ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
UAEの連邦税務庁(FTA)は2026年9月9日付でFTA決定第17号を発出し、9月28日にFTAの公式ページで公表しました。会社が従業員に無償で提供する物品やサービスについて、仕入税額控除が認められる場合を交通、食事、住居、新入社員の一時住居、携帯電話と通信、駐車場の6類型に絞り込み、類型ごとの条件をすべて満たすことを求めています。適用は2026年10月1日からです。
同じ日にVAT施行規則の第53条も改正されており、二つを合わせて読まないと全体像がつかめません。従業員の住居や通勤の送迎、社用携帯を会社負担で用意しているドバイ法人は、10月分の仕入から控除の可否が変わります。10月28日が期限のVAT申告を前に、何を確認すべきかを整理します。
10月1日から何が変わったのか
第53条の改正で例外が二つの道に分かれた
VAT施行規則の第53条第1項c号は、従業員に無償で提供する物品やサービスにかかる仕入税額を原則として控除できないものとし、その例外を定めています。2026年閣議決定第149号による改正で、この例外が二つの道に整理されました(Deloitteの解説)。
一つ目は、UAEの労働法令で提供が義務づけられている場合です。改正後は金融フリーゾーンと非金融フリーゾーンを含むすべてのフリーゾーンの労働法令が対象になりました。ただし雇用主が提供する住居はこの道から外され、人的資源・首長国化省(MoHRE)の決定や指示で義務づけられている場合だけが残ります。
二つ目は、雇用契約や文書化された社内規程に基づいて提供する場合です。改正前は職務の遂行に必要で、通常の商慣行であることを示せれば控除できましたが、改正後はFTAが定める類型と条件に従うことに変わりました。その類型と条件を定めたのが決定第17号です。
改正前と改正後の比較
| 区分 | 2026年9月30日まで | 2026年10月1日から |
| 労働法令上の義務による提供 | 国内または指定区域の労働法令による義務が対象です | すべてのフリーゾーンを含む労働法令による義務が対象です。住居はMoHREが義務づける場合に限られます |
| 契約や社内規程による提供 | 職務の遂行に必要で、通常の商慣行であることを示せば控除できました | 決定第17号の6類型に当てはまり、条件をすべて満たす場合に限り控除できます |
決定第17号は契約や社内規程で提供するものが対象
決定第17号の第1条は、適用対象を第53条第1項c号の2、すなわち契約上の義務または文書化された方針に基づいて従業員に無償で提供する物品やサービスと定めています。言い換えれば、雇用契約書に書いた福利厚生や就業規則で定めた支給の多くがこの決定の土俵に乗るということです。
Alvarez & Marsalの解説も指摘しているとおり、各類型の条件は一部を満たすだけでは足りません。一つでも条件を欠けば、その経費の仕入税額は控除できません。
仕入税額控除が認められる6つの類型と条件
第2条が定める6つの類型を、決定第17号の英訳PDFに沿って整理します。
| 類型 | 主な条件 | 現金手当との選択 |
| 交通 | 自宅と職場の往復、顧客先への移動など職務に直接関係する移動に限り、私的に使わないこと | 選べないことが条件です |
| 食事と飲料 | 住まいが遠隔地にあり、調理設備も近くの飲食店もなく、勤務や職務上の滞在と直接結びつくこと | 選べないことが条件です |
| 住居 | 業務上の必要から提供し、給与や福利厚生の一部ではなく、職場や現場の近くに住む必要があり、基本的な水準にとどまること | 選べないことが条件です |
| 新入社員の一時住居 | 提供期間が30日以内で、職務と基本的な居住の必要に見合うこと | 条文上の定めはありません |
| 携帯電話と通信 | 職務に必要で、私的利用は付随的かつ軽微にとどまり、書面の社内規程と利用状況の確認の仕組みがあること | 条文上の定めはありません |
| 駐車場 | 業務上の移動や顧客訪問のための費用に限り、精算の場面と承認方法を定めた社内規程があり、日付や金額と税額が分かる領収書を保存すること | 条文上の定めはありません |
交通と食事
送迎バスや社用車による通勤の手配は、職務に関係する移動に限られ、従業員が代わりに現金を受け取る選択肢がなければ控除できます。食事は条件が厳しく、遠隔地の現場で周囲に飲食店がないといった事情が必要です。ドバイ市内のオフィスで提供する昼食やケータリングは、この類型に当てはまらないと考えるのが自然です。
住居と新入社員の一時住居
住居は五つの条件をすべて満たす必要があります。家族が住む住居は原則として対象外ですが、職場の近くに常に住まなければならず、その住居が通常の住まいとなる場合は例外とされています。なお住宅の賃貸は原則として非課税のため、家賃そのものにVATが含まれないことも少なくありません。この類型が実際に効いてくるのは、ホテルやサービスアパートメントなど5%が課される住居を提供する場合です。
入社直後のホテル滞在は、30日以内であれば一時住居の類型で控除できます。30日を超えて延長する場合は、通常の住居の条件で改めて判断することになります。
携帯電話と通信、駐車場
社用携帯や自宅のインターネット回線は、使い方を定めた書面の社内規程を設けるだけでは足りず、利用状況を確認する仕組みがあり、規程違反があったときの記録を保存していることを示す必要があります。駐車場は業務上の移動に限られ、日付、時刻、金額、税額が記載された領収書の保存が条件です。従業員が自分で支払い、後から精算する運用でも、領収書がなければ控除は認められません。
実務で判断が必要になる論点
手当を選べる制度にしていると控除できない
交通、食事、住居の三類型には、従業員が現金手当を代わりに受け取れないことという条件が共通して入っています。ドバイでは住宅手当と会社借上げ住宅を従業員が選べる制度を設けている会社が多くありますが、選択肢があるだけで、会社が借り上げた分も控除の対象から外れる読み方になります。雇用契約書や就業規則の書き方を見直すことが、最初に取り組むべき作業です。
オーナー経営者が会社負担で暮らしている場合
日本から移住したオーナー経営者が、自分と家族が住むヴィラの光熱費や家具、ホテル暮らしの費用を会社で負担している例は珍しくありません。住居の類型は、給与や福利厚生の一部ではなく業務上の必要から提供していることを求めていますので、経営者本人の生活の場としての住居にかかるVATは控除できないと考えるのが安全です。社用車の私的利用も同じ考え方になります。
10月分の申告から新しい基準で判断する
決定第17号は2026年10月1日から適用されます。月次申告の法人は10月分の申告から、7月から9月の四半期で申告する法人は10月から12月の四半期の申告から、新しい基準での判断が中心になります。
9月以前の仕入をどの申告で控除するかによって扱いが分かれる余地もあるため、10月28日期限の申告では対象期間を確かめておくことが大切です。社内規程の整備が間に合わなかった期間の仕入税額は控除を見送り、規程を整えた後の仕入から控除するという運用が現実的です。
同じ日に始まった仕入先の検証義務と合わせて、仕入税額控除の社内手続をまとめて見直すことをおすすめしています。
控除できないVATは法人税でどう扱うか
仕入税額を控除できない場合、そのVATは経費の一部として処理します。法人税の計算では、その経費が通常の損金算入のルールを満たせば損金になりますので、VATが控除できないことと法人税で損金にならないことは別の問題です。ただし接待交際費の50%制限のように、法人税側の制限がかかる経費もあります。
ドバイに移住した日本人経営者への影響
小規模なドバイ法人ほど、経営者本人の生活費と会社の福利厚生の境目があいまいになりがちです。今回の改正は、その境目をVATの面からはっきりさせることを求めています。FTAの税務調査で控除が否認されれば、追加の納付と申告誤りに係る罰金が生じ得ますので、移住直後に会社の規程を整えておくことが大切です。
また移住の入口では、日本の国外転出時課税、いわゆる出国税の検討が欠かせません。有価証券等の評価額が1億円以上の方が日本を出国する場合には、含み益に所得税が課されます。制度の骨格は国税庁のタックスアンサーが示しています。UAE法人の株式を保有したまま移住する場合、その評価額が課税額を左右しますので、移住の時期と法人の体制整備は合わせて検討されることをおすすめします。
まとめ
📋 今回のポイント
- FTA決定第17号は2026年9月9日発出、10月1日から適用
- 契約や社内規程で従業員に無償提供する経費の控除は6類型に限定
- 条件を一つでも欠けばその経費の仕入税額は控除不可
- 交通・食事・住居は現金手当を選べないことが共通条件
- 携帯電話と駐車場は書面の社内規程と記録の保存が必要
- 労働法令上の義務による住居はMoHREが義務づける場合のみ控除可
当会計事務所のサポート
当会計事務所は、UAE法人のVAT登録から申告、仕入税額控除の要件整備、FTAの調査対応までを一貫してサポートしています。決定第17号に合わせた雇用契約書や就業規則の見直し、社用携帯や駐車場の精算規程づくり、10月分の申告に向けた控除可否の確認も承ります。従業員経費のVATでお迷いの点があれば、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- FTA Decision No. 17 of 2026(公式ページ) – 2026年9月28日公表
- 同決定の英訳PDF – 第1条から第3条の原文
- FTA VAT関連法令一覧 – 発出日と公表日
- Deloitte「Amendments to the UAE VAT Executive Regulation」 – 閣議決定第149号による第53条の改正
- Alvarez & Marsal「FTA Decision No. 17 of 2026」 – 6類型の条件と実務上の論点
- 国税庁タックスアンサー No.1478 – 出国税の課税要件
- 2017年閣議決定第52号(VAT施行規則)第53条第1項c号(2026年閣議決定第149号による改正後)





