日本の非居住者になった後の納税範囲・PE・日UAE租税条約による源泉税率の整理

投稿:2023年7月26日更新:2026年5月30日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

今後ドバイへの長期間の海外勤務や、海外法人設立に伴う移住の際に日本の非居住者に該当し、UAEの居住者となる方もいらっしゃると思います。日本で非居住者となった場合、居住者だった時と比べて納税範囲や課税方法が大きく変わります。

本記事では、日本の非居住者に該当した場合に日本側でどのような税務手続が必要となるのか、居住者との違い、国内源泉所得の課税方法、日UAE租税条約による源泉税率の調整、納税管理人の役割までを整理して解説いたします。

1. 居住者と非居住者の納税範囲の整理

1-1. 全世界所得課税と国内源泉所得課税

日本では原則として、全世界所得課税という考え方を採っています。これは日本の居住者であれば世界中のどこで所得が発生したとしても、日本で申告・納税すべきとする考え方です(国税庁タックスアンサー No.2010(納税義務者となる個人))。

全世界所得課税の考え方によると、居住者(非永住者を除く)の場合は、日本で発生する給与や事業、不動産などの所得のみならず、海外で発生した所得(海外で行った講演会の報酬、FX・暗号資産による所得等)についても、その全てを日本側で合算して申告・納税することになります。

裏を返せば、非居住者となった場合は全世界所得課税には該当しません。非居住者は日本に居住していないため、課税はあくまでその者が居住する国においてなされるべきという考え方を採っているからです。非居住者の場合は、その利益の源泉が日本にある所得(国内源泉所得)に対してのみ、日本で課税されることになります。

区分 日本での課税範囲
居住者(非永住者以外) 全世界所得課税(日本国内・国外で生じた所得すべて)
非居住者 日本の国内源泉所得にのみ課税

1-2. 居住者・非居住者の判定基準

居住者と非居住者の判定は、所得税法上「国内に住所を有する者または現在まで引き続き1年以上居所を有する者」が居住者とされ、それ以外が非居住者となります(国税庁タックスアンサー No.2012(居住者・非居住者の判定))。住民票の有無だけでなく、生活の本拠の所在、滞在日数、職業、家族の居住状況、資産の所在等を総合的に勘案して判定される点に留意が必要です。

2. 非居住者の国内源泉所得とPE(恒久的施設)

2-1. PE(恒久的施設)の概念

非居住者の課税範囲は国内源泉所得に限られていますが、恒久的施設(Permanent Establishment, PE)の有無により課税方法が異なります。PEとは、支店、事業所、長期建設工事現場、代理人等を表す税務上の概念で、事業を行ううえで必要とされる一定の場所や現地代理人など、所得を稼得するための実体的な拠点を意味します(国税庁タックスアンサー No.5404(恒久的施設(PE)の範囲))。

PEの定義は2018年度税制改正により、OECDモデル租税条約2017年版に整合する形で見直されており、代理人PEの範囲拡大や、PE認定回避目的の活動分割への対応が織り込まれています。

2-2. 不動産所得は所得税法第161条による国内源泉所得

非居住者となった日本人が国内に保有する不動産を賃貸するケースは典型例ですが、税務上の整理は注意が必要です。不動産賃貸所得は、必ずしも「PE帰属所得」として課税されるのではなく、所得税法第161条第1項第7号「国内にある不動産の貸付け等による対価」として国内源泉所得に分類され、源泉徴収(20.42%)と確定申告(総合課税)の対象となります(所得税法第161条(国内源泉所得))。

つまり、ドバイに駐在することになり日本の自宅を賃貸に出すケースでは、PEの有無にかかわらず、不動産賃料は日本側で課税対象となり、賃借人(法人または個人で事業用に借りる者)に源泉徴収義務が課される点に注意が必要です。

2-3. PE帰属所得とPE非帰属所得の課税方式

非居住者の国内源泉所得の課税方式は、PEの有無と所得の種類により、所得税法第164条で次のように区分されます(国税庁タックスアンサー No.2884(非居住者・外国法人に対する課税のしくみ))。

区分 所得の種類 課税方式
PEあり PE帰属所得 総合課税(確定申告必要)
PEあり 国内不動産の貸付け・譲渡等 総合課税(確定申告必要)+源泉徴収
PEあり 利子・配当・使用料等 源泉分離課税(原則確定申告不要)
PEなし 国内不動産の貸付け・譲渡等 総合課税(確定申告必要)+源泉徴収
PEなし 利子・配当・使用料・給与等 源泉分離課税(原則確定申告不要)

このように、PEの有無だけでなく所得の種類によっても課税方式が分かれるため、自身の所得構成に応じて確定申告の要否を見極める必要があります。

3. 非居住者の国内源泉所得に対する源泉徴収の税率

3-1. 国内法上の源泉徴収税率

非居住者の国内源泉所得に対する源泉徴収の税率は、所得の種類により詳細に設定されており、概ね10.21%〜20.42%の間で設定されています(復興特別所得税2.1%上乗せ後の税率。国税庁タックスアンサー No.2885(非居住者等に対する源泉徴収のしくみ)国税庁「源泉徴収のあらまし」)。

ドバイ移住の場面でよくご相談いただく代表例は以下のとおりです。

所得の種類 国内法上の源泉徴収税率
人的役務の提供事業の対価 20.42%
不動産の賃貸料等 20.42%
上場株式等の配当 15.315%
非上場会社の配当 20.42%
給与・人的役務報酬・退職手当等 20.42%

これはあくまで発生時に源泉徴収の義務が生じる税率であり、源泉徴収後に総合課税として確定申告が必要なケース(不動産賃料等)と、当該源泉徴収のみで課税関係が完了するケース(源泉分離課税)に分かれます。

📖 関連記事:UAE側の源泉徴収税の取扱いはUAE源泉徴収税0%の整理をご確認ください。

4. 日UAE租税条約は国内法に優先する点に留意

4-1. 租税条約の優先適用

上記の税率はあくまで日本国内法に基づくものです。実際に源泉徴収の税率を考える際は、日本国内法だけでなく日UAE租税条約も併せて検討しなければなりません。租税条約は二国間の取り決めであり、両国の国内法に優先して適用されるためです(財務省「日UAE租税条約」)。

すなわち、日本国内法に税率の記載があったとしても、租税条約上で別の規定があれば、当該税率が適用されます。日UAE租税条約における主な限度税率は以下のとおりです。

所得の種類 日UAE租税条約上の限度税率
配当(持株比率10%以上の親子間) 5%
配当(その他一般) 10%
利子 10%(政府・中央銀行・一定の公的機関は免税)
使用料(ロイヤルティ) 10%

例えば、非上場会社の配当について日本の国内法では20.42%と規定されていますが、日UAE租税条約により10%(親子間5%)が上限となります。この場合、源泉徴収税率は条約上の10%(または5%)が適用されます。

📖 関連記事:日UAE租税条約の個人への具体的適用は日UAE租税条約の個人適用をご確認ください。

4-2. 「租税条約に関する届出書」の提出が必要

租税条約の限度税率を適用してもらうためには、「租税条約に関する届出書」を支払者経由で所轄税務署に提出する必要があります(国税庁タックスアンサー No.2888(租税条約に関する届出))。届出書を提出していない場合、源泉徴収義務者(日本の支払者)は国内法上の高い税率で源泉徴収を行う必要があり、後日還付を受ける手続が必要となります。届出書は所得の種類ごとに様式が異なる点にも注意が必要です。

5. 非居住者が日本で納税が必要な場合の対応方法

5-1. 源泉分離課税で完結するケース

源泉分離課税の対象となる所得(利子、配当、使用料、給与等)については、支払者が非居住者の代わりに源泉徴収を行うことで課税関係が完結します。

例えば、非居住者に対して企業が給与や配当を支払う場合、支払者が源泉徴収額を控除したうえで非居住者に支払い、預かった源泉税を非居住者の代わりに税務署に納税します。この源泉税の納付をもって課税関係が完結しており、確定申告は不要です。

非居住者となった方は、源泉徴収を忘れずに行うよう支払者に伝え、源泉徴収漏れが発生しないようにする必要があります。近年は不動産賃料など、非居住者に対する源泉徴収の徴収漏れが多発しており、税務署から指摘を受けて延滞税・不納付加算税を負担する事例も増えています。出国前に賃借人・支払者に対して非居住者である旨を明確に伝達することが重要です。

5-2. 総合課税で確定申告が必要なケース

一方、不動産賃貸所得、PE帰属事業所得、不動産譲渡所得など総合課税となる所得については、他の所得との合算が必要なため確定申告を行わなければなりません。しかし非居住者となった後は、日本に住所や連絡先を通常持たないことから、納税者の代わりに税務申告を行う納税管理人を選任することが一般的です。

納税管理人は、税理士や公認会計士などの専門家である必要はなく、親や親族、友人など個人であれば誰でも本人の代わりになることができます。法人を納税管理人とすることも可能です(国税庁「所得税・消費税の納税管理人の届出手続」)。

非居住者となる際に、遅滞なく納税管理人を選任して届出をしておくことで、国外転出時課税の納税猶予や出国時申告の回避など税務上の優遇措置も受けられるため、出国前に手続きを完了させておくことを強くお勧めします。

📖 関連記事:納税管理人の選任ポイントと届出のメリットは海外移住時の納税管理人制度の選任ポイントをご確認ください。

6. まとめ

非居住者の日本での課税は、源泉徴収税率、租税条約、恒久的施設、納税管理人など、日常の税務ではあまりなじみのない複数の制度が複雑に絡み合います。特にドバイ移住の場合は、UAE側で所得税が課されないことから日本側の源泉徴収・申告漏れが起こりやすく、税務署からの指摘事例も増加傾向にあります。

当事務所は、日本およびアラブ首長国連邦の両方で公認会計士資格を保有し、ドバイ移住者の日本側納税対応、納税管理人受任、租税条約適用届出書の作成までワンストップでサポートしております。非居住者となった後の日本側の納税対応にお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

【根拠法令・出典】

※本記事は2026年5月時点の情報に基づきます。最新の改正動向は国税庁公式情報および当事務所までご確認ください。

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 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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