ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
UAE法人税法では、法人税額は「課税所得(Taxable Income)の9%」として計算されます。しかし「課税所得とは何か」「会計上の利益とどう違うのか」を正確に説明できる方は意外と多くないのが実情です。
本記事では、UAE法人税における課税所得の定義、会計上の当期純利益との違い、そして実務で必ず押さえるべき7つの税務調整項目を、根拠条文とともに解説します。
課税所得(Taxable Income)とは何か
課税所得とは、税務上の収益(益金)から税務上の費用(損金)を差し引いた金額を指します。UAE法人税法上はFederal Decree-Law No. 47 of 2022 (Corporate Tax Law) 第20条において、課税所得は「対象会計期間の会計上の純利益(または損失)に対し、所定の調整を加えた金額」と定義されています。
課税所得と比較してよく用いられるのが、(税引前)当期純利益です。当期純利益はビジネス上最もポピュラーな概念のひとつで、一般に「利益」というと会計上の当期純利益を指すことが多いものです。
当期純利益とは、売上から売上原価・販売管理費・利息支払い等あらゆる支払いを差し引いた後に会社に残る利益を指します。
| 区分 | 定義 | 目的 |
| 課税所得 | 税務上の収益(益金)-税務上の費用(損金) | 法人税額の計算 |
| 当期純利益 | 売上・その他収益-原価・販管費・営業外費用 | 財政状態・経営成績の表示 |
これだけ見ると、課税所得と当期純利益は同じものではないかと思う方もいるかもしれません。実際に両者が完全に一致するケースもあります。
しかし課税所得が当期純利益と一致しないこともあります。理由は、課税所得はあくまで税金計算のためのものであり、会社の財政状況・経営成績を適切に反映し投資家の判断のために公表される会計上の利益とは目的が異なるためです。
一般的に、課税所得は当期純利益に比べてコンサバティブに計算される傾向があります。例えば固定資産の減損について、会計上は投資が回収できないと判断される資産に対し投資家への情報提供のため先行して減損損失を計上しますが、税務上は減損損失を計上しません。これは税金計算上、未確定の損失が計上されると会社判断の余地が大きくなり、納税額を意図的に変える事ができてしまうためです。
そのため、課税所得を算出する際は、会計上の当期純利益をベースとしつつ、一定の調整を加えます。会計上の利益と課税所得は目的が違うことにより、調整を経て両者の数値に差が生じる可能性があります。
実務上は課税所得と当期純利益を個別に算出するのは手間がかかるため、まず会計上の利益を算出し、それをベースに税務上の調整項目を加減算して課税所得を算出することが一般的です。
課税所得を計算するための7つの税務調整項目
会計上の当期純利益から課税所得を算定するにあたり、税務上の調整が必要とされる項目は以下の7つです(Corporate Tax General Guide (CTGGCT1) およびCorporate Tax Law第20条参照)。
| No. | 調整項目 | 根拠条文 |
| 1 | 未実現利益/損失 | 第20条(3) |
| 2 | 配当金などの非課税所得 | 第22条・第23条 |
| 3 | 組織再編行為に関する調整 | 第26条・第27条 |
| 4 | 税法上認められない控除 | 第28条〜第33条 |
| 5 | 関連当事者および関連者との取引に関する調整 | 第34条・第36条 |
| 6 | 優遇措置または税制上の優遇措置 | 第18条・第19条 |
| 7 | 大臣が指定するその他の調整 | 第20条(2)(i) |
1. 未実現利益/損失
主に為替差損益、固定資産の評価損、減損等から生じる未実現利益・損失については、会計上は収益や費用として取り扱うことがありますが、税務上は損益として認識しないことがあります(発生主義と実現主義の違い)。
そのような場合は税務上の加算/減算を行う必要があります。なお、納税者は会計上の実現基準(Realisation Basis)の選択により、未実現損益を一律に税務上認識しない取扱いを選ぶことも可能です。
2. 配当金などの非課税所得
UAE国内法人から受け取った配当益や、一定の要件(参加免税:Participation Exemption)を満たす外国法人からの配当益については、会計上は利益となりますが、税務上の課税所得には含まれません。
そのため、受取配当金については税務上の減算が必要となるケースがあります。参加免税の主な要件は、持株比率5%以上かつ保有期間12ヶ月以上、被投資会社が9%以上の実効税率課税を受けていること等です(第23条)。
3. 組織再編行為に関する調整
株式を対価とした事業の一部もしくは全部の譲渡(Qualifying Business Restructuring Relief:第27条)や、グループ内資産移転(Qualifying Group Relief:第26条)に関しては、当該組織再編行為から発生する所得を税務上認識しなくてよい取扱い(課税繰延)があります。
そのようなケースでは、税務上の課税所得を調整する必要があります。
4. 税法上認められない控除
以下の支出は会計上費用として計上しても、税務上の損金には算入できません(第28条〜第33条)。
- 支払利息のうち、一般利息制限ルール(EBITDA30%超過部分・第30条)または特定利息制限ルール(第31条)に抵触する金額
- 交際費(Entertainment Expenditure)のうち、税務上認められる金額(実費の50%)を超える部分(第32条)
- 政府により認められていない団体に対する寄付金
- 罰金(行政罰・刑事罰)や賄賂
- VAT還付不能税額のうち事業に直接関係しない部分
- 法人税自体(第33条)
これらの支出は税務上の加算調整が必要になります。
5. 関連当事者および関連者との取引に関する調整
関連当事者(Related Parties)および関連者(Connected Persons)との取引については、第三者間で行われた場合に成立する価格(独立企業間価格:Arm’s Length Price)で取引される必要があります(第34条)。
例えば、親会社と子会社という関係性だからといって市場価格より著しく低い金額で取引することは、利益の意図的な調整につながるため法人税法上認められません。その場合は独立企業間価格で取引を行ったものとみなして税金を計算する必要があります。
また、株主・役員等の関連者に対する報酬・利息・賃料も、市場水準を超える部分は損金算入できません(第36条)。
6. 優遇措置または税制上の優遇措置
適格フリーゾーン者(QFZP:Qualifying Free Zone Person)に該当する場合、Qualifying Incomeに対しては0%税率が適用されます(第18条)。また、Small Business Relief(中小企業向け課税免除:第21条)の適用を受ける場合も、課税所得がゼロとみなされるため、対応する調整が必要です。
7. 大臣が指定するその他の調整
財務大臣(Minister of Finance)はCabinet Decisionにより、課税所得計算に必要な追加調整を指定する権限を有します(第20条(2)(i))。今後の制度改正で追加項目が指定される可能性があるため、最新のFTA Corporate Tax公式ページでの確認が必要です。
実務上の留意点
上記の調整項目を当期純利益に加減算して課税所得を算出することになりますが、実務では以下の点に留意が必要です。
- 会計帳簿の正確性が前提:課税所得は会計利益をベースに算出するため、IFRSまたはIFRS for SMEsに準拠した正確な会計帳簿が出発点となります
- 移転価格文書の整備:関連当事者取引がある場合、Local File・Master Fileの作成義務(収入20億AED超または多国籍企業グループ年間収益31.5億AED超)への対応が必要です
- 監査済財務諸表との整合:売上5,000万AED超の法人は監査済財務諸表の提出義務があり、会計利益と課税所得の調整明細書(Reconciliation)を整備する必要があります
- 申告期限:対象会計期間終了後9ヶ月以内に法人税申告書を提出し納税する必要があります
まとめ
📋 今回のポイント
- UAE法人税の課税所得は会計上の当期純利益をベースに、7つの税務調整項目を加減算して算出する
- 調整項目は①未実現損益、②非課税所得、③組織再編、④損金不算入、⑤関連者取引、⑥優遇税制、⑦大臣指定の7つ(Corporate Tax Law第20条)
- 会計利益と課税所得が一致しないのは「会計目的(投資家への情報提供)」と「税務目的(公平な納税)」が異なるためで、税務はよりコンサバティブな計算となる
- 支払利息制限(EBITDA30%)・交際費50%損金算入・移転価格独立企業間原則は実務で頻出する論点
- 監査済財務諸表提出義務(売上5,000万AED超)の対象法人は、会計利益と課税所得のReconciliation明細書の整備が必須
当会計事務所は、UAE法人税法に基づく課税所得の計算、税務調整項目の検討、移転価格文書の整備、監査対応まで一気通貫でサポートしております。会計上の利益と税務上の所得の差異整理にお悩みの法人様は、お気軽にご相談いただくことをおすすめします。
【根拠法令・参考資料】
