日UAE租税条約は個人居住者には使えない|ドバイ移住後の配当と利子に注意

投稿:2025年11月29日更新:2026年6月3日ブログ

ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。

ドバイ(UAE)へ移住される日本人経営者・投資家の方から、非常によくいただくご質問があります。

「私はドバイの居住者になったので、日本からの配当や利子にかかる源泉税は、租税条約を使って安くなりますよね?」

結論から申し上げますと、この判断は非常に難しく、多くのケースで「個人の場合は適用が認められない(あるいは非常にハードルが高い)」というのが実務上の現状です。

「えっ、UAEと日本は租税条約を結んでいるのに?」と驚かれる方も多いかと思います。そこで本記事ではなぜドバイ居住の個人が租税条約の恩恵を受けるのが難しいのか、その理由と「居住者」の定義、そして実務上の注意点について、専門的な視点を交えながら解説します。

1. 日UAE租税条約の概要

日本とアラブ首長国連邦(UAE)の間には、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアラブ首長国連邦との間の条約」(通称、日UAE租税条約)が締結されており、2013年5月2日に署名、2014年12月24日に発効、2015年1月1日以後に支払を受けるべき源泉所得税から適用されています(MLI適用済)。

条約が適用されると、日本側で源泉徴収される税率は次のように軽減されます。

所得区分 日本の国内法(非居住者) 条約の限度税率
配当(親子会社間)
議決権10%以上を6か月超保有する法人
上場 15.315%
非上場 20.42%
5%
配当(その他) 上場 15.315%
非上場 20.42%
10%
利子 15.315% 免税(政府等受取)
10%(その他)
使用料 20.42% 10%

ドバイに移住された方の多くは、日本に資産管理会社や事業会社を残しており、そこからの配当を受け取るケースがあります。通常であれば15〜20%引かれる税金が5〜10%以下になるのであれば、活用したいと考えるのは当然です。しかしここで「ある壁」が立ちはだかります。

関連記事:日本の非居住者になった後の納税範囲・PE・日UAE租税条約による源泉税率の整理

2. 最大の壁は「課税上の住所(Liable to Tax)」

租税条約を適用するためには、そもそも「その国の居住者である」と認められる必要があります。「私はドバイのビザを持っていて、1年の大半をドバイで過ごしているから居住者だ」と思われるかもしれません。しかし租税条約上の「居住者」の定義は、ビザの有無や滞在日数だけでは決まりません

日UAE租税条約第4条(居住者)には、以下のような要件が定められています。

「一方の締約国の居住者」とは、当該一方の締約国の法令の下において、住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、事業の実質的な管理の場所その他これらに類する基準により当該一方の締約国において課税されるべき者及び当該一方の締約国又はその地方公共団体をいう。

(出典 日UAE租税条約 第4条第1項)

ここで最も重要なキーワードが、「当該一方の締約国(UAE)において課税されるべき者(liable to tax)」という文言です。

UAEには個人の所得税がない

ご存知の通りUAE(ドバイ)には個人の所得税(Personal Income Tax)がありません。給与も、配当も、キャピタルゲインも、個人レベルでは原則として非課税です。日本の税務当局(国税庁)の典型的な解釈は次のようになりがちです。

  1. 租税条約の居住者になるには、その国で「納税義務(Liable to Tax)」が必要である
  2. UAEの個人は、所得税を払う義務がない
  3. したがって、UAEの個人は条約上の「居住者」には該当しない

このロジックにより、たとえドバイに住んでいても、日本からの配当・利子・使用料に対する源泉税の軽減(租税条約の適用)が認められないケースが多発しています。

関連記事:日本の非居住者判定とUAE個人居住者ルールについて徹底解説

3. UAEの居住者証明書(TRC)があれば大丈夫か

UAEの連邦税務局(FTA)は個人の居住者証明書(Tax Residency Certificate、TRC)を発行しています。「UAE政府が発行した証明書があるのだから、これを日本の税務署に出せば認められるはずだ」と考えるのは自然ですが、実務上は「TRCがあっても、それだけでは不十分」と判断されるリスクが高いのが現状です。

なぜならUAEが発行するTRCはあくまで「UAE国内法に基づく居住者」であることを証明するものであり、日本の税務当局が求める「包括的な納税義務を負っていること」を証明するものではないとみなされる傾向があるためです。

項目 UAE国内法上の居住者 条約上の居住者(日本側の視点)
判定基準 滞在日数(183日ルール等)、ビザ、住居の有無 その国で全世界所得に対して課税されているか
個人の扱い ビザ保有や滞在日数で居住者認定が可能 UAEに個人所得税がないため、居住者認定が困難
法人の扱い 法人税導入(2023年6月〜)により明確化 法人税があるため、居住者認定されやすい

上記のように法人(Company)については、2023年6月以降UAEでも法人税が導入されたため、「納税義務あり」として租税条約の適用が認められる可能性が高まっています。しかし個人(Individual)については、依然として厳しい状況が続いています。

関連記事:ドバイで税務居住者証明書(TRC)を取得する条件|183日ルール・90日ルールと日本の非居住者立証への活用

4. 租税条約適用が認められうる例外ケース

すべての個人が絶対に適用できないわけではありません。条約や議定書の解釈によっては、以下のようなケースで議論の余地がある場合もありますが、極めて限定的です。

公務員・政府関係者

条約上、特定の公的職務に従事する者については居住地国の判定が別途規定されています。一般の民間人には通常該当しません。

UAEで実質的な事業を行い課税関係が生じうるケース

UAE法人税の対象となる事業活動(年間売上AED 100万超のNatural Person事業など)を行っている場合、UAE側で「Liable to Tax」の主張余地が出てくる可能性があります。ただしUAEに個人所得税がない以上、配当・利子といった投資所得に係る納税義務の立証は依然として困難です。

一般の投資家・経営者が、単に「ドバイに住んでいるから」という理由だけで、日本からの配当金にかかる源泉税(上場15.315%・非上場20.42%)を5〜10%に下げることは、現状の税制と解釈の下では推奨できない、あるいは否認リスクが非常に高いと言わざるを得ません。

関連記事:UAE法人税で「Sole Establishment」「FZE」が個人事業主扱いになる落とし穴|AED 100万閾値とフリーゾーン0%優遇の適用可否

5. 誤った手続きで起こりうるリスク

もし安易に「租税条約に関する届出書」を日本の支払元(自社など)経由で税務署に提出し、源泉税を軽減して納付していた場合、後日の税務調査で以下のリスクが発生します。

想定リスク 内容
源泉徴収漏れの指摘 本来引くべき税額と実際に引いた税額の差額の徴収を求められる
不納付加算税 納期限までに納付しなかった源泉所得税に対し、原則10%(自主納付の場合5%)
延滞税 納期限の翌日から完納まで日数に応じた金額

支払元がご自身の資産管理会社である場合、会社側に追徴課税が及ぶことになりますので、特に注意が必要です。源泉徴収義務者は支払元(日本法人)であり、条約適用が否認された場合のペナルティ負担は最終的に支払元に帰属します。

関連記事:移住直前・直後によくある税務トラブル6事例|居住者判定や出国税など税制の落とし穴とその対策

6. 実務上の安全な整理方法

日本からの配当・利子収入が多い方は、租税条約に頼るのではなく、非居住者として日本国内法に基づき源泉分離課税で課税関係を完結させる(確定申告不要)という整理をするのが、一般的かつ安全な実務です。具体的には次のような整理になります。

条約の限度税率(5〜10%)には届きませんが、否認リスクを抱えるよりも、確実な税負担で完結させる方が長期的には合理的です。一方、日本法人の株主自体をUAE法人化するといったストラクチャー変更により、法人レベルで租税条約を適用させる方法は、依然として有効な選択肢として残っています。

まとめ

ドバイ移住は節税メリットが大きいと言われますが、日UAE租税条約に関しては、個人には使いにくいというのが実務家の共通認識です。「Liable to Tax(納税義務)」というキーワードが壁となり、UAEに個人所得税が存在しない以上、日本の税務当局は条約上の「居住者」として認めない傾向が強く残っています。

安易に条約を適用して源泉税を減らすと、後日の追徴課税リスクを支払元(多くは自社)が抱えることになるため、まずは非居住者として国内法ベースで源泉分離課税を完結させる整理が最も安全です。配当所得のボリュームが大きい場合は、UAE法人化など法人レベルでの条約活用を検討してください。

ご自身のケースで租税条約の適用が可能か、あるいはドバイ移住後の税務プランニングについて不安がある方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。

根拠条文・出典

  • 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアラブ首長国連邦との間の条約(日UAE租税条約、2013年5月2日署名、2014年12月24日発効、2015年1月1日以後支払の源泉所得税に適用)第4条(居住者)、第10条(配当)、第11条(利子)、第12条(使用料)
  • 所得税法第161条(国内源泉所得)、第212条(源泉徴収義務)
  • 所得税法第170条・第178条(非居住者の源泉分離課税)
  • 租税特別措置法第9条の3の2(上場株式等の配当の源泉徴収税率15.315%)
  • 国税通則法第67条(不納付加算税)、第60条(延滞税)
  • UAE Federal Decree-Law No. 47 of 2022(UAE法人税法、2023年6月1日以降開始事業年度より適用)

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(JCPA)・UAE公認会計士(EAAA)協会会員。日本とドバイで会計事務所を経営。現地日本企業の税務顧問先100社(上場会社含む)、会社設立実績80社以上。
ドバイ法人の会計監査や税務申告、ドバイ移住支援を行っています。

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