ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
UAEは2025年1月1日以後開始の事業年度から、Pillar Twoに基づく国内ミニマムトップアップ税(DMTT)を導入しました。連結売上7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループ(MNE Group)に属するUAE法人は、UAE全体の実効税率(ETR)が15%未満なら差額を納付します。
法人税の本則税率が9%である以上、対象グループ傘下のUAE法人には原則6%相当の課税が生じ、QFZPとして0%適用を受けるフリーゾーン法人も例外ではありません。2026年に登録期限と申告義務者が確定しました。
UAE DMTT導入の根拠法令と施行日
2023年11月24日のFederal Decree-Law No. 60 of 2023で根拠規定が置かれ、2025年2月11日にCabinet Decision No. 142 of 2024が官報掲載され詳細が確定しました(EYのタックスアラート)。
| 項目 | 内容 |
| 根拠法令 | Federal Decree-Law No. 60 of 2023、Cabinet Decision No. 142 of 2024 |
| 解釈指針 | Ministerial Decision No. 96 of 2026 |
| 施行日 | 2025年1月1日以後に開始する事業年度 |
| 最低実効税率 | 15% |
| 対象 | 連結売上7億5,000万ユーロ以上のMNE Group傘下のUAE法人 |
| 監督官庁 | 連邦税務庁(FTA) |
2026年6月22日の閣僚決定第96号は、OECDのコメンタリーと行政ガイダンスを解釈基準として採用し、Ministerial Decision No. 88 of 2025を廃止しました。OECD文書が拠り所となるため、日本の親会社の算定と整合しやすくなります。なおUAEは所得合算ルールも軽課税所得ルールも導入していません(財務省の公式解説)。
対象判定 7億5,000万ユーロのしきい値
対象は、最終親会社の連結財務諸表で直近4事業年度のうち2年度以上、連結収益が7億5,000万ユーロ以上のグループの構成会社です(PwC Middle EastのDMTTアラート)。
- UAEに親会社を置くグループでも、国外に1拠点でもあれば対象になり得る
- UAE国外に拠点を持たないグループは対象外
- AEDやUSD建ての連結財務諸表は年度末の為替でユーロ換算する
構成会社にはメインランド法人、フリーゾーン法人、恒久的施設、共同支配企業、少数所有構成会社が含まれ、投資事業体は外れます。
トップアップ税の計算ロジック
| ステップ | 内容 |
| 純Pillar 2所得 | UAE全構成会社のGloBE所得を合算 |
| 調整後対象租税 | カバード・タックスを集計 |
| 実効税率 | 対象租税を純Pillar 2所得で除算 |
| トップアップ税率 | 15%から実効税率を控除 |
| 実質ベース所得除外 | 適格給与と適格有形資産の一定割合を控除 |
| 税額 | 除外後の所得に税率を乗算 |
実質ベース所得除外(SBIE)
UAE国内に実態のある事業活動については、適格給与費用が10%相当から10年で5%へ、適格有形資産の簿価が8%相当から同様に5%へ収斂する割合で所得が除外されます(OECD Pillar Two Model Rules)。実態の厚みがあれば課税ベースは圧縮され、実態の薄い持株会社は直撃を受けます。
セーフハーバー 3種類の救済規定
デミニマス・セーフハーバー
UAE全構成会社の平均売上が1,000万ユーロ未満かつ平均DMTT所得が100万ユーロ未満なら税額はゼロとみなされ、当該年度と前2年度の3年平均で判定します。
移行期間CbCRセーフハーバー
2027年1月1日より前に開始し2028年7月1日より後に終了しない年度に限り、国別報告書に基づき次のいずれかを満たせばゼロが認められます(BDO Globalの解説)。
| テスト | 内容 |
| デミニマス | 売上1,000万ユーロ未満かつ税引前利益100万ユーロ未満 |
| 簡易ETR | 移行率以上(2024年15%、2025年16%、2026年17%) |
| 通常利益 | 税引前利益がSBIE額以下 |
「Once Out, Always Out」ルールにより、ある年度で適用しなければ同じ管轄で翌年度以降も適用できず、初年度の判定を軽く扱うと恒久的に選択肢を失います。
国際事業活動初期フェーズ除外
所在国が6カ国以下、最も簿価の高い管轄を除く有形資産簿価が5,000万ユーロ以下、適格IIR適用親会社の持分保有がない、をすべて満たす新興グループは最長5年間ゼロです。
UAEヘッドクォーターのMNEに対する適用除外
UAE国外に構成会社も恒久的施設も持たないグループは対象外です。ただし販売子会社を国外に1社設立しただけで判定の俎上に乗るため、海外展開の初手が課税ステータスを変える点は、UAEを持株地とする日系グループが見落としやすい論点です。
申告スケジュールと登録義務
2026年8月26日、FTAはガイドTTGREG1「Scope and Registration」とTTGEIE1「Excluded Entities and Investment Entities」をFTAのガイド一覧で公表しました。
登録と登録解除の期限
2026年7月16日発出、同年8月4日にFTAの法令ページで公表されたFTA決定第12号が期限を定めました(Deloitte Middle Eastの解説)。
| 手続 | 期限 |
| 登録(原則) | 最初の対象事業年度の終了から7カ月以内 |
| 登録(経過措置) | 2026年4月30日より前に終了した年度は2026年11月30日まで |
| 登録解除(原則) | 消滅日と離脱で対象外となった年度末のうち早い日から6カ月以内 |
| 登録解除(経過措置) | 2026年6月30日より前の消滅または離脱は2026年12月31日まで |
| 対象外の通知 | 当該事業年度の終了から6カ月以内 |
| 再び対象となった通知 | 当該事業年度の終了から7カ月以内 |
対象外通知は当該年度とその後4事業年度にわたり有効です。未納税額や未提出の申告書が残る限り登録解除は認められません。12月決算で2025年度から対象となる法人は、2026年11月30日の期限から逆算した準備が必要です。
申告主体の指定
財務省は同日、情報申告書の提出義務者を定める閣僚決定第133号を発出しました(Emirates News Agencyの発表)。義務者はUAEの各構成会社(投資事業体を除く)、各共同支配企業とJV子会社、UAE法に基づく逆ハイブリッド事業体である無国籍構成会社です。提出は各社が自ら行うか、指定ローカル事業体が代理します。UAE子会社が複数あるグループは提出主体を早期に一本化すると漏れを防げます(Gulf Newsの報道)。
除外エンティティの線引き
TTGEIE1は、どの事業体が課税規定の外に出るかを整理したガイドです。新たな免除は創設せず、政府関係機関、国際機関、非営利団体、年金基金、投資ファンドや不動産投資ビークルである最終親会社などを検討対象とします。除外エンティティと投資事業体は原則として登録も申告も不要ですが、組織構造情報に含めます。
実務で詰まるのは境界線です。除外エンティティに該当し得る事業体を除外扱いとしない選択(5年間有効、事業体ごと)を採ると、その事業体は構成会社となり登録義務を負います。ファンド持分の位置づけが年度で動く構造では、持分と議決権の実データを毎期洗い直します。
申告期限とペナルティ免除
両申告書は年度終了後15カ月以内(初年度は18カ月以内)に提出し、納付も同時に行います。12月決算法人の初年度期限は2027年6月30日です。2026年12月31日以前開始で2028年6月30日以前終了の年度は、合理的な対応措置を講じた場合に限りペナルティが免除されます。
既存UAE法人税との関係
| 項目 | 法人税 | DMTT |
| 適用開始 | 2023年6月1日 | 2025年1月1日 |
| 税率 | AED 375,000(約1,613万円、1AED43円換算)まで0%、超過9% | 実効税率15%への補完課税 |
| 課税ベース | 国内利益 | 管轄別GloBE所得 |
| QFZP | 適格所得は0% | 適用あり |
対象グループのUAE法人は、法人税の計算に加えDMTTで実効15%との差額を上乗せ納付する二重コンプライアンスを負います。当会計事務所でも、QFZPで実効0%だったUAE子会社が15%に引き上げられる事例が出ています。
実務対応の進め方
対象判定と構成会社マッピング
最終親会社の連結財務諸表で過去4事業年度の売上を確認し、基準超過が2回以上かを判定します。並行してUAE国内の構成会社を洗い出し、法的形態、QFZPステータス、除外該当性をTTGEIE1に沿って整理します。
GloBE所得試算とセーフハーバー判定
連結ベース財務データからGloBE所得と調整後対象租税を算定し、実効税率と税額の見積りを経営陣に共有し、各セーフハーバーの適用可否を精査します。
登録と申告体制の整備
FTA決定第12号の期限に沿って登録し、閣僚決定第133号を踏まえて提出主体を確定します。あわせて本社のPillar Twoシステムと現地の会計データ収集フローを接続します。
対象とならない中小企業オーナーへの示唆
DMTTは連結売上7億5,000万ユーロ、およそ1,200億円超のグループが対象で、当会計事務所が支援する大半の中小企業オーナーに直接適用されるものではありません。ただし大手取引先との価格交渉を通じた間接影響は意識すべきです。
ドバイ移住でUAEに持株会社を置く個人オーナーも無関係ではありません。日本を出国する際には国外転出時課税、いわゆる出国税が有価証券の含み益に課され、移住後にUAE法人がタックスヘイブン対策税制の対象となる場合、税率は特定外国関係会社27%、対象外国関係会社20%で判定されます。日本側のCFC判定と出国税の実行時期を含め、持株構造を一体設計するのが合理的です(FTAの法人税ページ)。
まとめ
📋 今回のポイント
- 2025年1月1日以後開始年度から適用の実効税率15%の補完課税
- 閣僚決定第96号でOECDコメンタリーを解釈基準に採用
- FTA決定第12号で登録は初回対象年度終了から7カ月以内、経過措置は2026年11月30日
- 閣僚決定第133号で情報申告書の提出義務者が確定、投資事業体は除外
- TTGREG1とTTGEIE1が2026年8月26日公表、除外判定が実務論点
- QFZPで0%だった法人は15%を前提に持株構造の再設計が必要
- ドバイ移住オーナーは出国税とCFC税制を含めた一体設計が有効
当会計事務所は、対象判定からGloBE所得試算、セーフハーバー判定、FTA登録、申告書作成までDMTT対応を一気通貫で支援しています。基準に接近しているグループのUAE法人責任者は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- Federal Decree-Law No. 60 of 2023、Cabinet Decision No. 142 of 2024
- FTA Top-up Tax Guides(TTGREG1、TTGEIE1)
- FTA Decision No. 12 of 2026
- Ministerial Decision No. 133 of 2026
- Ministerial Decision No. 96 of 2026
- Emirates News Agency
- Gulf News
- Deloitte Middle East
- UAE財務省 DMTT公式
- FTA Corporate Tax公式
- OECD Pillar Two Model Rules
- EY Tax Alert
- PwC Middle East
- BDO Global





