ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
UAEは2025年1月1日以後開始する事業年度から、グローバル・ミニマム課税(Pillar Two)に基づく国内ミニマムトップアップ税(DMTT、Domestic Minimum Top-up Tax)を導入しました。連結売上7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループ(MNE Group)に属するUAE法人は、UAE全体の実効税率(ETR)が15%を下回る場合に追加課税されます。
UAE法人税の本則税率が9%である以上、対象MNE傘下のUAE法人は原則として6%相当のトップアップ税が発生する構造です。さらにQFZP(Qualifying Free Zone Person)として0%適用を受けているフリーゾーン法人も、対象MNEに属する限りDMTTの適用を免れません。
本記事ではUAE DMTTの基本構造、対象判定、計算ロジック、セーフハーバー、申告スケジュール、そして実務対応のステップを整理し、当会計事務所が支援するクライアント向けの行動指針を解説します。
UAE DMTT導入の根拠法令と施行日
UAEのPillar Two導入は段階的に法整備されました。まず2023年11月24日にFederal Decree-Law No. 60 of 2023が公布され、法人税法(Federal Decree-Law No. 47 of 2022)にDMTTの根拠規定が追加されました。続いて2024年12月9日にUAE財務省(MoF)が施行時期を公表し、2025年2月11日にCabinet Decision No. 142 of 2024が官報に掲載されて詳細ルールが確定しました(EY「UAE issues domestic minimum top-up tax legislation」)。
| 項目 | 内容 |
| 根拠法令 | Federal Decree-Law No. 60 of 2023、Cabinet Decision No. 142 of 2024 |
| 施行日 | 2025年1月1日以後開始する事業年度 |
| 最低実効税率 | 15% |
| 対象 | 連結売上7億5,000万ユーロ以上のMNE Group傘下のUAE構成会社 |
| 監督官庁 | 連邦税務庁(FTA) |
UAEはOECDのGloBEモデルルールに準拠しつつ、所得合算ルール(IIR)と軽課税所得ルール(UTPR)は現時点で導入していません(UAE Ministry of Finance公式)。これはUAEにCFC税制が存在しないことと、UAE国内で課税を完結させることで他国に課税権を奪われない設計を優先したためです。
対象判定 7億5,000万ユーロのしきい値
DMTTの対象となるのは、最終親会社(Ultimate Parent Entity、UPE)の連結財務諸表上で直近4事業年度のうち2事業年度以上において連結収益が7億5,000万ユーロ以上のMNE Groupに属する構成会社です(PwC Middle East「UAE DMTT Alert」)。
判定上の重要ポイントは次のとおりです。
- UAE国内に親会社を持つグループであっても、UAE国外に最低1拠点を持っていれば対象になり得る
- 逆にUAEのみで事業を行うグループ(UAE国外に拠点なし)はMNE Groupに該当せず対象外
- 合併や分割があった場合は特別なしきい値判定ルールが適用される
- 算定通貨はユーロベース。AEDやUSD建ての連結財務諸表を採用している場合は事業年度末の為替で換算
対象主体(Constituent Entity)には次が含まれます。
- メインランド法人、フリーゾーン法人(QFZPを含む)
- 恒久的施設(PE)
- 共同支配企業(JV)
- 少数所有構成会社(MOCE)
投資事業体(Investment Entity)はDMTTの対象から除外されます。ただし他国のIIRやUTPRの対象となる可能性がある点には注意が必要です。
トップアップ税の計算ロジック
DMTTの計算は次のステップで進みます。
| ステップ | 内容 |
| ① 純Pillar 2所得の算定 | UAEの全構成会社のGloBE所得を合算 |
| ② 調整後対象租税の算定 | UAE法人税のうちカバード・タックスを集計 |
| ③ UAE実効税率(ETR)の算定 | 対象租税 ÷ 純Pillar 2所得 |
| ④ トップアップ税率の算定 | 15% − UAE実効税率 |
| ⑤ 実質ベース所得除外(SBIE)の控除 | 適格給与と適格有形資産の一定割合を所得から除外 |
| ⑥ トップアップ税額の算定 | (純Pillar 2所得 − SBIE)× トップアップ税率 |
実質ベース所得除外(SBIE)
GloBEルール上、UAE国内の実態を持つ事業活動については所得の一部が除外されます(KPMG UAE「The UAE unpacks its Pillar Two rules」、OECD Pillar Two Model Rules in a Nutshell)。
- 適格給与費用(UAE国内雇用):移行期間中10%相当からスタートし、10年かけて段階的に5%に収斂
- 適格有形資産(UAE国内所在)簿価:移行期間中8%相当からスタートし、10年かけて段階的に5%に収斂
実質を伴うUAEオペレーション(社員、オフィス、設備)が大きいほどSBIEが膨らみ、トップアップ税の課税ベースが圧縮される構造です。逆にいうとペーパーカンパニーや実態の薄いホールディングはSBIEの恩恵を受けにくく、DMTTの直撃を受けます。
セーフハーバー 3種類の救済規定
UAE DMTTには対象MNEの実務負担を緩和するセーフハーバーが3層用意されています。
デミニマス・セーフハーバー(恒久措置)
UAE全構成会社の平均売上が1,000万ユーロ未満、かつ平均DMTT所得が100万ユーロ未満の場合、トップアップ税はゼロとみなされます。当該年度と前2事業年度の3年平均で判定します。
移行期間CbCRセーフハーバー(時限措置)
2027年1月1日より前に開始し、2028年7月1日より後に終了しない事業年度に限り、適格な国別報告書(CbCR)に基づき以下のいずれかを満たせばトップアップ税ゼロが認められます(BDO Global「UAE Transitional CbCR Safe Harbour」)。
| テスト | 内容 |
| デミニマス・テスト | UAE売上1,000万ユーロ未満、税引前利益100万ユーロ未満 |
| 簡易ETRテスト | 簡易ETRが移行率以上(2024年15%、2025年16%、2026年17%) |
| 通常利益テスト | 税引前利益がSBIE以下 |
重要な制約として「Once Out, Always Out(一度外れたら永久に外れる)」ルールがあります。ある事業年度でセーフハーバーを適用しなかった場合、その後の事業年度では同じUAE管轄でセーフハーバーを使えません。慎重な判定と適用判断が必要です。
国際事業活動初期フェーズ除外
設立から間もないMNE向けの特別ルールです。次の要件をすべて満たす場合、最長5年間トップアップ税がゼロとなります。
- 構成会社の所在国が6カ国以下
- 最も簿価の高い管轄を除いた有形資産簿価が5,000万ユーロ以下
- 適格IIRを適用する親会社による持分保有がない
UAEヘッドクォーターのMNEに対する適用除外
UAE国内のみで事業を行うグループ、すなわちUAE国外に構成会社や恒久的施設を持たないグループは、MNE Groupの定義(2カ国以上に拠点)を満たさないためDMTTの対象外となります(PwC Middle East「UAE DMTT Alert」)。
ただし注意点として、UAE国外に1社でも子会社や支店を持てば対象判定の俎上に乗ります。日本やシンガポールに販売子会社を1社設立しただけで連結売上7億5,000万ユーロを超える場合は、UAE DMTTの対象となる可能性があります。
申告スケジュールと登録義務
DMTTの実務スケジュールは次のとおり整理されます。
| 項目 | 期限 |
| FTA登録 | FTAが別途公表する期限まで(2026年央想定) |
| トップアップ税申告書(Top-up Tax Return)提出 | 事業年度終了後15カ月以内(初年度は18カ月以内) |
| Pillar 2情報申告書(GIR)提出 | 同上 |
| トップアップ税の納付 | 申告書提出と同時 |
12月決算の対象MNEの場合、2025年1月から12月の事業年度(初年度)のDMTT申告期限は2027年6月30日となります。2回目以降は事業年度終了から15カ月以内です。
申告主体の指定
MNE Groupは「指定申告主体(Designated Filing Entity)」を選んで一括申告するか、構成会社ごとに個別申告するかを選択できます。グループ内のUAE法人が複数ある場合は通常、指定申告主体に集約するほうが効率的です。
ペナルティの免除規定
2026年12月31日以前に開始し、2028年6月30日以前に終了する事業年度については、合理的な対応措置を講じた場合に限り申告ペナルティが免除される経過措置があります。ただし税額そのものは課税されるため、計算自体は正確に行う必要があります。
既存UAE法人税との関係
UAE法人税(CT)とDMTTは別建てで運用される構造です。
| 項目 | UAE法人税(CT) | UAE DMTT |
| 根拠法令 | Federal Decree-Law No. 47 of 2022 | Cabinet Decision No. 142 of 2024 |
| 適用開始 | 2023年6月1日 | 2025年1月1日 |
| 税率 | 課税所得AED 375,000まで0%、超過分9% | ETR 15%への補完課税 |
| 対象 | UAE国内のすべての課税法人 | 売上7億5,000万ユーロ以上のMNE傘下のUAE法人 |
| 課税ベース | 国内利益 | 管轄別GloBE所得 |
| QFZP | 適格所得は0% | DMTT適用あり |
つまり対象MNEに属するUAE法人は、まずUAE CT(9%または0%)を計算し、その上でDMTTでETR 15%との差額を上乗せ納付する二重コンプライアンスを負います。当会計事務所のクライアントでも、QFZP適用で実効税率0%を享受していた多国籍グループのUAE子会社が、DMTT導入で実効15%に引き上げられるケースが既に発生しています。
実務対応の5ステップ
対象MNEのUAE法人が今から着手すべき実務対応を整理します。
ステップ1 対象判定
UPEの連結財務諸表で過去4事業年度の連結売上を確認し、7億5,000万ユーロ基準を超える年度が2回以上あるかを判定します。グループ本社の経理部門と連携し、Pillar 2スコープインの正式判定を文書化します。
ステップ2 構成会社マッピング
UAE国内のすべての構成会社(メインランド、フリーゾーン、PE、JV)をリストアップし、それぞれの法的形態、税務上の取扱い、QFZPステータスを整理します。GloBE所得は管轄単位で集計するため、UAE全構成会社の財務データを統合する基盤が必要です。
ステップ3 GloBE所得とETRの試算
UAE構成会社の連結ベース財務データから、GloBEルールに基づく所得と調整後対象租税を算定します。QFZP適用で実効税率0%の法人が含まれる場合、ETRが15%を大きく下回ることが想定されるため、トップアップ税の見積額を経営陣に共有しておくべきです。
ステップ4 セーフハーバー適用判定
CbCRセーフハーバー(移行期間中)、デミニマス・セーフハーバー、国際事業初期フェーズ除外のいずれかが適用可能かを精査します。Once Out, Always Outルールがあるため、初年度の判定を慎重に行います。
ステップ5 申告体制とシステム整備
指定申告主体の選定、FTAへの登録、GIRおよびTop-up Tax Returnの作成プロセス、社内データ収集フローを構築します。グループ本社のPillar 2システム(OneSourceやSAP Profit Tax Reportingなど)とUAEの会計データを連動させる準備期間として、最低でも6カ月は見込むべきです。
対象とならない中小企業オーナーへの示唆
DMTTは連結売上7億5,000万ユーロ(およそ1,200億円)超の大規模グループが対象であり、当会計事務所が支援する大半の中小企業オーナーには直接適用されません。ただし以下の波及効果には注意が必要です。
- 大手取引先からの価格交渉や取引条件見直しを通じた間接影響
- UAEのフリーゾーンインセンティブ全体に対する将来の見直し議論
- OECDからの追加ガイダンスに対応した法令改正リスク
- 将来的にIIRやUTPRが導入された場合の波及影響
中堅・中小企業オーナーであっても、グループ全体の連結売上やM&A戦略によっては将来的に対象となる可能性があります。たとえばUAE法人を起点に欧州や東南アジアに拡張し、グループ売上が積み上がる過程で対象化することは十分あり得ます。最新ガイダンスはFTA Corporate Tax公式ページで確認するのが確実です。
まとめ
📋 今回のポイント
- UAE DMTTは2025年1月1日以後開始事業年度から、連結売上7億5,000万ユーロ以上のMNE傘下のUAE法人に適用される最低実効税率15%の補完課税
- UAE CT(9%)またはQFZP(0%)の適用後、ETRが15%未満の場合に差額を追加納付する二重コンプライアンス構造
- SBIE(適格給与・適格有形資産の一定割合を所得から除外)により、UAEに実態のある法人ほど課税ベースが圧縮される
- セーフハーバーは3層(デミニマス恒久措置、CbCR移行措置、初期フェーズ除外)。CbCRには「Once Out, Always Out」制約あり
- 12月決算法人の初年度申告期限は2027年6月30日。2026年12月31日以前開始事業年度はペナルティ免除措置あり
- QFZP適用で0%を享受してきたフリーゾーン法人は、対象MNEに該当する場合は実効税率15%への引き上げを織り込んだ持株構造・投資判断の再設計が必要
当会計事務所は、UAE現地でMNE構成会社を運営する日系企業向けにDMTT対応支援を提供しています。対象判定、GloBE所得試算、セーフハーバー適用判定、FTA登録、申告書作成支援まで一気通貫で対応可能です。連結売上が7億5,000万ユーロに接近している、あるいはすでに超過しているグループのUAE法人責任者は、お早めにご相談いただくことをおすすめします。
【根拠法令・参考資料】
- Federal Decree-Law No. 60 of 2023(DMTT根拠規定追加)
- Cabinet Decision No. 142 of 2024(DMTT詳細ルール)
- UAE Ministry of Finance – Domestic Minimum Top-up Tax
- Federal Tax Authority Corporate Tax公式
- OECD Pillar Two Model Rules in a Nutshell
- EY「UAE issues domestic minimum top-up tax legislation」
- PwC Middle East「UAE DMTT Alert」
- KPMG UAE「The UAE unpacks its Pillar Two rules」
- BDO Global「UAE Transitional CbCR Safe Harbour」
