ドバイ法人の経費計上|税法ルールと日本語領収証の可否を説明

投稿:2025年11月29日更新:2026年6月4日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

ドバイで法人を経営されている方や、フリーランスとして活動されている方から、「日本出張時の領収証」や「日本のECサイトで購入した物品の請求書」の扱いについて、非常によくご相談をいただきます。

「日本の領収証は日本語で書かれていますが、そのままドバイの会計に使っていいのでしょうか」「わざわざ英語に翻訳しないといけないのでしょうか」といったご質問です。

結論から申し上げますと、日本語のままで保存しても問題はありませんが、会計ソフトへの入力と監査対応には工夫が必要です。本稿では、UAEの税務手続法および法人税法に基づき、日本語の領収証を経費にするための正しいルールと実務的な対応策について解説します。

法律上の言語ルール

まず、UAEの税務当局(FTA:Federal Tax Authority)が定めている「帳簿保存の言語」に関するルールを確認しましょう。連邦税務手続法(Federal Decree-Law No. 28 of 2022 on Tax Procedures)および施行令(Cabinet Decision No. 74 of 2023)で、以下のように規定されています。

UAE税法における記録保存の言語ルール

対象 言語ルール
アラビア語 UAE公用語のため、税務関連書類の原則言語
英語 実務上、FTAは英語での記録・保存を認めている
日本語など 当局から要請があった場合、アラビア語の正式認証翻訳を期限内に提出する義務

つまり、日本語の領収証を持っていること自体は違法ではないが、税務調査が入ったときに、調査官が読める状態(英語またはアラビア語)にして説明できなければならないというのが正確な解釈です。

当然ですが、UAEの税務調査官は日本語を理解していません。「お品代」や「接待交際費」と書かれていても、それがビジネスに必要な経費なのか、個人的な買い物なのかを判別できないためです。

そのため、「日本語の領収証をただファイルに挟んでおくだけ」では、否認される(経費として認められない)リスクが高まります。なお、2026年4月に施行された改正施行規則(Cabinet Decision No. 17 of 2026)でも、英語での記録保存が認められること、およびFTAがアラビア語翻訳を要請できることが明確化されています。

関連記事:ドバイ法人の申告に誤りを見つけたら20営業日以内 UAE自主開示・還付ルールが2026年4月から厳格化

実務的な処理方法

では、すべての日本の領収証を英訳して添付する必要があるのでしょうか。数枚ならまだしも、大量にある場合は現実的ではありません。当会計事務所では、以下の3ステップでの管理を推奨しています。

ステップ1 会計ソフトへの入力は「英語」で行う

領収証自体が日本語であっても、会計ソフト(Xero、QuickBooks、Zoho Booksなど)に入力する際のDescription(摘要欄)は必ず英語で記載してください。

摘要の悪い例と良い例

区分 摘要例 評価
悪い例 Expenses in Japan 内容が不明のためNG
良い例 Dinner with client Mr. Sato regarding marketing strategy in Tokyo 誰と、何のために、どこで使ったかが明確

会計データ自体が「英語の明細書」の役割を果たすようにしておくことが、第一の防衛線です。

ステップ2 領収証の余白にメモ書きをする

紙の領収証であれば余白に、デジタルの領収証であればPDFのコメント機能で、英語のメモを残しておくと安心です。具体例は以下の通りです。

これをしておくだけで、万が一の税務調査の際、翻訳業者に依頼するコストと時間を大幅に削減できます。

ステップ3 正式な翻訳は「要請されてから」で十分

最初から全てを法廷翻訳(Legal Translation)する必要はありません。税務調査が入り、特定の取引について「この日本語の書類は何か、正式な翻訳を提出せよ」と要請された時点で翻訳すれば足ります。日々の記帳段階では、ステップ1とステップ2で十分です。

ただし、FTAから翻訳要請があった場合は、施行令で定められた期限内に提出する義務があり、提出を怠ると行政罰の対象(Tax Procedures Law第24条)となりますので、要請があった場合は速やかに対応してください。

VATと法人税で扱いが違う

ここが非常に重要なポイントですが、VATの還付(Input VAT Recovery)と法人税の経費(Deductible Expenses)では、求められる要件の厳しさが異なります。

日本の領収証のUAE税務上の取扱い

項目 日本の領収証の扱い 理由
UAE VAT 還付不可 日本の消費税はUAEのVATではない、UAEのTRN(登録番号)が記載されていない
UAE法人税 経費計上可能 ビジネスに関連する費用であれば、海外で発生した費用も利益から控除可

日本の消費税はコストになる

日本の領収証に含まれる10%の消費税は、UAEでは「税金」として取り扱われません。単なる経費の一部(コスト)として処理します。UAEのVAT申告(VAT Return)で、日本の消費税を仕入税額控除としてマイナスすることはできませんのでご注意ください。

関連記事:UAE VAT基本ガイド

日本円レシートの為替換算ルール

会計帳簿はAED(ディルハム)で作成する必要があります。日本円の領収証を計上する際のレートは、以下のルールに従います。

原則として、その経費を支払った日(Transaction Date)のUAE中央銀行(Central Bank of UAE)の公定為替レートを使用します。VAT法第69条および法人税の会計実務(IAS 21)に基づく要件です。

実務上、クレジットカードの明細に記載された「AED換算後の引落金額」をそのまま経費計上することも、中小企業の経費処理としては一般的です(監査上、重要性の原則に照らして許容されるケースが多くあります)。

ただし、厳密な監査対応を求めるのであれば、取引日の公定レートで換算し、実際の決済額との差額を「為替差損益」として処理するのが最も正確な会計処理です。なお、2026年5月時点での1AEDの参考換算は約43円です。

証憑の保存期間と形式

UAE法人税法およびVAT法において、記録の保存期間は厳格に定められています。2026年4月施行の改正施行規則(Cabinet Decision No. 17 of 2026)で一部の取扱いが明確化されています。

UAEにおける税務記録の保存期間

記録の種類 保存期間 根拠
法人税関連の記録 7年間 法人税法第56条
VAT関連の記録(一般) 5年間 VAT法・税務手続法施行令
不動産関連の記録 15年間 VAT法(不動産特例)
税務調査・自主開示・還付申請が未了の場合 追加で2〜4年延長 Cabinet Decision No. 17 of 2026

スキャン保存(電子帳簿保存)は認められるか

認められます。原本が紙であっても、スキャンして鮮明なデジタルデータとして保存していれば、原本を廃棄しても問題ないケースが大半です。ただし、FTAの要請があれば48時間以内に提出できる状態で保管する必要があり、改ざん防止(tamper-proof)の措置が求められます。

日本の電子帳簿保存法と同様に、ドバイでもクラウド会計ソフトに証憑(PDFや写真)を添付して保存しておくのが、最も安全で効率的な方法です。

関連記事:UAE法定監査ルールと監査義務

2026年からの電子インボイス制度の影響

2026年7月からは、UAEで電子インボイス(e-Invoicing)制度のパイロット運用が開始され、2027年から段階的に義務化されます。Ministerial Decision No. 243 of 2025およびKPMGの解説によれば、年商AED 50M超の企業は2027年1月から、AED 50M以下の企業は2027年7月から、政府機関は2027年10月から完全実施となります。

ただし、電子インボイスはUAE国内のB2B/B2G取引が対象であり、日本の領収証や請求書のような海外発行の証憑は対象外です。したがって、日本出張の領収証や日本のECサイトの請求書は引き続き従来通りの方法(PDF・スキャンによる電子保存)で記帳することができます。

関連記事:UAE電子インボイス制度の全体像

UAE法人税側での経費計上の注意点

2024年から9%のUAE法人税が本格運用に入り、海外で発生した経費の「Business Purpose(事業関連性)」が厳しく見られるようになりました。日本の領収証であっても、それがUAE法人の事業遂行上必要不可欠であることを説明できなければ、損金算入を否認されるリスクがあります。摘要欄での英語記載は、Business Purposeを立証するための最大の武器です。

関連記事:UAE法人税(9%)の制度全体像

まとめ

📋 今回のポイント

  • 日本語の領収証でも経費化は可能、ただし英語での説明責任が伴う
  • 会計ソフトへの入力は必ず英語で行い、Business Purposeが分かる摘要にする
  • 日本の消費税はUAEのVAT還付対象外、全額をコストとして計上する
  • 保存期間は法人税7年・VAT 5年・不動産15年、クラウド会計へのデータ添付・保存を強く推奨
  • 税務調査でアラビア語翻訳を要請されたら期限内に正式認証翻訳を提出
  • 2026年7月開始の電子インボイス制度は海外発行の領収証には影響しない

当会計事務所はドバイ現地の会計事務所として、日本からUAEへ進出された企業の会計記帳代行、海外発行証憑の英訳ガイドライン整備、税務監査対応を専門に行っております。日本の商習慣とUAEの法規制、双方を理解した記帳指導が必要な方は、お早めのご相談をおすすめします。

本記事の主な根拠法令・出典

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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