日本の非居住者判定とUAE個人居住者ルールについて徹底解説

投稿:2023年8月5日更新:2026年5月30日ブログ

こんにちは、ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

日本では、その個人が居住者であるか非居住者であるかによって納税範囲が大きく変わります。特にこれから海外駐在に行かれる方や、海外に法人を設立して今後は海外で事業を行う方にとって、非居住者に該当するかどうかは税務上きわめて大きな問題です。

そこで本日は、日本における非居住者の定義、納税範囲、非居住者として認定されるために必要な考え方、そしてUAE側の居住者ルール(Cabinet Decision No. 85 of 2022)との関係について、2026年5月時点の最新法令を踏まえて解説します。

1. 日本の税法における居住者・非居住者の定義

1-1. 所得税法上の区分

日本の所得税法では、居住者と非居住者について以下のように定義されています(国税庁タックスアンサー No.2875 居住者と非居住者の区分)。

区分 定義
居住者 国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人
非居住者 居住者以外の個人

上記のとおり、国内に「住所」または「居所」(1年以上)を持つ者が居住者で、それ以外は非居住者となります。

ここでいう「住所」は、いわゆる東京都世田谷区○○町××番地…のような単なる位置情報を表すものではありません。「居所」についても税務上特有の概念であり、住民票の所在地や滞在日数だけで自動的に決まるものではない点に注意が必要です。

2. 「住所」の意義と推定規定

2-1. 「生活の本拠」とは

所得税法には「住所」の具体的な規定はなく、所得税法基本通達に定めがあります。所得税基本通達2-1(住所の意義)では「住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する」と定められています。つまり「住所」とは、その人の生活の中心がどこにあるかで判定されることになります。

主要判例においても以下のように判示されています。

つまり、「ドバイに住むつもり」という主観的意思だけでは不十分で、客観的事実(生活の実態)が伴って初めて住所が認められます。

📖 関連記事:武富士事件・シンガポール事件・インドネシア250日事件・遠洋マグロ漁船事件など、住所判定の主要判例の整理は過去の判例から見る日本の非居住者判定|武富士事件・シンガポール事件・インドネシア250日事件・遠洋マグロ漁船事件からみる非居住者基準をご確認ください。

2-2. 「住所」の推定規定(所得税法施行令第14条・第15条)

「生活の本拠」という判断基準だけでは不明確な部分が大きいため、所得税法施行令第14条・第15条では職業等を基にした「住所の推定」規定が置かれています。

国内に住所を有する者と推定される場合(施行令第14条):国内に居住することとなった個人が、次のいずれかに該当する場合。

  1. その者が国内において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
  2. その者が日本の国籍を有し、かつ、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して1年以上居住するものと推測するに足りる事実があること

国内に住所を有しない者と推定される場合(施行令第15条):国外に居住することとなった個人が、次のいずれかに該当する場合。

  1. その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること
  2. その者が外国の国籍を有しまたは外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと

住所の推定にあたって特に重要となる要素は以下のとおりです。

※ 国内に住所を有する(しない)者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他扶養親族が国内(国外)に居住する場合には、これらの者も同様に推定されます。

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3. 「居所」の意義

3-1. 居所の解釈

「居所」は、その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所を指します。所得税法および所得税基本通達に居所の明文規定はないため、判例から解釈する必要があります。

神戸地裁平成14年10月7日判決では、「居所といいうるためには一時的に居住するだけでは足りず、生活の本拠という程度には至らないものの、個人が相当期間継続して居住する場所」と判示しています。単発の出張先やホテル滞在では居所にはあたらず、相当程度の継続性が必要という整理です。

3-2. 再入国した場合の居住期間(基本通達2-2)

所得税基本通達2-2では以下のように定められています。

国内に居所を有していた者が国外に赴き再び入国した場合において、国外に赴いていた期間中、国内に、配偶者その他生計を一にする親族を残し、再入国後起居する予定の家屋若しくはホテルの一室等を保有し、又は生活用動産を預託している事実があるなど、明らかにその国外に赴いた目的が一時的なものであると認められるときは、当該在外期間中も引き続き国内に居所を有するものとして、法第2条第1項第3号及び第4号の規定を適用する。

つまり、出国が明らかに一時的目的であると認められる場合には、海外滞在中も引き続き国内に居所を有するものとして扱われます。家族や住居を日本に残したまま「形式的に出国」しても非居住者にはならない、ということです。

4. UAEの個人居住者ルール(Cabinet Decision No. 85 of 2022)

4-1. UAE個人税務居住者の判定基準

UAE内閣は2022年にCabinet Decision No. 85 of 2022を発表し、2023年3月1日以降、自然人(個人)がUAEの税法または二国間租税条約上のUAE居住者とみなされる場合の定義を初めて明文化しました(UAE Ministry of Finance「Following Cabinet Decision 85 of 2022」、運用細則はMinisterial Decision No. 27 of 2023)。

個人は、次のいずれかに該当する場合にUAEの税務居住者とみなされます。

判定基準 内容
生活の本拠基準 UAEに通常または主たる居住地があり、かつ経済的・個人的利益の中心がUAEにあること
183日ルール 連続する12か月間にUAE国内に物理的に183日以上滞在していること
90日ルール 連続する12か月間にUAE国内に90日以上滞在し、かつ、UAE国民/有効なUAE居住許可保有者/GCC加盟国国民のいずれかであり、UAE国内に常用の住居(permanent place of residence)を有するか、UAEで雇用または事業を行っていること

※ なお、ここで重要なのは、UAEの個人居住者に該当することと、UAEで個人所得課税を受けることはイコールではないという点です。UAEでは個人の給与所得その他の個人所得に対して所得税は課されておらず、2023年6月1日以降に法人税が導入された後もこの取扱いは変わりません。したがって、上記の居住者要件を満たす個人であっても、通常はUAE側で個人所得課税の対象とはなりません。

このルールが実務上重要なのは、租税条約のTie-Breakerルールの適用や、TRC(Tax Residency Certificate)の取得という文脈においてです。

📖 関連記事:183日・90日ルールを実際にTRCに結びつける手続き、日本の非居住者立証への活用法はドバイで税務居住者証明書(TRC)を取得する条件|183日ルール・90日ルールと日本の非居住者立証への活用をご確認ください。

5. UAE法人税法上の「居住者」は別概念

5-1. 法人税法上の課税対象者(第11条)

上記のCabinet Decision No. 85 of 2022(個人居住者ルール)とは別に、2023年6月1日以降開始事業年度から適用されているUAE法人税法(Federal Decree-Law No. 47 of 2022)においても「居住者」「非居住者」という概念が定義されています。ただしこれは法人税法上の課税対象者を判定するためのものであり、個人の税務居住地判定とは目的・効果が全く異なります。

UAE法人税法第11条(Taxable Person)では以下のように規定されています。

第11条 課税対象者

法人税は、本法に定める税率により課税対象者(Taxable Person)に課される。本法における課税対象者は居住者(Resident Person)または非居住者(Non-Resident Person)のいずれかとする。

居住者(Resident Person)とは、次のいずれかをいう。

  • UAEの適用法令に基づいて設立・承認された法人(フリーゾーン法人を含む)
  • 外国法令に基づいて設立された法人で、UAE国内において実質的に管理・支配(effectively managed and controlled)されているもの
  • UAEで事業または事業活動(Business or Business Activity)を行う自然人
  • 大臣の提案に基づき内閣決定で定めるその他の者

非居住者(Non-Resident Person)とは、上記の居住者以外の者であって、次のいずれかに該当するものをいう。

  • UAE国内に恒久的施設(Permanent Establishment)を有する者
  • UAE国内源泉所得を有する者
  • 大臣の提案に基づき内閣決定で定めるその他の者

5-2. 自然人の法人税対象範囲(Cabinet Decision No. 49 of 2023)

注意すべきは、「UAEで事業を行う自然人」が即座に法人税の対象になるわけではない点です。Cabinet Decision No. 49 of 2023により、自然人(居住者・非居住者を問わず)が事業活動から得る暦年売上高が年間100万AED(約4,000万円)を超える場合に限り、その事業所得が法人税の対象となります。給与所得(Wage)、個人投資所得(Personal Investment income)、不動産投資所得(Real Estate Investment income)は、金額にかかわらず法人税の対象外です。

6. 日UAE租税条約におけるTie-Breakerルール

6-1. 二重居住者の振り分け

日本とUAEはいずれも同一個人を「自国の居住者」と判定する可能性があります。この場合、両国で二重課税が生じないよう、租税条約によりTie-Breaker Rule(振り分け規定)が定められています。財務省「アラブ首長国連邦との租税条約のポイント」に概要が、国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(日UAE租税条約)」に源泉徴収面の実務が掲載されています。

6-2. 個人のTie-Breaker判定順序

個人については、以下の順で居住地国を判定します。

  1. 恒久的住居(permanent home)の場所:いずれの締約国に恒久的住居を有するか
  2. 利害関係の中心(centre of vital interests):人的・経済的関係がより密接な締約国
  3. 常用の住居(habitual abode)の場所:常用的に滞在する締約国
  4. 国籍
  5. 両締約国の権限ある当局の合意(上記でも決まらない場合)

法人については、本店または主たる事務所の所在地、事業の実質的な管理の場所、設立された場所その他関連するすべての要因を考慮して、両締約国の権限ある当局の合意により決定されます。なお、日UAE租税条約はBEPS防止措置実施条約(MLI)の適用を受けており、PPT(主要目的テスト)などの濫用防止規定も適用されている点に留意が必要です。

7. まとめ

📋 今回のポイント

  • 日本の居住者判定は「住所(生活の本拠)」または「1年以上の居所」の有無で決まり、住民票や滞在日数だけでは判定されない
  • 「住所」は所得税基本通達2-1で「生活の本拠」と定義され、所得税法施行令第14条・第15条で職業・国籍・家族同居・資産状況等を要素とする推定規定が置かれている
  • UAEはCabinet Decision No. 85 of 2022により、2023年3月1日以降、個人税務居住者の判定基準(生活の本拠/183日ルール/90日ルール)を明文化
  • UAEの個人居住者でも、UAEは個人所得税が無税のため通常は個人所得課税の対象にならない。意義は租税条約適用とTRC取得の文脈にある
  • UAE法人税法第11条の「居住者・非居住者」は法人税法上の課税対象者判定であり、Cabinet Decision No. 85の個人居住者とは別概念
  • 自然人がUAE法人税の対象となるのは年間売上100万AED超の事業活動のみ。給与・個人投資所得・不動産投資所得は対象外
  • 日UAE間で二重居住者となった場合は、租税条約のTie-Breakerルール(恒久的住居→利害関係の中心→常用の住居→国籍→相互協議)で振り分け

居住者・非居住者の判定は、日本国内の税法だけでなく、UAE側の居住者ルール、両国間の租税条約までを含めて総合的に検討する必要があります。形式的な住民票の異動や滞在日数のカウントだけでは、税務調査で「日本の居住者」と判定されるリスクを十分に排除できません。

当事務所では、UAE側でのTRC(税務居住者証明書)取得手配を含め、日本の非居住者立証に必要な客観的事実の整え方を一気通貫でサポートしております。国際税務に強い公認会計士の意見を聞きたい、セカンドオピニオンとして活用したいという方は、お気軽にお問い合わせください。

 

【根拠法令・出典】

※本記事は2026年5月時点の情報に基づきます。最新の改正動向はFTA公式情報・国税庁公式情報および当事務所までご確認ください。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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