ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
ドバイに口座を作れば日本の税務署からは見えなくなる。当会計事務所には、いまだにこうした前提でご相談に来られる方がいらっしゃいますが、その時代はすでに終わっています。令和6事務年度に外国の税務当局から国税庁が受領した非居住者金融口座情報、いわゆるCRS情報は約274万件、残高ベースで9.6兆円超、受領元は101か国・地域に及びます。
もっとも、CRSが具体的にどういう場合に対象となり、どのように情報が流れてくるのかは、実はあまり整理されていません。本記事では、CRSの対象になるのはどんな人か、CRSとAEOI・EOIRはどう違うのか、そして自動交換と要請に基づく照会は実務上どのように動くのかを、当会計事務所の実務経験に基づいてお伝えします。あわせて、CARFによる暗号資産への網の拡張、国外送金等調書、国外財産調書という日本側の捕捉体制と、出国税との関係も整理します。
令和6年度の数字から見るCRS情報
国税庁が公表した令和6事務年度の租税条約等に基づく情報交換事績によると、外国税務当局から受領したCRS情報は過去最多の274万5,374件に達しました。内訳は日本居住者に係る個人口座が約272万件で残高約9.6兆円、法人口座が約3万件で残高約8.1兆円です。これらが101か国・地域から日本へ自動的に送られてきています。同時に、日本から外国へ提供したCRS情報も約33万件、84か国・地域に及び、情報は一方通行ではなく各国が相互に交換しています。
さらに注目すべきは、海外投資を行う富裕層への税務調査の厳しさです。国税庁の令和6事務年度の調査状況によれば、海外投資をしている富裕層に対する所得税の実地調査では、一件当たりの追徴税額が1,595万円に上りました。これは所得税の実地調査全体の一件当たり追徴税額299万円の、実に5倍を超える水準です。
CRSの対象になるのは誰か
CRSの対象を誤解されているケースが少なくありません。報告対象は「日本居住者の個人」だけではなく、より正確には金融機関が所在する国にとっての非居住者です。視点を変えれば、立場ごとに次のように整理できます。
| 視点 | 報告対象になる人 | 情報の流れ |
|---|---|---|
| 日本国内の金融機関 | 日本の非居住者(=外国居住者)が保有する口座 | 日本の国税庁 → 居住地国の税務当局へ |
| 外国の金融機関 | その国の非居住者である日本居住者が保有する口座 | 外国の税務当局 → 日本の国税庁へ |
つまり、日本居住者か日本非居住者かにかかわらず、自分が居住していない国の金融機関に持つ口座が報告対象になります。日本居住者が海外口座を持てば外国から日本へ、外国居住者が日本国内に口座を持てば日本から居住地国へ、それぞれ情報が流れる構造です。
対象は個人に限られません。法人、組合、信託など事業体も対象で、さらに事業実体が薄いパッシブな事業体については、その実質的支配者である個人の居住地国まで報告対象になります。法人や財団を間にかませれば実質的支配者が見えないという誤解は、この点で通用しません。
居住地国の判定は、その国の法令で所得税・法人税に相当する税を課される居住者とされるかで行われます。判定軸はあくまで税務上の居住地国であり、TIN(納税者番号)の有無や種類で振り分けるものではない点が重要です。
CRSとAEOI・EOIRはどう違うのか
CRSと一括りに呼ばれていますが、実務上は次の三つを区別しておく必要があります。
| 用語 | 位置づけ | 役割 |
|---|---|---|
| CRS(Common Reporting Standard) | OECDが策定した報告基準 | 各国の金融機関が報告すべき情報項目とデューデリジェンス手続のルール |
| AEOI(Automatic Exchange of Information) | 情報交換の方式 | CRSに基づく口座情報を毎年自動的に居住地国へ提供する仕組み |
| EOIR(Exchange of Information on Request) | 情報交換の方式 | 特定の納税者について個別に相手国へ情報提供を要請する仕組み |
CRSは情報の中身を定めたルールであり、それを毎年自動で流すパイプラインがAEOIです。一方、特定個人の脱税の疑いなど具体的な調査の必要から、課税当局が相手国に名指しで照会する場合は、AEOIではなくEOIRを使います。この二つはまったく別の手続きで、必要な要件も、得られる情報の深さも異なります。AEOIで端緒を掴み、EOIRで深掘りするという二段構えが、現在の国際情報交換の基本形です。
AEOIの場合の照会の流れ
AEOIは納税者からの自己申告だけで動くものでも、課税当局からの個別請求で動くものでもなく、毎年自動的に流れる仕組みです。ドバイ口座を例に、流れを順に追ってみます。
まず、口座開設時にUAEの銀行は顧客にCRS自己宣誓書(Self Certification Form)の提出を求めます。ここで顧客は自身の税務上の居住地国とTINを申告します。日本居住者であればマイナンバーがTINに該当します。あわせて銀行は、住所、郵送先、電話番号、出生地、継続的な送金指示先といった居所表示証拠(Indicia)を確認し、自己宣誓書の内容と突き合わせて居住地国を最終判定します。
次に、判定結果に基づき銀行は毎年デューデリジェンスを実施し、報告対象口座について氏名、住所、居住地国、TIN、口座番号、年末残高、利子・配当・譲渡収入の年間総額を取りまとめます。これをUAE側ではFTA(連邦税務庁)に報告し、FTAが日本の国税庁へXML形式の電子データで自動送信します。受領した国税庁は氏名、住所、マイナンバーを軸に国内の申告データと突合し、申告漏れの端緒を検出します。
ここで実務的によく問題になるのが、日本非居住者になった後にドバイ口座を開設し、日本のTINを持たないケースです。結論を先に言えば、TINがない=日本に情報が届かない、ではありません。CRSの振り分け軸はあくまで居住地国であり、TINは報告項目の一つにすぎません。OECDのCRSルールでも、報告対象国がTINを発行していない場合や国内法がTIN収集を求めていない場合にはTINなしで報告できることが明示されており、TINが欠落しても氏名・住所・生年月日・口座残高・利子配当はそのまま居住地国へ送られます。日本側はそれらの情報で名寄せ・特定を行います。
裏を返せば、真正な日本非居住者としてUAE居住者の地位で口座を開き、自己宣誓書で「居住地国はUAEのみ」と申告し、住所・電話番号・郵送先などに日本のIndiciaを残さなければ、UAE口座情報はAEOIのルートでは日本に届きません。日本に情報が届くのは、Indiciaから日本居住の疑いが浮上した場合、または居住地国として日本もあわせて特定された場合に限られます。
EOIRの場合の照会の流れ
では、過去に日本居住者であった時期に脱税の兆候があり、日本の国税庁がドバイの銀行口座情報を名指しで取りに行く場合はどうなるか。これはAEOIではなく、日UAE租税条約の情報交換条項に基づくEOIRが使われます。実際の流れは次の6ステップです。
| ステップ | 担当 | 内容 |
|---|---|---|
| ① 国内手段の尽くし | 調査担当の税務署・国税局 | 国内で入手可能な手段を尽くしても情報が得られない場合に限り、海外照会が認められる |
| ② 進達書の作成・上申 | 調査担当の管理者 | 進達書を作成し、国税庁主管課を経由して国際業務課へ送付 |
| ③ 適否審査(予測関連性) | 国税庁国際業務課 | 要請情報が日本の課税執行にどう関係するかを審査、漠然とした網羅的照会は不可 |
| ④ UAE当局へ正式要請 | 国税庁(権限ある当局) | 必要に応じ英訳を付し、UAE財務省・FTAへ要請文書を送付 |
| ⑤ UAE側の銀行情報収集 | UAE財務省・FTA | 条約上の権限に基づき、銀行から口座情報を収集 |
| ⑥ 回答提供 | UAE当局 → 国税庁 | 収集した残高・取引履歴・名義・開設情報等を国税庁に提供、調査担当へ回付 |
EOIRで押さえておくべき実務ポイントは三つあります。第一に、UAEの銀行秘密や個人所得税0%はUAEが情報提供を拒む理由になりません。OECDモデル租税条約26条5項により、情報が銀行・金融機関等にあることを理由に提供を拒むことはできず、UAEは2012年閣僚決定第17号でEOI目的で銀行情報の守秘を解除する法的根拠を整備しています。自国に課税利益がなくても、UAEは日本のために銀行から情報を収集して提供する義務を負います。
第二に、ハードルがないわけではないという点です。日本側は予測される関連性(foreseeably relevance)を立証し、国内手段を尽くしたことを示す必要があるため、単なる疑いだけでは要請が通りません。具体的な脱税の兆候や証拠の手がかりが要求されます。
第三に、回答までの時間と遡及範囲です。EOIRは個別審査・翻訳・相手国の銀行情報収集を経るため、回答まで数ヶ月から年単位を要するのが通常です。一方でAEOIと異なり、過去の特定年度を遡って照会できるため、非居住者になったから過去は届かないという発想は通用しません。
国外送金等調書というフローの網
AEOIとEOIRがCRSベースで海外口座のストックや取引を捉える仕組みであるのに対し、日本側で資金の動きそのものを捉えるのが国外送金等調書です。国内の金融機関を通じて100万円を超える海外送金や受金があった場合、その金融機関から税務署へ自動的に提出される法定調書です。海外口座へ資金を移すたびにその動きが税務署に記録されます。
税務署はこの調書で資金移動の経路を時系列で把握できます。日本国内の口座から海外へ送金を続けていれば、その累計額と、CRSで把握される海外口座の残高・運用益とを突き合わせ、整合が取れていなければ申告漏れの端緒として浮かび上がります。
CARFが暗号資産にも網を広げる
これまでのCRSがカバーしてきたのは銀行預金や証券口座といった伝統的金融資産で、暗号資産は実質的に網の外にありました。その間隙を埋めるためにOECDが2022年に策定したのがCARF(Crypto-Asset Reporting Framework)、すなわち暗号資産版CRSです。2027年から多くの参加国で初回交換が始まる予定で、暗号資産取引所やウォレットサービス提供者であるRCASP(Reporting Crypto-Asset Service Provider)が報告主体となります。
CARFで報告対象となるのは、暗号資産同士の交換、暗号資産と法定通貨の交換、ステーブルコインや特定NFTを含む幅広い取引、そして一定額を超える小売決済への利用です。各取引について顧客の居住地国、TIN、取引種類、年間総額がCRSと同じAEOI枠組みで自動交換されます。あわせてCRS本体も2023年に改定(CRS 2.0)が公表され、電子マネーやCBDCといった新しい資金保管手段も報告対象に取り込まれる方向で拡張されています。
UAEもCARF参加表明国の一つで、ドバイの暗号資産取引所、たとえばVARA(Virtual Asset Regulatory Authority)が監督する事業者は、将来的にRCASPとしての報告義務を負うことが見込まれます。日本居住者の地位を残したままドバイの取引所で暗号資産を保管・取引している場合、その情報も2027年以降はCRSと同じルートで国税庁に届くことになります。
国外財産調書という自主申告の網
三層目の網が、納税者自身に提出を義務づける国外財産調書です。その年の12月31日時点で合計5,000万円を超える国外財産を保有する居住者は、翌年6月30日までに財産の種類や所在地、価額を記載した調書を所轄税務署へ提出しなければなりません。
国税庁が公表した令和6年分の国外財産調書の提出状況によれば、提出件数は1万4,544件で前年比9.8パーセント増、財産総額は8兆1,945億円で前年比26.3パーセント増となり、いずれも過去最高を更新しました。財産の内訳を見ると、有価証券が5兆4,817億円と全体の66.9パーセントを占めます。
この調書には飴と鞭の両面があります。適正に提出していれば、仮に記載財産に申告漏れがあっても過少申告加算税が5パーセント軽減されます。逆に提出しなかったり虚偽記載をしたりすれば、加算税が5パーセント加重されます。それだけでなく、正当な理由なく期限までに提出しなかった場合などには、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という刑事罰の対象にもなり得ます。
三層の網が交差したとき何が起きるか
CRS(AEOI・EOIR)、国外送金等調書、国外財産調書という三つの網の本当の怖さは、単独で機能するのではなく、相互に突合されて初めて発揮されます。たとえば海外口座に多額の残高があるのに国外財産調書が未提出であれば、不一致がただちに浮かび上がります。送金記録はあるのに運用益の申告がなければ、同じく端緒となります。
ドバイ移住で非居住者になればCRSの日本居住者としての報告対象からは外れますが、その非居住者認定そのものが容易ではありません。日本の所得税法上の居住性は、住所や生活の本拠、家族や事業の中心がどこにあるかで判断されます。住民票を抜いただけ、ドバイにビザを取っただけでは、生活の本拠が日本に残っていると見られれば居住者のままです。
非居住者になる出口に立ちはだかる出国税
確実に非居住者となってドバイへ移住しようとする富裕層の出口に立ちはだかるのが、出国税、いわゆる国外転出時課税です。時価1億円以上の有価証券等を保有し、過去10年以内に5年を超えて日本に居住していた個人が国外へ転出する場合、出国の時点で含み益を譲渡したものとみなして15.315パーセントの所得税等が課されます。
海外資産の捕捉が精緻になったことで、これまで申告してこなかった含み益のある有価証券が、移住を機にすべて税務当局の目に入ります。申告を整えないまま移住に踏み切れば、出国税の課税と過去の申告漏れの両方が同時に問題化しかねません。出国税には納税管理人の届出と担保提供を条件とする最大10年間の納税猶予制度もありますが、その前提として日本側の申告が整っていることが欠かせません。
よくある間違い
実務でよく見かける誤解を整理します。第一に、TINを伏せれば日本に情報は届かないという思い込みです。CRSの振り分けは居住地国で行われ、TINは報告項目の一つにすぎず、TINが欠落しても氏名・住所・残高は居住地国へ送られます。第二に、UAEは個人所得税0%だからEOIRでも情報は出ないという誤解です。UAEは条約上、自国に課税利益がなくても日本のために銀行情報を収集して提供する義務を負います。
第三に、住民票を抜けば自動的に非居住者になり、すべての網から外れるという思い込みです。居住性は形式ではなく生活の本拠の実態で判断されます。第四に、後から遡って整合性を取ればよいという発想です。口座をいつ開設し、残高がいつから積み上がっていたかは、AEOIで毎年情報が届き、必要に応じてEOIRで遡及的に深掘りされるため、後から辻褄を合わせることは極めて困難です。第五に、暗号資産はCRSの対象外だから問題ないという誤解です。2027年のCARF運用開始により、ドバイの取引所に置いた暗号資産も同じルートで日本側に届く流れが整いつつあります。
まとめ
📋 今回のポイント
- CRSの報告対象は金融機関所在国の非居住者、日本居住者・非居住者の双方が立場に応じて対象
- 振り分け軸は税務上の居住地国、TINは報告項目の一つ、未提出でも報告は継続
- CRSは報告基準、AEOIは自動交換方式、EOIRは要請に基づく個別照会、別ルート
- AEOIは自己宣誓書とIndiciaで居住地国を判定、年次で自動送付
- EOIRは国内手段尽くし・予測関連性審査・UAE銀行情報収集・回答の6ステップ
- UAEの銀行秘密や課税利益不存在はEOIRの拒否理由にならない
- CARFは2027年運用開始、ドバイの暗号資産取引所も網内
- 三層の網は相互突合で機能、1億円超の有価証券保有者は出国税の対象
海外資産の捕捉インフラがすでに完成している以上、意識すべきは見えなくすることではなく、見えている前提で適法に課税を最適化することです。当会計事務所では、ドバイ移住の全体計画のなかで、非居住者認定の確実化、口座開設時の自己宣誓書の整え方、国外財産調書の適正な提出、暗号資産のCARF対応、出国税の納税猶予の活用までを一体で支援しています。
ドバイ移住に伴う海外資産の申告や情報交換の取り扱いについて、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- OECD Common Reporting Standard(CRS)/2023年改定版CRS 2.0(電子マネー・CBDC等への対象拡張)
- OECD Crypto-Asset Reporting Framework(CARF、2022年策定、2027年初回交換開始予定)
- OECDモデル租税条約第26条(情報交換条項、銀行秘密・課税利益不存在は拒否理由とならない)
- 日UAE租税条約 情報交換条項(AEOI・EOIRの根拠)
- UAE Cabinet Decision No. 17 of 2012(EOI目的での銀行情報守秘解除の法的根拠)
- 国税庁 令和6事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要
- 国税庁 令和6年分の国外財産調書の提出状況
- 国税庁 令和6事務年度所得税及び消費税調査等の状況
- 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
- 所得税法第60条の2・第60条の3(国外転出時課税制度)
