ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
ドバイの中古不動産を売却するとき、売却代金は権利証(タイトルディード)に記載された所有者本人名義のUAEの銀行口座にしか入らない運用が定着しました。委任状を持つ代理人や家族が代わりに受け取ることはできず、UAE国外の口座に直接送ることも認められていません。Garantの解説は、パスポート、権利証、受取口座の名義が一致しない場合、決済そのものが止まると伝えています。
この運用は、日本へ帰国した後や、日本に住んだままドバイの物件を売る方に大きく影響します。UAEの銀行口座を解約してしまうと、売却の決済ができません。何が変わったのか、売却前に何を準備すべきか、日本の税金はどうなるのかを整理します。
売却代金の受け取りで何が変わったのか
2025年7月の回覧で委任状の扱いが厳しくなりました
ドバイ土地局(DLD)は2025年7月16日に回覧第29/R/2025号を出し、不動産取引で使う委任状の確認方法を定めました。BSA法律事務所の解説によると、UAE国外で作成した委任状は、提出前2年以内に作成されたものに限られます。作成国での公証、UAE大使館の認証、UAE外務省の認証を受けた原本が必要で、アラビア語の翻訳も求められます。委任状の真正性は公式サイトで確認され、QRコードでの確認は認められていません。
売却を任せる場合は、「不動産の売却」や「有償での譲渡」など、回覧が定める文言が委任状に入っていなければなりません。「物件の管理を一切任せる」といった包括的な書き方では受け付けられません。DLDのよくある質問も、売却や抵当権の設定を目的とする委任状の有効期間を2年としています。
代金を受け取れるのは権利証の名義人だけです
回覧の当初の文面は、代理人名義の小切手でも、所有者のために受け取った旨の受領書があれば認める余地を残していました。その後、2026年に入って運用が厳しくなり、現在は売主が来ても代理人が手続きしても、買主が用意するマネージャーズチェック(銀行振出小切手)は権利証の名義人あてに発行され、名義人本人のUAE口座に入金されることが求められています。代理人は書類への署名や立ち会いはできますが、代金を自分の口座で受け取ることはできません。
決済の当日は、売主または代理人、買主、トラスティーオフィスの担当者が集まり、パスポートの原本、権利証、開発業者の異議なし証明書(NOC)などを確認します。買主が名義人あての小切手を渡し、売主のUAE口座に入金されることを確かめたうえで、同じ日に買主名義の新しい権利証が発行されます。売主のUAE口座が使えない状態では、買主と売主が合意していても決済できません。
| 項目 | 以前の実務 | 現在の運用 |
| 代金の受取人 | 代理人や家族の口座で受け取り、海外へ送金する方法が使われていました | 権利証の名義人本人に限られます |
| 受取口座 | 代理人の口座でも決済できる場合がありました | 名義人本人のUAE国内の口座に限られます |
| 名義の一致 | 多少の表記の違いは手続きの中で調整されていました | パスポート、権利証、口座の名義が一致しないと決済が止まります |
| 海外で作った委任状 | 作成時期の制限は明確ではありませんでした | 作成から2年以内で、公証と認証を受けた原本に限られます |
目的はマネーロンダリング対策です。第三者の口座を経由すると、実際に代金を受け取る人が見えにくくなるため、名義人の口座に直接入れることで資金の流れを確かめられるようにしています。
影響を受けるのはどんな方か
この運用は、DLDのトラスティーオフィスで個人間の売買を決済する中古物件の取引が対象です。開発業者から直接買う新築のオフプラン物件は、購入代金を開発業者のエスクロー口座に払い込む仕組みのため、対象ではありません。ただし、引き渡し前のオフプラン契約を第三者に譲る場合は中古取引に近い手続きになるため、同じ準備をしておくのが安全です。
特に注意が必要なのは次の方です。ドバイに住んでいたが日本へ帰国し、物件を貸したまま持ち続けている方。日本に住んだまま投資用にドバイの物件を買った方。法人名義で物件を持っている方です。法人名義の場合は、受取口座もその法人名義のUAE口座でなければなりません。権利証が個人名義なのに、代金を自分の持株会社の口座で受け取ることはできません。
売却前に準備しておくこと
UAEの銀行口座は売却が終わるまで解約しない
ドバイを離れるとき、居住ビザの取り消しに合わせて銀行口座を解約する方は少なくありません。しかし、物件を持ち続けるのであれば、口座は売却が終わるまで残しておくことをおすすめします。非居住者がUAEで新しく口座を開くには2週間から6週間ほどかかり、多くの銀行で少なくとも1回は来店が必要です。売却が決まってから口座を作り始めると、買主との約束の日に決済できず、手付金をめぐるトラブルにつながりかねません。
居住ビザの取り消し後は、居住者向けの口座が使えなくなったり、非居住者向けの口座への切り替えを求められたりすることがあります。帰国の前に、取引銀行で非居住者になった後も口座を維持できるかを確認しておくと安心です。
パスポート、権利証、口座の名義をそろえる
日本人の場合、結婚による姓の変更や、パスポートのローマ字表記と権利証の表記の違いが問題になりやすいところです。名義が一致しない場合は、戸籍謄本などで同一人物であることを示す書類を用意し、認証を受けたうえで提出する必要があり、数週間かかることもあります。売買の覚書(MOU)に署名する前に、三つの名義を見比べておくことが大切です。
日本で委任状を作る場合の段取り
日本から売却を任せる場合は、公証役場で認証を受け、外務省の公印確認と駐日UAE大使館の認証を経て、UAE外務省の認証を受ける流れになります。作成から2年を過ぎた委任状は使えないため、以前に作った委任状が手元にあっても、作成日を必ず確認してください。
日本の税金との関係
日本の居住者が売れば日本で課税されます
UAEには個人の所得税がないため、ドバイの不動産を売っても現地で税金はかかりません。一方、国税庁のタックスアンサーのとおり、日本の居住者が海外の不動産を売った場合は、日本国内の不動産と同じように譲渡所得として課税されます。売却代金と取得価額は、原則として取引日の為替レート(TTM)で円に換算します。
税率は、売った年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば所得税と住民税を合わせて20.315%(長期譲渡所得)、5年以下であれば39.63%(短期譲渡所得)です。AEDが円に対して高くなっている局面では、AED建てでは利益が小さくても、円に換算すると大きな譲渡益になることがあります。
売却のタイミングで税負担が変わります
日本の非居住者が海外の不動産を売った場合、その所得は国内源泉所得に当たらないため、日本では課税されません。ドバイに住んでいる間に売るか、日本へ帰国して居住者になってから売るかで、日本の税負担は大きく変わります。帰国の時期が決まっている方は、帰国前に売却と決済を終えられるかを検討する価値があります。
なお、国外転出時課税、いわゆる出国税の対象は有価証券などで、不動産は対象外です。ただし帰国後にドバイの物件を持ち続ける場合、12月31日時点の国外財産の合計が5,000万円(約AED116万)を超えると、国外財産調書の提出が必要になります。
日本へ代金を送るときに残る記録
UAEの口座で受け取った代金を日本の口座へ送ると、100万円を超える送金については、受け取った日本の金融機関が国外送金等調書を税務署に提出します(国税庁の取組報告)。どの国から、いつ、いくら届いたかは税務署が把握できる前提で、売却の年の確定申告を準備しておくことが大切です。
まとめ
📋 今回のポイント
- ドバイの中古不動産の売却代金は、権利証の名義人本人のUAE口座にしか入りません
- 委任状を持つ代理人や家族は、代金を代わりに受け取れません
- 海外で作った委任状は作成から2年以内で、認証を受けた原本に限られます
- パスポート、権利証、口座の名義が一致しないと決済が止まります
- 物件を持ったまま帰国する方は、UAEの口座を売却まで残しておくのが安全です
- 日本の居住者になってから売ると、日本で譲渡所得が課税されます
ドバイを離れる前に、物件をいつ売るか、口座をどう残すかを決めておくと、売却の手続きも日本の税負担も見通しやすくなります。
当会計事務所は、ドバイ在住の日本人の方の移住と帰国、不動産の売却に伴う日本とUAEの税務をサポートしています。帰国前に売却するかどうかの判断、日本で申告する譲渡所得の計算、国外財産調書の作成もお手伝いします。ドバイの不動産の売却でお迷いの点があれば、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- BSA「Dubai’s New Standards for Powers of Attorney in Property Deals」 – DLD回覧第29/R/2025号の内容
- Garant「Dubai DLD 2026: sale proceeds only to seller’s own UAE account」 – 売却代金の受取口座に関する現在の運用
- Dubai Land Department よくある質問 – 委任状の有効期間
- 国税庁タックスアンサー No.3560 – 居住者が海外の不動産を売却した場合の課税
- 国税庁タックスアンサー No.3208 – 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁タックスアンサー No.3211 – 短期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁タックスアンサー No.2878 – 国内源泉所得の範囲
- 国税庁タックスアンサー No.7456 – 国外財産調書の提出義務
- 国税庁「国際的な取引への対応」 – 国外送金等調書の概要
- 国税庁タックスアンサー No.1478 – 国外転出時課税の対象資産
- ドバイ土地局 回覧第29/R/2025号(2025年7月16日)




