ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
UAEの連邦税務庁が2026年7月22日に発出した2026年FTA決定第13号により、課税事業者は仕入税額控除の前に、仕入先と受領した供給の有効性および完全性を検証することが義務づけられました。適用開始は2026年10月1日です。原文はFTAの公式ページと決定第13号のPDFで公開されています。
これまでは有効な税額票があり、事業目的の支出で、期限内に申告していれば控除は認められるという整理が一般的でした。今回の決定は、そこに仕入先の実在性や取引の商業的合理性を自ら確かめる義務を上乗せします。書類がそろっていても検証を怠れば控除を失う可能性があります。
決定第13号が出た背景と適用開始日
2026年1月に追加されたVAT法第54条bis
根拠は、VAT法である2017年連邦法令第8号に2025年連邦法令第16号によって追加された第54条bisです。KPMGの解説によれば、この改正は2026年1月1日から施行されています。第54条bisは、供給または供給の連鎖が脱税に関連している場合に、次の3つの場合に仕入税額控除を否認できると定めています。
1つ目は関連を実際に認識していた場合、2つ目は供給の状況から認識すべきであった場合、3つ目はFTAが定める措置・手続・条件に従って検証していなかった場合で、この場合は認識すべきであったものとみなされます。
Khaleej Timesの報道では、実際に認識していた場合の否認は義務的であり、認識すべきであった場合はFTAの裁量であると整理されています。検証を怠ることは、自ら裁量否認のリスクを引き受けることに等しくなります。
決定第13号の位置づけと2026年10月1日
決定第13号は、第54条bisが委任した検証の中身を具体化したものです。FTA理事会で2026年6月23日に承認され、第7条により官報に掲載されて2026年10月1日から施行されます。PwCのタックスアラートも、10月1日以降は既存の控除要件に加えて所定の検証手続の実施と記録が必要になると指摘しています。
なお経過措置は置かれていません。10月1日より前から取引がある仕入先も、直近12か月以内に検証していなければ改めて検証が必要になると読むのが安全です。
仕入先について確認すべき項目
決定第3条は、仕入先に対する検証を4つの層で求めています。
本人確認と法人設立の確認
仕入先が自然人である場合は、エミレーツIDまたはパスポートの写しを取得し、供給の前に対面またはオンラインで面談を行う必要があります。法人の場合は、公式データベースまたは設立証明書の写しで設立の事実を確認し、名称や住所が一致していることを確かめます。加えて代表権限を有する取締役や代理人、従業員の身分証明書の写しも取得します。
住所と事業所の実在確認
仕入先の住所および事業所が実際に存在することを、電子的手段または実地訪問で確認します。単に住所が登録されているかではなく、所在地が事業の性質と整合しているかまで求められます。倉庫のない住所で大量の物品を供給しているといった不整合は、ここで検出されるべき事項です。
3つのリスク指標
第3条第3項は、脱税リスクの指標として3つを挙げています。過去12か月に住所の変更が2回を超えていること、マネージャーや取引窓口といった主要な従業員の変更が2回を超えていること、事業の規模や取引履歴に比べて不相応または予期しない取引であることです。該当する場合には、明確で正当な説明を保持し、FTAの要求があれば提出できるようにしておく必要があります。
AED37万5,000超の仕入先に対する追加手続
同一の仕入先からの仕入額が過去12か月でAED37万5,000を超えている場合、または今後12か月で超える見込みの場合には追加手続が要求されます。UAEの認可銀行が発行する、その仕入先が口座を保有している旨の確認書を取得することです。留保や条件が付されたものは認められませんが、宛先が取引相手である必要はありません。あわせて公開レビューや報道を評価し、脱税の兆候がないかを確かめます。AED37万5,000はVAT登録の義務的閾値と同水準で、43円換算では約1,612万5,000円です。
| 判定項目 | 基準額 | 43円換算 | 求められる対応 |
| 適用除外 | 1回の供給がVAT抜きでAED1万未満 | 約43万円 | 第3条から第5条の措置を省略できます |
| 適用除外の打ち切り | 同一仕入先からの供給合計が12か月でAED10万超 | 約430万円 | 少額でも通常の検証が必要になります |
| 追加手続 | 同一仕入先からの仕入が12か月でAED37万5,000超 | 約1,612万5,000円 | 銀行の口座保有確認書と公開情報の評価が必要です |
供給ごとに確認すべき項目
第4条は、受領した課税供給の一つひとつについても検証を求めています。
商業的合理性と支払条件
まず取引条件を評価し、その仕入先が取引に関与していることに真正な商業的理由があるかを確認します。次に支払方法および支払条件の商業的正当性を見ます。第三者が支払に関与する場合や、仕入先の設立国以外の銀行口座へ支払う場合には、合理的な商業的説明が必要です。
そして対価は電子的手段によって支払うことが原則とされました。現金の場合は、文書化された商業的理由があり、税法上の上限の範囲内であり、容易に検証可能であることが条件です。現金決済が残っている事業者は、この点の見直しが最も急ぎの課題になります。
価格とライセンスと所有権
供給の状況については、価格や利益率が市場条件から不当に乖離していないか、その供給が仕入先の通常の事業活動および商業ライセンス上で許可された活動の範囲内かを確認します。物品の場合は真正性および原産地、仕入先の所有権と処分権も検証対象です。仕入先が仲介者であるときは、その役割に正当な商業的説明があることを確かめます。著しく安い仕入は有利に見えますが、その安さの理由を説明できないこと自体が兆候として扱われ得ます。
手続の頻度と文書化ポリシー
第5条は実施のタイミングと記録の要件を定めています。仕入先の検証は初回取引時に実施し、反復取引の場合は過去12か月に検証していなければ改めて実施します。供給の検証は課税供給ごとです。そして手順を文書化し、裏づけ書類と記録を保持して、FTAが正確性を検証できる状態にしておく必要があります。
実務上とくに重いのは第5条第4項です。検証の実施、レビューおよび監督を担う責任者を特定し、その権限と責任を定めた文書化ポリシーを維持して所定の場所に保管することが求められます。EYの解説も、ガバナンスの整備を求めるものだと整理しています。ポリシーが存在しないこと自体が検証未実施の証拠として扱われる余地があります。
実務で判断が必要になる論点
AED1万未満の例外はどこまで使えるか
第6条は、VAT抜きの対価がAED1万未満の課税供給についてこの決定の措置を省略できるとしています。43円換算で約43万円です。ただし同一の仕入先からの供給の合計額が過去12か月でAED10万を超えている場合、または今後12か月で超える見込みの場合には、この例外は適用されません。約430万円が上限です。
難しいのは見込みの判断です。単発のAED8,000の発注が年間で積み上がりAED10万を超えた場合、後から遡って検証すべきだったという整理になり得ます。仕入先単位の年間累計を管理する仕組みがなければ、この例外は安全に使えません。当会計事務所では、仕入先ごとの12か月累計を可視化し、AED10万に近づいた時点で検証を発動させる運用をおすすめしています。
検証を怠ったときに実際に何が起きるか
決定第13号には、検証を怠ったこと自体への行政罰の規定は置かれていません。KPMGの速報も、想定される帰結は仕入税額控除の否認であると整理しています。ただし否認により納付税額が増えれば、税務手続法上の申告誤りに係る罰金は別途発生し得ます。
重要なのは、否認の前提として供給または供給の連鎖が脱税に関連していることが必要な点です。検証を怠っただけで直ちに控除が否認されるわけではありません。しかし供給連鎖のどこかに脱税があったと判明した時点で、検証をしていなかった事業者は認識すべきであったとみなされ、反証は極めて難しくなります。自社の善意を立証する唯一の材料が検証記録になります。
ドバイに移住した日本人経営者への影響
日本からドバイへ移住してUAE法人を運営している方にとって、仕入税額控除は資金繰りに直結します。検証体制が整わないまま10月以降の取引を続け、後にFTAの調査で否認されれば、追加納付と過去の申告修正の負担が生じます。あわせてUAE法人が実体を伴う事業活動を行っている説明材料として、検証記録は日本側への説明にも機能します。
また移住の入口では、日本の国外転出時課税、いわゆる出国税の検討が避けられません。有価証券等の評価額が1億円以上である方が日本を出国する場合には、含み益に所得税が課されます。制度の骨格は国税庁のタックスアンサーが示しています。UAE法人株式を保有したまま移住する場合、その評価が課税額を左右します。移住の時期と法人の管理体制の整備は、切り離さずに検討することをおすすめしています。
まとめ
📋 今回のポイント
- 2026年FTA決定第13号は7月22日発出、2026年10月1日施行
- 根拠はVAT法第54条bis(2025年連邦法令第16号で追加)
- 仕入先の検証は初回と12か月ごと、供給の検証は課税供給ごと
- AED37万5,000超の仕入先は銀行の口座保有確認書と公開情報の評価が必要
- AED1万未満は例外だが12か月累計AED10万超で例外は打ち切り
- 責任者と権限を定めた文書化ポリシーの維持も義務
当会計事務所は、UAE法人のVAT登録から申告、仕入税額控除の要件整備、FTAの調査対応までを一貫してサポートしています。決定第13号に対応した検証チェックリストや文書化ポリシーの整備、既存仕入先の棚卸しも承ります。2026年10月1日の施行に向けた準備でお迷いの点があれば、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- FTA Decision No. 13 of 2026(公式ページ)
- 同決定の全文PDF – 第1条から第7条の原文
- FTA VAT関連法令一覧
- KPMG UAE「Federal Decree Law No. 16 and 17 of 2025」 – 第54条bisの追加
- EY「Due diligence requirements for input VAT recovery」 – 第54条bisの構造
- PwC Middle East Tax News Alert – 施行日と実務論点
- KPMG「New due diligence requirements」 – 検証未実施の帰結
- Khaleej Times「Mandatory VAT supplier and supply verification checks」 – 義務的否認と裁量的否認
- 国税庁タックスアンサー No.1478 – 出国税の課税要件
- 2017年連邦法令第8号(VAT法)第54条bis





