出国税1億円超オーナーが取るべき11の節税対策|移住前に出来ること一覧

投稿:2026年6月5日更新:2026年6月5日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。ドバイ移住をご検討の中小企業オーナーや個人投資家の方々から、当会計事務所に寄せられるご相談の中で最も切実なテーマの一つが「出国税の負担をどう軽減するか」というものです。

国外転出時課税制度(いわゆる出国税)は、時価合計1億円以上の有価証券等を保有する日本居住者が国外に転出する際、含み益に対してみなし譲渡所得として15.315%を課す制度です(国税庁タックスアンサーNo.1478)。含み益1億円があれば約1,500万円、5億円なら約7,650万円というキャッシュアウトが、出国を機に発生する構造です。

本記事では、出国税の負担を軽減するための代表的な対策を、定番の手法から専門性の高いスキームまで、ドバイ移住を見据えた中小企業オーナーの目線で整理します。1AED=43円換算(2026年5月時点)で日本円換算も併記しています。

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出国税の基本構造と1億円ラインの判定

対策に入る前に、出国税の課税要件を整理しておきます。出国税が適用されるのは、次の3要件をすべて満たす場合です(国税庁「国外転出時課税制度のあらまし」PDF)。

要件 内容
居住者要件 出国時点で日本の居住者であること
滞在期間要件 出国前10年以内に、日本に住所または居所を有していた期間が5年を超えていること
資産規模要件 保有する有価証券等の時価合計が1億円以上であること

ここで重要なのが、資産規模要件の1億円ラインです。この閾値を下回れば出国税の申告義務そのものが発生しないため、1億円未満に資産規模を抑えることが対策の起点となります。

対象資産には、上場株式、投資信託、非上場株式(同族会社株式含む)、新株予約権、匿名組合契約の出資持分などが含まれます。NISA口座内の有価証券も1億円判定および課税所得計算の両方の対象に含まれる点には特にご注意ください(税理士法人トゥモローズ「国外転出時課税制度とは」)。一方、現預金・不動産・暗号資産は対象外です。

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対策1 役員報酬による法人純資産の圧縮

ドバイ移住予定の中小企業オーナーにとって、最も基本的かつ実行しやすい対策が、役員報酬を活用した法人純資産の圧縮です。同族会社株式の出国税評価は、原則として相続税評価額(純資産価額方式または類似業種比準価額方式)に基づき算定されます。役員報酬を計画的に増額することで、法人の利益を圧縮し、結果として純資産価額を低下させることができます。

対策の流れ 内容
出国の3年から5年前から計画 役員報酬を段階的に増額(過大認定リスクに留意)
法人利益を圧縮 各事業年度の利益を抑制
純資産価額を低下 自社株評価額を引き下げ
出国時の自社株評価を1億円未満に 出国税申告義務を回避

ただし、京醍醐味噌事件(東京高R6.1.18棄却)で示されたとおり、役員報酬には不相当に高額な部分として損金不算入リスクがあります。同業類似法人の役員給与水準、当該法人の収益状況、役員の職務内容との整合性を保つことが必須です。

対策2 役員退職金による一括圧縮

役員報酬よりも一気に法人純資産を圧縮できる強力な手段が、役員退職金です。役員退職金は所得税法上、退職所得として分離課税され、勤続年数に応じた退職所得控除と1/2課税の優遇により、極めて低い実効税率で受け取ることができます(国税庁タックスアンサーNo.1420「退職金を受け取ったとき」)。

区分 計算式
退職所得控除 勤続20年以下は40万円×勤続年数、20年超は800万円+70万円×(勤続年数-20年)
退職所得 (退職金-退職所得控除)×1/2
税率 所得税は累進、住民税10%

たとえば勤続30年の経営者が退職金5,000万円を受け取る場合、退職所得控除は1,500万円、退職所得は1,750万円、実効税率は概ね20%前後となります。同額を役員報酬で受け取ると45%前後の累進税率が適用されるため、実効税率で20ポイント以上の差が生まれます。

法人側では役員退職金の損金算入により純資産が大幅に圧縮され、自社株評価額も大きく低下します。出国前の最終仕上げとして、極めて有効な対策です。

ただし、役員退職金は実態として退職していることが税務上の前提となるため、ドバイ移住に合わせて代表取締役を退任し、後任に経営権を譲る形を整える必要があります。また、勤続年数5年以下の役員退職金については1/2課税の適用がない点にも留意が必要です。

対策3 配当による現預金の引き出し

法人内に蓄積された利益剰余金を配当として個人に移転することで、自社株評価額を圧縮する方法です。配当金は所得税法上、配当所得として総合課税(または上場株式の場合は申告分離)の対象となります。総合課税の場合、累進税率に加えて配当控除(10%または5%)が適用されます。

役員報酬・役員退職金が損金算入による法人税節税効果も伴うのに対し、配当は法人税の損金にならない点で不利ですが、役員退職金の支給要件を満たさない場合役員報酬を急増させたくない場合に有効な選択肢となります。

なお、ドバイ非居住者となった後にドバイ法人で受け取る配当は、UAEに個人所得税がないため実質非課税となります。配当のタイミングをドバイ移住後に設計することも有効な戦略です。日本子会社からの配当については日本側で源泉徴収されますが、日UAE租税条約により議決権10%以上を6か月超保有する親子会社間配当は5%、その他配当は10%の限度税率が適用されます(財務省「アラブ首長国連邦との租税条約のポイント」)。

関連記事:日UAE租税条約は個人居住者には使えない

対策4 オペレーティングリースによる課税の繰延

日本型オペレーティングリース(JOL)は、航空機・船舶・コンテナなどの高額資産を匿名組合経由でリースし、出資者が初年度に出資額の70%から80%を損金算入できるスキームです。

観点 内容
対象資産 航空機、船舶、コンテナ等の高額償却資産
初年度損金算入率 出資額の概ね70%から80%
リース期間 概ね7年から10年
出口 リース満了時に資産売却、出資金が戻る

出国前のタイミングでオペリースに出資すると、初年度の大きな損金で法人利益を圧縮し、自社株評価額を低下させる効果があります。ただし、リース満了時には大きな益金が計上されるため、満了時に役員退職金や設備投資で相殺する出口戦略を組み合わせる必要があります。ドバイ移住後に法人に残された場合の出口処理は、複雑な税務調整を要するため、出国計画と一体での設計が必須です。

対策5 経営力向上計画(中小企業経営強化税制)

中小企業経営強化税制は、中小企業庁の経営力向上計画認定を受けた中小企業者等が、特定設備を取得した場合に即時償却または取得価額の最大10%の税額控除を選択できる制度です(中小企業庁「中小企業経営強化税制」国税庁タックスアンサーNo.5434)。税額控除率は資本金3,000万円以下の中小企業で10%、3,000万円超〜1億円以下で7%です。

対象設備として近年特に注目されているのが、次のような設備です。

対象設備 説明
IoT機能搭載の自動販売機 売上データ収集・在庫管理機能を備えた高機能自販機
GPUサーバー AI開発・データ分析用の高性能サーバー
工作機械 製造業向けの最新機械設備
ソフトウェア 経営力向上計画に位置付けられた業務ソフト

これらの設備を出国前のタイミングで取得し即時償却を選択すれば、取得価額のほぼ全額を初年度に損金算入でき、法人利益と自社株評価額を大幅に圧縮することが可能です。たとえばGPUサーバーを2,000万円で取得して即時償却すれば、法人税率約30%として約600万円の法人税が節税できると同時に、純資産も2,000万円減少して自社株評価額が引き下げられる効果が得られます。

対策6 出国前の有価証券売却による1億円ライン回避

最も直接的な対策が、出国前に含み益のある有価証券の一部または全部を売却して、1億円ラインを下回らせる方法です。

観点 内容
税率 通常の譲渡所得税15.315%+住民税5%=20.315%
メリット 出国税の申告義務そのものを回避
デメリット 出国前年に多額の所得税が発生

実効税率の観点では出国税(15.315%)よりも住民税分(5%)高くなりますが、申告事務、納税猶予手続き、ドバイ非居住者期間中の継続適用届出書の毎年提出といった事務負担をすべて回避できるメリットがあります。

特に、ドバイ移住後に当該有価証券を売却する予定がある場合、ドバイは個人キャピタルゲイン非課税ですので、売却タイミングをドバイ移住後に持ち越せるかどうかが重要な検討ポイントです。ドバイ移住後の売却ならば日本でもUAEでも非課税で売却益を取得できますが、出国時の含み益部分は出国税の対象として残ります。

対策7 NISA口座は出国税の対象であり節税にならない点に注意

NISA口座については、誤解が広がりやすい論点です。NISA口座内の有価証券も出国税の対象となり、1億円判定にも課税所得計算にも含まれます国税庁「国外転出時課税制度のあらまし」PDF税理士法人トゥモローズ解説)。

観点 内容
1億円ライン判定 NISA口座内の時価合計は判定に含まれる
課税所得計算 NISA口座内の含み益も出国税の対象
非居住者となった後の扱い 原則として非居住者はNISA口座を保有できない(出国前の処分・移管が必要)

新NISA制度の年間投資枠(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)、生涯非課税枠1,800万円は、日本居住中の運用には強力な節税ツールですが、出国税対策としては機能しません。むしろ非居住者となる前にNISA口座の取扱いをどうするか(売却して現預金化するか、特定口座へ移管するか)の計画が必要となります。

対策8 含み損ポジションの活用(損益通算)

出国時の含み益と含み損のあるポジションは通算することができます。全体として含み損であれば課税は発生しません。

戦略 内容
出国前に含み損ポジションを残す 含み益ポジションとの通算で課税所得を圧縮
含み損が大きい場合は売却 通常の損失として翌年以降3年間繰越控除
出国前の損出し 含み益銘柄の一部売却+同一銘柄の買い直しで取得価額を引き上げ

ただし、損益通算の計算は複雑なため、出国の半年から1年前から税理士と組んで一覧化・シミュレーションを行うことが推奨されます。

対策9 納税猶予制度の活用

出国税の課税は避けられない場合でも、納税猶予制度を活用することで出国時のキャッシュアウトを回避できます(西村あさひ法律事務所「出国税の創設」三井住友銀行「国外転出時課税制度(出国税)とは」)。

項目 内容
猶予期間 5年4ヶ月(延長申請で最長10年4ヶ月)
必要手続 納税管理人の届出、確定申告、担保提供、毎年の継続適用届出書提出
担保 国債、有価証券、不動産、保証人等
利子税 猶予期間中は利子税が発生

特に重要なのが、5年(延長で10年)以内に帰国し、対象資産を継続保有していれば、課税が遡って取り消される点です。ドバイ移住の意思が固まりきっておらず、5年から10年程度で帰国の可能性を残している方にとっては、納税猶予制度は事実上の課税回避策として機能します。

関連記事:出国タイミング完全解説

対策10 非上場株式を担保とした納税猶予

ドバイ移住予定の中小企業オーナーで、保有資産のほとんどが同族会社株式である方には、非上場株式を担保とした納税猶予が有効です。通常、納税猶予の担保には流動性の高い上場株式や国債が望まれますが、納税猶予対象資産のほとんどが非上場株式で、かつ他に適当な担保財産がないと認められる場合は、その非上場株式自体を担保として提供することが認められます。

これにより、自社株1点で資産形成してきた中小企業オーナーでも、追加の担保資産を用意せずに納税猶予を選択できる道筋ができます。

対策11 法人を活用した資産保有構造の見直し

個人で直接保有している有価証券・不動産・暗号資産などを、法人保有の構造に移行することで、出国税の課税対象から外す方法です。

移行前 移行後
個人保有の上場株式(時価1億円超) 法人保有の上場株式
個人保有の不動産(出国税対象外だが二次的論点あり) 法人保有の不動産
個人保有の暗号資産(出国税対象外だが他の論点あり) 法人保有の暗号資産

ただし、個人から法人への移管時にはみなし譲渡所得課税贈与税課税が発生するため、移行コストと将来の節税効果の比較が必須です。また、法人を介した保有構造は管理支配基準(外国子会社合算税制、CFC税制)の論点とも絡むため、慎重な設計が求められます。

関連記事:UAEコンプライアンス・実体要件総覧

対策の組み合わせ例 ドバイ移住3年計画

実務的には、上記対策を組み合わせることで効果が最大化されます。中小企業オーナーがドバイ移住を3年計画で進める場合の典型例を整理します。

タイミング 実施内容
3年前 経営力向上計画認定→GPUサーバー・IoT自販機等の設備取得+即時償却
3年前 オペレーティングリース出資(出口を7-10年後に設定)
2年前 役員報酬の段階的増額(過大認定リスクに留意)
1年前 含み損ポジションの活用、損益通算シミュレーション
半年前 役員退職金の支給設計、後任体制の構築
3か月前 出国前の有価証券売却(必要に応じて1億円ライン下回りへ調整)、NISA口座の処分・移管
出国前 納税管理人選任、納税猶予制度の活用準備、担保提供

このようなマルチイヤープランで進めることで、出国税の負担を数千万円単位で軽減することが可能となります。

対策実行時の留意点

これらの節税策を実行する際の留意点を整理します。

留意点1 移住意思の明確化

納税猶予制度は5年から10年以内の帰国で課税取消が可能ですが、本気でドバイ移住する場合、最終的には課税が確定します。帰国予定の有無によって戦略全体が変わるため、まずは家族・事業面での移住意思を明確化する必要があります。

留意点2 早期からの計画着手

出国税対策の多くは、出国の3年から5年前から着手することで効果が最大化されます。出国直前の対策は選択肢が大幅に狭まるため、ドバイ移住を本格検討する段階で並行して着手することが推奨されます。

留意点3 過大役員報酬・過大退職金リスク

役員報酬・役員退職金の急増は、不相当に高額な部分として損金不算入となるリスクがあります。京醍醐味噌事件の判断枠組みに照らして、同業類似法人比準・収益対比・職務実態の整合性を確保することが必要です。

留意点4 ドバイ側の税務取扱いとの整合

ドバイ移住後の税務取扱いとの整合性も重要です。たとえば配当の受領タイミングをドバイ移住後に持ち越す場合、ドバイ法人の管理支配基準(外国子会社合算税制)との関係を整理しておく必要があります。

留意点5 オペレーティングリース出口戦略

オペリースの満了時には大きな益金が発生するため、満了時に役員退職金や大規模修繕などの損金で相殺する出口戦略が必須です。ドバイ移住後に日本法人で出口を迎える場合は、満了時の経営者退職金支給のシミュレーションを事前に行う必要があります。

まとめ

📋 今回のポイント

  • 出国税は時価1億円以上の有価証券等を保有する日本居住者が対象、税率15.315%(NISA・暗号資産は判定方法に注意)
  • 役員報酬・役員退職金・経営力向上計画即時償却で法人純資産を圧縮し、自社株評価を1億円未満に抑える戦略が中核
  • NISAは出国税の対象であり節税にならない。むしろ非居住者となる前に処分・移管の計画が必要
  • 納税猶予制度(5年4ヶ月、延長で最長10年4ヶ月)と帰国時の課税取消は重要な逃げ道
  • 3年から5年の長期計画で複数対策を組み合わせることで、出国税負担を数千万円単位で軽減可能
  • 移住直前では選択肢が狭まるため、ドバイ移住検討と同時並行で対策着手することが鉄則

当会計事務所は、ドバイ移住を視野に入れる中小企業オーナーの出国税対策について、具体的なシミュレーション、最適な対策の組み合わせ設計、ドバイ移住後の税務体制構築までワンストップでサポートしています。1億円超の有価証券を保有されており、ドバイ移住をご検討中の方は、早期のご相談をおすすめします。

【根拠条文・出典】

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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