ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
本記事では、日本の親会社によるGIRの提出が、UAE子会社の情報申告にどう影響するかを解説します。
国税庁は2026年10月、グローバル・ミニマム課税の情報申告書(GIR)を自動的に交換する相手国・地域の一覧を更新しました。2026年10月1日現在の一覧には25の国・地域が載っていますが、UAEは含まれていません。日本の親会社がGIRを提出しても、その情報は日本の国税庁からUAEの連邦税務庁(FTA)へは送られないことになります。
一方、UAEでは大臣決定第133号(2026年)により、海外の親会社が提出したGIRで現地の提出が免除されるのは、UAEとの間で情報交換の協定が有効な場合に限られます。そのため、日系グループのUAE子会社は、UAEで自ら情報申告書を提出する前提で準備を進める必要があります。
国税庁が公表したGIR交換先の一覧
25の国・地域、UAEは対象外
一覧に載っているのは、英国、オランダ、スイス、アイルランド、カナダ、韓国、香港、オーストラリアなど25の国・地域です。2025年3月31日に終わる対象会計年度のGIRについて、日本からの初回の提供期限は2027年3月31日とされています。
GIRの提出と情報交換の仕組み
グローバル・ミニマム課税では、GIRは各国の子会社がそれぞれの国で提出するのが原則です。ただし、親会社が自国でGIRを提出し、その国と子会社の所在地国との間で情報交換の協定(適格当局間合意)が有効であれば、子会社の現地での提出は免除されます。これをセントラル・ファイリングといいます。日本の法人税法第150条の3も同じ仕組みを採用しており、財務省「ファイナンス」の解説のとおり、提出期限は対象会計年度の終了から1年3か月以内(初回は1年6か月以内)です。
つまり、日本の親会社によるGIRの提出でUAE子会社の義務がなくなるのは、日本とUAEの間で交換が有効な場合だけです。今回の一覧は、その条件がまだ満たされていないことを示しています。
UAEの大臣決定第133号が定める提出義務
UAEの構成会社は原則として現地で提出
大臣決定第133号の第2条は、UAEにある構成会社(投資事業体を除く)、ジョイントベンチャーとその子会社、UAE法に基づく逆ハイブリッド事業体に、FTAへの情報申告書の提出を義務づけています。提出は各社が自ら行うか、指定ローカル事業体がまとめて代わりに行うことができます。UAE財務省の発表のとおり、2025年1月1日以後に開始する会計年度から適用されます。
海外での提出で免除されるのは協定がある場合だけ
第2条第3項は、最終親会社または指定提供会社が、その会計年度にUAEとの適格当局間合意が有効な国で情報申告書を提出した場合に限り、UAEでの提出を免除するとしています。免除される場合でも、第4項により、どの会社がどこで提出したかをFTAに通知しなければなりません。
| 親会社の所在地 | UAE子会社の対応 |
| UAEとの交換協定が有効な国 | UAEでの提出は免除、提出者と提出国をFTAへ通知 |
| 日本(現時点で交換の対象外) | UAEで情報申告書を提出(指定ローカル事業体で一本化も可) |
日系グループのUAE子会社がとるべき対応
提出期限の目安
Harrison & Morgansの解説のとおり、UAEの情報申告書の期限は対象会計年度の終了から15か月以内で、初回は18か月以内です。対象会計年度はグループの連結決算の年度で判断します。
| グループの決算期 | UAEでの初回の対象年度 | 初回の提出期限の目安 |
| 12月決算 | 2025年1月〜12月 | 2027年6月30日 |
| 3月決算 | 2025年4月〜2026年3月 | 2027年9月30日 |
指定ローカル事業体で提出を一本化する
UAEに子会社や支店が複数ある場合、1社を指定ローカル事業体にすると、グループ全体の分をまとめて提出できます。どの会社を指定するかは、会計データが集まる会社や、FTAとのやり取りを担当する会社を基準に決めると、提出漏れを防ぎやすくなります。
11月30日のDMTT登録とは別の手続き
情報申告書の提出は、2026年11月30日が期限のDMTT(国内ミニマム課税)の登録とは別の手続きです。登録を済ませても情報申告書の提出は残り、情報申告書の期限が2027年だからといって、登録の期限が延びるわけでもありません。2つの期限を分けて管理してください。
日本本社のGIRデータを基に作成する
oecdpillars.comの整理のとおり、UAEは大臣決定第96号(2026年)でOECDの2025年1月版のGIRの様式を採用しています。日本の親会社が作るGIRと同じ国際基準の様式のため、本社のデータを基にUAE分を作成できます。本社の担当部署とUAE子会社の間で、データを渡す時期と範囲を早めに決めておくと実務が進めやすくなります。
実務で判断が必要な論点
交換先の一覧は更新される
国税庁の一覧は、7月1日現在の版から10月1日現在の版に更新されています。今後、日本とUAEの交換が有効になれば、UAE子会社はFTAへの通知だけで済む可能性があります。ただし、免除の条件は「その会計年度に協定が有効であること」です。提出期限の直前まで一覧の更新を待つのではなく、現地で提出する前提で準備を進め、一覧が更新されたら判断を見直すのが安全です。
第三国に指定提供会社を置く選択肢
親会社に代わって、UAEとの交換が有効な国にある子会社を指定提供会社とし、その国でGIRを提出する方法も制度上はあります。EY Japanの解説のとおり、セントラル・ファイリングは交換の関係がある国の組み合わせで決まります。ただし、日本での提出義務との関係も整理が必要になるため、UAE1か国のためだけに選ぶ方法としては負担が大きいと考えられます。
ドバイ駐在の管理担当者とドバイ移住オーナーへの影響
グローバル・ミニマム課税の対象は、連結売上高が7億5,000万ユーロ以上のグループです。ドバイへ移住した個人のオーナーが持つ資産管理会社などは、多くの場合対象になりません。実務で影響を受けるのは、上場企業などの日系グループからドバイに駐在し、UAE子会社の経理や税務を担当する方です。日本本社が「GIRは日本で提出済み」と考えていても、UAE側では提出が必要になる点を、本社に早めに伝えておくことが大切です。
まとめ
📋 今回のポイント
- 国税庁のGIR交換先一覧(2026年10月1日現在)は25の国・地域、UAEは対象外
- UAEの大臣決定第133号では、海外での提出による免除は交換協定が有効な場合だけ
- 日系グループのUAE子会社は、UAEで情報申告書を提出する前提で準備
- 初回の期限は12月決算で2027年6月30日、3月決算で2027年9月30日が目安
- 指定ローカル事業体でUAE分をまとめて提出できる
- 11月30日のDMTT登録とは別の手続きとして期限を管理
日本本社にとってGIRは日本で完結する手続きに見えますが、UAE子会社にはUAE独自の提出義務が残ります。本社とUAE子会社の役割分担を、初回の期限より前に決めておくことが大切です。
当会計事務所は、日系グループのUAE子会社について、DMTTの対象判定から登録、情報申告書の作成とFTAへの提出まで支援しています。UAE側で何を提出すべきかを整理したい方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 国税庁「日本との間におけるGIRの自動的情報交換の実施対象国・地域」(2026年10月1日現在) – 交換先25の国・地域と初回の提供期限
- UAE財務省 Ministerial Decision No. 133 of 2026 – 情報申告書の提出義務者・免除・通知
- UAE財務省の発表 – 大臣決定第133号の概要と適用年度
- 財務省「ファイナンス」2025年7月号 – 日本の情報申告とセントラル・ファイリング
- Trowers & Hamlins – 海外提出による免除と通知義務の解説
- Harrison & Morgans – UAEの情報申告書の提出期限
- oecdpillars.com Pillar Two Developments Tracker 2026 – 大臣決定第96号とGIR様式
- EY Japan Tax Alert – GIRのセントラル・ファイリングの仕組み
- 法人税法第150条の3(特定多国籍企業グループ等報告事項等の提供)、UAE Cabinet Decision No. 142 of 2024 Annexure 第15条、Ministerial Decision No. 133 of 2026 第2条・第3条



