ドバイ法人で四半期VAT申告を省略できる「VAT免除申請」の実務と条件

投稿:2026年6月4日更新:2026年6月4日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

ドバイで法人を運営されている日本人オーナーの方々から、当会計事務所に最も多くお寄せいただくご相談の一つが「VATの四半期申告が手間で仕方ない」というお悩みです。

UAEのVAT制度では、年間課税売上がAED 375,000を超えた事業者は強制登録の対象となり、登録後は原則として四半期ごとにFTA(Federal Tax Authority)への申告が必要となります。日本の消費税が原則年1回(中小法人の場合)の申告であるのに比べ、UAEの四半期申告は中小法人にとって相当な事務負担です。

ところが、UAEのVAT制度には特定の条件を満たす事業者がVAT申告義務そのものから免除される特例が用意されています。これが本記事のテーマである「VAT免除申請(Exception from VAT Registration)」です。

本稿では、この制度の正確な内容、対象となる事業者の条件、申請手続き、そして実務上の落とし穴について、ドバイの中小法人オーナーの目線で解説します。

まず押さえるべきUAE VAT制度の全体像

VAT免除申請の話に入る前に、UAEのVAT制度の基本構造を整理しておきます。UAEのVATは2018年1月1日に導入され、現在の標準税率は5パーセントです。一部の取引はゼロ税率または免税の対象となります。

UAE VATの区分と取扱い

区分 内容 申告義務 仕入税額控除
標準税率(5パーセント) 一般的な物品・サービスの提供 あり あり
ゼロ税率(0パーセント) 輸出、国際輸送、原油・天然ガスの初回供給、住居用不動産の初回供給、医療・教育の一部 あり あり
免税 特定の金融サービス、住居用不動産の二次供給、土地、国内旅客輸送 あり(売上を申告書に記載) なし

登録基準についてPwCのUAE税務サマリーが整理しているとおり、強制登録の閾値はAED 375,000、任意登録の閾値はAED 187,500となっています。

ここで重要なのが、強制登録の閾値であるAED 375,000の判定にはゼロ税率の売上も含まれるという点です。輸出や国際サービス提供などゼロ税率に該当する取引であっても、課税売上として閾値判定に算入されるため、形式的にはVAT登録義務が発生します。

ドバイで日本企業や海外顧客向けにサービスを提供している中小法人の多くは、売上のほぼ全てがゼロ税率に該当しますが、それでも年商がAED 375,000を超えればVAT登録と四半期申告の義務が発生する、という構造になっています。

関連記事:UAE VAT基本ガイド

VAT免除申請(Exception from VAT Registration)とは

このような事業者の負担を軽減するために設けられているのが、VAT免除申請制度です。根拠条文は連邦法令第8号(2017年)VAT法第15条で、FTAが認めた場合に限り、VAT登録義務を免除することができると定めています(Afridi & Angell解説)。具体的には、次の特徴を持つ制度です。

VAT免除申請制度の概要

簡単に言うと「売上高のすべて(100%)がゼロ税率の売上であること」が条件です。

観点 内容
申請対象 強制登録閾値(AED 375,000)を超えた事業者
申請条件 提供する課税供給のすべてがゼロ税率に該当すること
申請窓口 FTAポータル(EmaraTax)上でVAT登録申請を行い、Exception項目にYesを選択
承認後の効果 四半期VAT申告が不要、TRNではなくVAT Exception Numberが付与
仕入税額控除 不可(経費に含まれるVATは取り戻せない)

申請が承認されると、通常のVAT登録から発行されるTRN(Tax Registration Number)ではなく、VAT Exception Numberが発行されます(Flying Colour Tax解説)。両者の違いを整理すると次のとおりです。

TRNとVAT Exception Numberの違い

項目 TRN VAT Exception Number
申請の前提 任意・強制いずれの閾値でも可 強制閾値超え+ゼロ税率のみが条件
四半期VAT申告 必要 不要
仕入VATの還付 可能 不可
顧客への表示 請求書にTRN記載 請求書にVAT Exception Number記載

つまり、VAT免除申請は仕入VATの還付を諦める代わりに、申告事務の負担をゼロにするという構造の特例です。

VAT免除申請を活用できる典型的なドバイ法人

VAT免除申請を活用できるドバイ法人の典型像は、次のような事業構造です。

活用可能な事業構造

業種・形態 該当性の理由
海外顧客向けコンサルティング 提供先がstate外の顧客であればサービス輸出としてゼロ税率に該当
海外向けITサービス・SaaS 海外法人顧客向けの提供がゼロ税率に該当
輸出商社(物品の海外輸出) 物品輸出はゼロ税率
国際海運・国際輸送 ゼロ税率
グローバルマーケティング・デジタルマーケティング 海外向け提供の場合ゼロ税率

活用できない事業構造

業種・形態 該当しない理由
UAE国内顧客向けサービス(コンサル含む) UAE国内の顧客向け提供は標準税率5パーセント
不動産業(住居用以外) 商業用不動産の供給は標準税率5パーセント
飲食店・小売店 UAE国内消費者への提供は標準税率5パーセント
教育・医療の一部 一部はゼロ税率だが、対象範囲が限定的

ドバイで日本企業の海外進出支援や、海外顧客向けにサービスを提供されている中小法人については、サービス輸出の要件を満たすケースが多いため、VAT免除申請が活用できる可能性は十分にあります。

サービス輸出としてのゼロ税率の条件

ここで重要となるのが「サービス輸出(Export of Services)」としてゼロ税率を適用するための条件です。これを満たさないと、形式的に海外顧客向けに見えても標準税率5パーセントの対象となり、VAT免除申請の前提を満たせなくなります。サービス輸出としてゼロ税率が適用される主な条件は次のとおりです。

サービス輸出ゼロ税率の要件

条件 内容
サービス受領者の所在地 UAE国外に所在し、サービス提供時にUAE国内にいないこと
短期滞在の取扱い サービス受領者がUAE国内に1か月未満の短期滞在で、かつその滞在がサービス提供と実質的に関連しない場合はstate外とみなす
サービスの性質 UAE国内の不動産・動産・施設に直接関連しないこと

特に注意が必要なのが、UAE国内に支店や子会社を持つ顧客に対するサービス提供です。顧客の本社が海外にあっても、UAE国内の支店向けの提供と判定されると標準税率5パーセントの対象となり、ゼロ税率の前提を満たせなくなります。契約書や請求書の宛先、サービス提供の実質的な受領主体を明確にしておくことが重要です。

見落としやすい落とし穴 RCM(リバースチャージ)の問題

VAT免除申請を検討する際に、ドバイの中小法人で最も見落とされやすい論点が、サービス輸入に伴うリバースチャージメカニズム(RCM)の問題です。

連邦法令第8号(2017年)第48条では、海外事業者からサービスを輸入した場合、輸入事業者自身が課税供給を行ったものとみなして自己課税(RCM)を行うことが定められています。

つまり、自社の売上がすべてゼロ税率であっても、海外からサービスを輸入してRCM対象となった瞬間に、課税供給を行った事業者とみなされ、第15条の「ゼロ税率のみ」の条件を満たさなくなるという構造です。具体的には、次のようなサービス輸入があるとVAT免除申請の前提が崩れます。

RCM該当のサービス輸入例

サービス輸入の例 RCM該当性
Google Workspace、Microsoft 365、Slack等の海外SaaS契約 該当
Stripe、PayPal等の海外決済サービス手数料 該当
海外Web開発会社への外注 該当
海外コンサルタントへの業務委託 該当
海外マーケティング会社への広告運用委託 該当
LinkedIn、Meta、Google等への広告出稿料 該当

このように、現代のビジネスを運営するうえでほぼ避けられないサービス輸入の多くがRCMの対象となります。VAT免除申請を取得していても、RCM対象のサービス輸入が発生した瞬間に条件違反となり、過去に遡って通常のVAT登録への切り替えと申告が必要となるリスクがあります。

そのため、VAT免除申請を検討する際は、海外SaaS、海外広告、海外外注を一切使わずに事業運営できるかという観点での精査が必要です。多くの中小法人にとって、これは現実的に難しい条件と言わざるを得ません。

関連記事:UAE VATリバースチャージの基本

VAT免除申請の手続きフロー

それでもVAT免除申請を活用できる事業構造の場合、申請手続きは次のフローで進めます。

ステップ1 FTAポータルでVAT登録申請を開始

EmaraTax(FTAのEサービスポータル)にログインし、VAT Registrationの申請画面に進みます。

ステップ2 Exception from VAT Registration項目にYesを選択

申請フォームの中に「Are you applying for an exception from VAT registration」という項目があるので、Yesを選択します。

ステップ3 ゼロ税率取引のみであることの根拠資料を添付

FTAは申請内容の真実性を確認するため、次のような根拠資料の提出を求めます。

ステップ4 FTAによる審査と決定

申請後、FTAは通常20営業日前後で承認・不承認の判断を行います。承認された場合はVAT Exception Numberが発行されます。

ステップ5 継続的な要件充足の維持

VAT Exception Number取得後も、ゼロ税率のみの売上構造を維持する必要があります。新規取引の開始時には、UAE国内顧客の有無、RCM対象のサービス輸入の有無を慎重に確認し、要件違反となる兆候があれば速やかに通常のVAT登録に切り替える必要があります。

VAT免除申請のメリットとデメリットの総合判断

VAT免除申請を実際に活用すべきかどうかは、次のメリットとデメリットを総合的に勘案して判断する必要があります。

メリット

デメリット

特に仕入VATの還付ができなくなる点は実務上重要です。たとえば年間経費がAED 500,000あり、そのうち5パーセントがVAT分(AED 25,000、約108万円)として計上されている場合、本来であれば四半期申告でこの還付を受けられるはずが、VAT免除申請を選んだ場合は還付不可となります(1AED=43円換算)。

つまり、年間でAED 25,000の還付を諦めて、四半期申告事務を免除してもらうという選択になります。この経済的判断は、事業規模や経費構造、申告事務の自社コストに応じて個別に検討する必要があります。

実務上の判断指針

中小規模のドバイ法人にとってVAT免除申請を活用すべきかどうかの判断指針を、次の表に整理します。

活用判断マトリクス

状況 判断
売上のすべてが海外顧客向けで、海外SaaS・海外広告も一切使わない 活用を強く推奨
売上のすべてが海外顧客向けだが、海外SaaSを月数万円程度利用 慎重に検討、税務専門家と要相談
売上のすべてが海外顧客向けだが、海外広告に多額の支出 通常のVAT登録を維持し還付を取った方が有利な可能性
UAE国内顧客が10パーセント以上 通常のVAT登録一択
UAE国内顧客が今後増える見込み 通常のVAT登録を維持
関連記事:UAE法人税(9%)の制度全体像
関連記事:UAE法人税コンプライアンスの基本

まとめ

📋 今回のポイント

  • VAT免除申請(Exception from VAT Registration)は売上がすべてゼロ税率の事業者向けの特例制度
  • 承認されると四半期VAT申告が不要となり、VAT Exception Numberが付与される
  • 仕入VATの還付ができなくなる点はトレードオフとして要検討
  • RCM対象のサービス輸入(海外SaaS、海外広告、海外外注等)があると要件違反となる
  • UAE国内に支店を持つ顧客向けの提供はゼロ税率にならない可能性がある
  • 多くの中小法人では通常のVAT登録を維持し四半期申告を効率化する方が現実的

当会計事務所はドバイ現地の会計事務所として、VAT免除申請の可否判定、サービス輸出ゼロ税率の要件精査、RCM対象取引の洗い出し、通常のVAT登録での四半期申告効率化まで一貫してサポートしています。特に日本本社からの業務委託を受けて海外顧客向けサービスを提供されているドバイ子会社など、VAT免除申請の活用余地が高いケースは、早めの構造設計が成果に直結します。お気軽にご相談ください。

本記事の主な根拠法令・出典

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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