ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
ドバイに移住した後も、日本国内に賃貸マンションや事業用ビルを保有し続けている方は少なくありません。そうした非居住者のオーナーが日本の不動産を売却したり貸し付けたりする際、不動産会社へ支払う仲介手数料はこれまで消費税がかからない取扱いになっていました。ところが令和8年度税制改正によって、この取扱いが根本から変わります。令和8年10月1日以後は、非居住者に対する国内不動産の売買や賃貸の仲介手数料が消費税10パーセントの課税対象になります。国税庁が公表した消費税法改正のお知らせ(令和8年4月)でも、この見直しが明記されました。
今回は、ドバイ在住の日本人オーナーの視点から、この改正の中身と経過措置、そして実際にどのくらい負担が増えるのかを整理していきます。
これまでの取扱い なぜ非居住者向けは免税だったのか
消費税は、日本国内で消費されるものに課税する内国消費税です。そのため、海外で消費される取引については消費税を課さないという考え方があり、これを輸出免税と呼びます。国税庁タックスアンサーNo.6551でも、非居住者に対する役務の提供は原則として輸出免税の対象になると説明されています。
ここでいう非居住者とは、日本国内に住所や居所を持たない個人、および日本に主たる事務所を持たない法人を指します。ドバイに移住して日本の住民票を抜いた個人オーナーや、UAEで設立した法人は、この非居住者に該当します。
従来、非居住者から依頼を受けて日本国内の不動産を売買仲介した場合の手数料は、消費税法施行令第17条第2項第7号の規定に基づき、輸出取引に類するものとして消費税ゼロパーセントで処理されてきました。役務を受ける相手が国外にいるため、便益の効果が国外に及ぶと解されていたためです。
令和8年10月からの改正内容
仲介手数料が輸出免税の対象外に
令和8年度税制改正では、非居住者に対して行う国内に所在する不動産の売買、交換、貸借の代理または媒介といった役務の提供について、その役務を受ける者の居住地にかかわらず、消費税の課税対象とすることになりました。つまり相手がドバイ在住の非居住者であっても、日本の不動産に関わる仲介手数料には10パーセントの消費税がかかるということです。
改正の背景には、国内不動産を非居住者が取得する事例が増加しているという指摘があり、居住者との公平性を確保する狙いがあります。国内に所在する不動産に関する役務は、その便益が国内で享受されるものであり、消費地課税の原則からすれば国内で課税されるべきという整理です。PwC税理士法人の税制改正大綱解説でも、非居住者に対する不動産仲介手数料等の輸出免税が見直される旨が示されています。
対象となる役務の範囲
今回の改正で課税対象となるのは、売買の仲介手数料だけではありません。売買、交換、貸借の代理または媒介が幅広く含まれます。鉱業権、採石権、漁業権といった不動産に類する権利に係るサービスも対象になります。EY税理士法人の税制改正解説でも、非居住者への国内不動産の売買等に関する役務提供に対する課税の見直しとして整理されています。
| 項目 | 改正前(令和8年9月30日まで) | 改正後(令和8年10月1日以後) |
| 売買の仲介手数料 | 輸出免税(消費税なし) | 課税(消費税10パーセント) |
| 賃貸の仲介手数料 | 輸出免税(消費税なし) | 課税(消費税10パーセント) |
| 不動産の管理や修理 | 課税(従来から対象外) | 課税(変更なし) |
| 不動産そのものの売買代金 | 国内所在で判定・課税または非課税 | 変更なし |
不動産の管理や修理については、もともと消費税基本通達7-2-16で輸出免税の対象から除かれており、課税されていました。今回新たに追加されたのは売買や賃貸の仲介であるという点を押さえておく必要があります。
経過措置 契約日が分かれ目になる
この改正には経過措置が設けられています。令和8年3月31日までに締結された契約に基づいて事業者が行う資産の譲渡等については、改正前の消費税法が適用されるため、令和8年10月1日以後に取引が行われても引き続き輸出免税の対象になります。
実務上の判断で重要なのは、契約締結日と役務提供時期の両方を管理することです。整理すると次のようになります。
| 契約締結日 | 役務提供時期 | 取扱い |
| 令和8年3月31日まで | 令和8年10月1日以後 | 輸出免税(経過措置で従来どおり) |
| 令和8年4月1日以後 | 令和8年9月30日まで | 輸出免税(施行前のため対象) |
| 令和8年4月1日以後 | 令和8年10月1日以後 | 課税(消費税10パーセント) |
大型の物件では、経過措置を活用するために令和8年3月末までに契約締結を急ぐ動きが出る可能性もあります。ただし、契約を先行させて履行を遅らせるといった調整には税務上の実態が伴う必要があるため、形式だけを整えても否認されるリスクがある点は注意しておきたいところです。
ドバイ在住オーナーの負担はどれだけ増えるのか
実際に数字で見てみます。ドバイに移住した個人オーナーが、日本国内に保有する事業用ビルを2億円で売却したケースを考えます。仲介手数料は宅地建物取引業法の上限に沿って売買価格の3パーセントプラス6万円で計算すると、税抜606万円になります。
改正前であれば、この仲介手数料は輸出免税で消費税は0円でした。改正後は606万円に10パーセントの消費税が課されるため、消費税だけで60万6千円の追加負担になります。AED換算では、43円レートで約1万4千AED相当の増加です。
賃貸の場合も同様です。ドバイ在住オーナーが日本の投資用マンションを新たに賃貸に出す際、入居者募集を依頼した不動産会社に支払う仲介手数料にも消費税がかかるようになります。金額そのものは売買より小さくても、複数物件を保有していれば積み上がっていきます。
ドバイ移住後の日本不動産運用では、家賃収入に対する日本での源泉徴収や確定申告に加えて、こうした付随コストの増加も織り込んでおく必要があります。非居住者の日本国内での納税範囲については、次の記事でも整理しています。
出国税との関係 移住のタイミングで考えること
ドバイへの移住を検討している段階の方にとっては、この改正は出国税との組み合わせで考える論点になります。日本を出国して非居住者になる際には、一定の有価証券等を保有していると国外転出時課税、いわゆる出国税の対象になります。不動産そのものは出国税の対象資産ではありませんが、移住後に日本の不動産を売却する計画がある場合、その売却に伴う仲介手数料の課税化は移住後のキャッシュフローに直結します。
移住前に売却を済ませて居住者として仲介を受けるのか、移住後に非居住者として仲介を受けるのかで、消費税の取扱いが変わってくる時期に差し掛かっています。令和8年9月30日までの役務提供であれば従来どおり輸出免税の対象になるため、売却時期の調整余地もあります。出国税の納税猶予制度とあわせて、移住スケジュール全体を設計することが重要です。
よくある間違い
海外在住だからすべて免税だと思い込む
最も多い誤解は、相手が非居住者であればあらゆる役務が免税になるという思い込みです。実際には、国内で直接便益を受けるタイプの役務は従来から課税対象でした。国内不動産の管理や修理はその典型です。今回の改正で仲介も課税に加わったことで、日本の不動産に関わる役務は原則



