
被相続人・相続人ともに10年以上日本非居住であれば、日本の相続税は国内財産のみが対象となります。しかしKSK2稼働後は、住民票の除票・出国日・在留カード返却日・海外滞在日数といった居住性判定データが、他の税務データと横断照合されるようになります。「10年経過したはずが、実は日本での滞在日数が多すぎて非居住性が否認された」というトラブルは今後増える見込みです。TKCの解説でも、KSK2による外部データ連携の強化が指摘されています。
よくある間違い
KSK2をめぐって、当会計事務所に寄せられる典型的な誤解を3つ紹介します。
誤解1 「KSK2は税務調査を自動化するAIシステム」
正確ではありません。KSK2はデータ基盤であり、調査対象の選定にAIを活用する仕組みは別プロジェクトです。最終判断は調査官が行います。ただし、データ統合が飛躍的に進むため、結果として調査の精度は上がります。「AIが勝手に追徴する」というよりも「これまで見逃されていた不整合が見えるようになる」と理解するのが正確です。
誤解2 「ドバイに移住してしまえばKSK2は関係ない」
誤りです。日本非居住者になっても、CRSにより日本の税務当局へ口座情報が自動送信され続けます。日本国内の不動産所得や、日本法人からの配当・役員報酬には非居住者としての課税が残ります。また、日本居住者の家族への贈与や、日本での相続開始があれば、その時点でKSK2上のデータと照合されます。移住後もKSK2の網の中にあるという前提が現実的です。
誤解3 「国外財産調書を出さなければ資産は隠せる」
正反対です。国外財産調書を提出していれば過少申告加算税が5%軽減されますが、未提出だと逆に5%加重されます。しかもCRS情報で海外口座残高は把握されており、未提出は「隠していた」と見なされる可能性があります。5,000万円超の国外財産をお持ちの方は、必ず期限(翌年6月30日)までに提出することが、むしろリスク軽減策となります。
KSK2稼働前にやっておくべき備え
ドバイ移住を検討される方、既にドバイに移住された方が、KSK2稼働前後にやっておくべき備えを整理します。
出国前の申告整合性チェック
過去5年分の所得税・法人税・消費税・相続税・贈与税の申告書を横断的に見直し、税目間の矛盾点を洗い出しておくべきです。特に役員報酬と個人資産の増減、法人からの貸付金と個人の資金移動、不動産の売却益と申告漏れ、これらは調査官がKSK2で真っ先にチェックする論点です。
国外財産調書と財産債務調書の適正提出
5,000万円超の国外財産、または総資産10億円以上・所得2,000万円超の場合、国外財産調書と財産債務調書の提出義務があります。KSK2稼働後は未提出のリスクが従前よりも顕在化します。既にドバイに移住済みで日本非居住者となった方は、非居住者に該当する年から提出義務がなくなりますが、出国年の期間案分に注意が必要です。
出国税の対象資産の再評価
1億円以上の有価証券等を保有した状態で出国する場合、出国税が課されます。KSK2稼働後は非上場株式の評価誤り、贈与・売買履歴との齟齬、担保設定・納税猶予の手続きミスが即座に検知されます。出国予定日の1年前には税理士・公認会計士に相談し、評価と手続きを完了しておくべきです。
まとめ
📋 今回のポイント
- KSK2は2026年9月24日稼働、税目縦割り解消と外部データ直結が核心
- 令和6事務年度CRS受領は約275万件・約17.7兆円、101カ国から自動送信
- 100万円超の海外送金は国外送金等調書で完全捕捉
- 富裕層PTは純資産1億円・国外財産5,000万円超が実務上の目安
- ドバイ移住後もCRS情報でKSK2の対象、10年ルールも居住性判定が厳格化
- 出国前5年分の申告整合性チェックと国外財産調書の適正提出が防衛策
当会計事務所は、日本からドバイへの移住を検討される富裕層・経営者の方、既にドバイに移住された日本人の方に対し、出国税の試算、非上場株式評価、国外財産調書・財産債務調書の提出支援、10年ルールの居住性判定、日UAE租税条約の適用可否など、日本側とUAE側の両輪からサポートしています。KSK2稼働を控えたこの時期こそ、過去の申告履歴と現在の資産状況を整理する好機です。当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 国税庁レポート2024 Ⅲ 納税者サービスの充実と行政効率化 – KSK2の3つの開発コンセプト
- 国税庁 国税システムの更改に伴うe-Taxの仕様公開と送信試験 – KSK2対応版仕様書一覧
- 財務省 政策評価調書(個別票)令和8年度 – 富裕層への対応とCRS情報活用
- 辻・本郷税理士法人 KSK2導入で富裕層が最も気をつけるべきポイント
- 辻・本郷税理士法人 令和8年秋に導入される国税庁の次世代システム「KSK2」
- TKC KSK2更改による国税申告・納付への影響
- 国税通則法第74条の7の2(電子情報処理組織を使用する事業者等からの情報取得)
- 国外送金等調書法(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律)第4条
- 所得税法第60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)




