ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
本記事では、ドバイへ移住する際に住民票を抜く(国外転出届を出す)ときの注意点について解説します。
転出届そのものは窓口で数分で終わる手続きです。しかし、転出届を出す日によって住民税が1年分変わり、マイナンバーカードや印鑑登録、日本の銀行口座やクレジットカードの使い方も変わります。まずは全体の流れを確認しましょう。
住民票を抜く前後のTodoリスト
出国の1年前から順に進める
| 時期 | やること | 窓口 |
| 出国の1年〜半年前 | 出国税の対象になるかの判定、自社株などの評価、出国日の候補決め | 税理士 |
| 出国の1〜2か月前 | 納税管理人の選定、非居住者でも使える銀行口座の開設、クレジットカードと携帯電話の継続方法の確認 | 税理士・銀行・カード会社・携帯会社 |
| 出国の1か月前 | NISAや証券口座、既存の銀行口座を残せるかの確認 | 証券会社・銀行 |
| 出国の14日前から前日 | 転出届、マイナンバーカードの継続利用、国民健康保険と国民年金の手続き | 市区町村 |
| 出国の前日まで | NISAの出国届出書または継続適用届出書の提出 | 証券会社・銀行 |
| 出国日まで | 所得税の納税管理人の届出、または準確定申告 | 税務署 |
| 移住後3か月以内 | 在留届の提出 | 在ドバイ日本国総領事館 |
| 住居が決まってから1か月以内 | Emirates IDに登録する住所の更新 | ICP(連邦身分・市民権・税関・港湾保安庁) |
出国税と納税管理人
出国税の判定は出国の1年前から始める
住民票を抜く時点で上場株式や非上場株式などを1億円以上持つ方は、国外転出時課税(出国税)の対象になります。ただし、出国前10年以内に日本に5年超住んでいたことが要件です。
出国税の検討は、転出届の準備よりもずっと早く始める必要があります。国税庁の国外転出時課税制度FAQによると、出国前に申告する場合は国外転出予定日の3か月前の日の価額で計算します。自社株の評価額が1億円前後の経営者の方は、評価の時点や出国日によって課税の有無が分かれます。株価の試算や資産の組み替えには時間がかかり、担保を提供して納税を猶予する手続きも同様です。そのため、移住を考え始めた段階で税理士に相談することをおすすめします。
所得税の納税管理人は出国日までに届け出る
出国する年の所得税は、出国日までに税務署へ納税管理人の届出をしたかどうかで申告期限が変わります。届出をした場合は翌年3月15日までに納税管理人を通じて確定申告をし、届出をしない場合は出国の時までに準確定申告を済ませます。出国税の納税猶予を受けるにも納税管理人の届出が必要です。
転出届の時期と出し方
出国予定日の14日前から届け出る
1年以上海外に住む予定であれば、国外への転出届が必要です。豊島区の案内のように、多くの市区町村では出国予定日の14日前から届出を受け付けています。住民票を残したまま移住すると、住民税、国民健康保険、国民年金の支払い義務が続きます。
転出届の異動日は原則として過去にさかのぼれないため、実際の出国予定日を転出日として記入します。住民票の写しが必要な手続きは先に済ませておきましょう。
住民票を抜く日と住民税
住民税は、総務省の説明のとおり、1月1日に住所がある市区町村が前年の所得に対して課税します。そのため、12月31日までに出国して転出届を出せば翌年度の住民税はかかりませんが、1月2日に出国すると1年分の住民税がかかります。所得割の税率はおおむね10%のため、前年の課税所得が3,000万円であれば約300万円の差になります。
健康保険・年金と社会保険
国民健康保険と国民年金は市区町村で手続きする
国民健康保険は、住民票を抜くと資格を失います。一時帰国中の受診は全額自己負担になるため、UAEの医療保険の対象範囲を確認しておきましょう。
国民年金は、海外に住む20歳以上65歳未満の日本国籍の方であれば任意加入でき、出国前は市区町村の窓口で手続きします。
会社の社会保険は加入が続くかを確認する
日本の会社に勤めていた方や、自社で健康保険と厚生年金に加入している経営者の方は、会社の社会保険の扱いも確認が必要です。退職して資格を失う場合は、協会けんぽの任意継続で最長2年間、健康保険に加入できます。ただし、退職日の翌日から20日以内の申出が必要です。
一方、日本の会社との雇用関係が続き、日本から給与の一部でも支払われている場合は、日本年金機構の案内のとおり、原則として健康保険と厚生年金の加入が続きます。日本法人から役員報酬を受け取り続ける経営者の方も、加入が続くかを確認しておきましょう。
また、家族を会社の健康保険の扶養に入れている場合、被扶養者には原則として国内居住要件があります。海外赴任に同行する家族などの例外に当たるかは、出国前に確認が必要です。
マイナンバーカードと印鑑登録
マイナンバーカードは出国前日までに手続きする
2024年5月から、国外へ転出した後もマイナンバーカードを使い続けられるようになりました。ただし、転出届と一緒に出国前日までに継続利用の手続きをしないと、カードは失効します。
印鑑登録は自動的に抹消される
住民票を抜くと印鑑登録も抹消され、印鑑証明書が取れなくなります。移住後に日本の不動産売却や相続の手続きをするときは、在ドバイ日本国総領事館の署名証明を印鑑証明書の代わりに使います。出国前に済ませられる契約や登記は、日本にいるうちに終わらせておきましょう。
銀行口座・証券口座とNISA
非居住者でも使える銀行口座を出国前に用意する
日本の銀行の中には、非居住者になると口座の解約を求めるところや、取引を大きく制限するところがあります。また、多くの銀行は非居住者の新規口座開設を受け付けていません。SMBC信託銀行プレスティアの海外赴任ガイドも、新しく口座を作るなら転出届の前に開設を済ませるよう勧めています。
プレスティアは、海外の住所に変更した後も非居住者口座として口座を維持できます。同行の案内によると、非居住者になるとATMでの振込や国内向けのオンライン都度送金は止まります。海外送金の登録は続けられます。
NISAは出国前日までに届け出る
NISA口座は、出国して非居住者になると原則として使えなくなります。日本証券業協会のFAQによると、出国の前日までに届出が必要で、勤務先の命令による出国であれば最長で約5年間NISA口座を残せます。しかし、ドバイで自ら会社を経営するための移住はこの特例に当たらないことが多く、出国税の対象者も特例を使えません。
日本の携帯電話の扱い
解約のタイミングは慎重に決める
日本の携帯電話は、SMS認証に使うため解約せずに持っておきたい方がほとんどです。一方で、非居住者であることをはっきりさせるために解約すべきか、迷う方も多くいます。
電話番号を残すだけで居住者にはならない
国外転出を理由に解約しなければならない法律上の決まりはありません。国税庁の案内のとおり、非居住者かどうかは住居や職業、親族の居住状況などから生活の本拠で判断するため、電話番号を残すだけで居住者とされるわけではありません。
ただし、携帯会社の規約では住所変更の届出が必要なため、契約を続けられるかは出国前に確認しておきましょう。使う予定がなければ、ドコモの電話番号保管サービスのように番号だけを残す方法もあります。
クレジットカードは国内の連絡先を残して使い続ける
三井住友カードの場合、カードを海外へ持って行って使うことはできます。ただし、登録できる住所は国内のみで、引落口座も国内の金融機関に限られます。また、海外に生活の拠点を置いた後は新しくカードを申し込めません。必要なカードは出国前に作り、利用明細や更新カードを受け取れる国内の家族の住所などを決めておきましょう。
住民票を抜くと困りやすい場面
一時帰国時の免税は国外に2年以上住んでいる日本国籍の方が対象で、2年は国外転出予定日から数えます。
また、住民票を抜いても、生活の本拠が日本にあると判断されることがあります。たとえば、日本に家族が住み続け、日本の会社の経営も続けている場合です。その場合、税務上は日本の居住者として扱われます。
まとめ
📋 今回のポイント
- 出国税の判定は出国の1年前から着手
- 転出届は出国予定日の14日前から受付、異動日のさかのぼりは原則不可
- 12月31日までの出国なら翌年度の住民税は課税なし
- マイナンバーカードの継続利用手続きとNISAの届出は出国前日まで
- 非居住者でも使える銀行口座とクレジットカードは転出届の前に準備
- 移住後はEmirates IDの住所を変更から1か月以内に更新
住民票を抜く日付は、住民税、出国税、NISA、一時帰国時の免税など多くの制度の起点になります。
当会計事務所は、ドバイへの移住にかかわる日本とUAEの税務をサポートしています。出国税の試算や出国日の判断、納税管理人の手配もお手伝いします。移住の段取りでお迷いの点があれば、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 豊島区「豊島区から国外へ転出するとき」 – 届出期間とマイナンバーカードの継続利用
- 江東区「国外への転出届・国外からの転入届」 – 異動日のさかのぼりの扱い
- 総務省「個人住民税」 – 1月1日の住所による課税
- 杉並区「海外へ出国する場合の個人住民税等」 – 住民税の納税管理人
- 日本年金機構「国民年金の任意加入の手続き」 – 海外居住者の任意加入
- マイナンバーカード総合サイト「国外転出者向けマイナンバーカード」 – 国外転出後のカード利用
- 法務省「外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合」 – 署名証明による代替
- 国税庁 タックスアンサーNo.1926 – 出国年の確定申告と納税管理人
- 国税庁「所得税・消費税の納税管理人の選任届出手続」 – 届出の提出期限
- 国税庁 タックスアンサーNo.1478 – 出国税の対象者と納税猶予
- 国税庁「国外転出時課税制度(FAQ)」 – 3か月前の日の価額
- 日本証券業協会「NISAのよくある質問」 – 出国時のNISA口座の取扱い
- SMBC信託銀行プレスティア「海外赴任ガイド」 – 転出前の口座開設
- SMBC信託銀行プレスティア「海外赴任前に必要な手続き」 – 非居住者口座と停止サービス
- 協会けんぽ「任意継続」 – 加入条件と期間
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」 – 海外勤務者の加入継続
- 日本年金機構「従業員の家族が海外居住の場合の手続き」 – 被扶養者の国内居住要件
- 国税庁 タックスアンサーNo.2012 – 居住者・非居住者の判定
- NTTドコモ「電話番号保管」 – 保管期間と料金
- 三井住友カード「海外へ赴任(移住)することになりました」 – 登録住所と引落口座
- 三井住友カード「海外に住んでいますが、カードは申し込みできますか」 – 海外居住者の新規申込
- UAE政府ポータル「Emirates ID」 – 登録情報の変更届出
- 住民基本台帳法第24条(転出届)、地方税法第39条・第318条(賦課期日)、所得税法第60条の2(国外転出時課税)、国税通則法第117条(納税管理人)





