暗号資産CRSの導入でドバイ移住にどのような影響があるか

投稿:2025年11月29日更新:2025年11月30日ブログ

ここ数年、ドバイ移住を検討する日本人の方から「暗号資産を持ったまま移住した場合の税務リスク」について相談を受けることが一気に増えています。背景にあるのが、OECDが進める暗号資産版CRSともいえる「CARF(Crypto Asset Reporting Framework)」と、日本・UAE双方で進む制度導入の動きです。

一方で、インターネット上では「暗号資産もすでに出国税の対象になっている」といった誤解も広がっていますが、結論からお伝えすると、以下が正しい情報です。このあと制度面の整理とドバイ移住に与える具体的な影響を解説します。

  • 現時点の日本の出国税では、暗号資産は対象資産に含まれていない
  • しかし暗号資産の国際的な情報交換(CARF)は、日本もUAEも導入に向けて明確に動いている
  • 形式だけのドバイ移住や、過去の申告漏れは、今後一気にリスクが顕在化する可能性が高い

暗号資産CRSともいわれるCARFとは何か

従来から、銀行口座や証券口座については「CRS(共通報告基準)」により各国税務当局の間で自動的な情報交換が行われてきました。しかし、暗号資産は長らくこの枠組みの外に置かれていました。

この空白を埋めるためにOECDが策定したのが、暗号資産に特化した新たな情報交換の枠組みであるCARFです。

イメージとしては、次のような制度です。

  • 対象は暗号資産、ステーブルコイン、一定のNFTなどのデジタル資産
  • 取引所やカストディアンなどの事業者が、顧客の残高や取引を税務当局に報告
  • 税務当局同士が、居住地国の税務当局へその情報を自動的に提供

つまり「暗号資産版のCRS」と考えると分かりやすい流れです。

CRSとCARFの違い

項目 従来のCRS 新しいCARF
主な対象 銀行預金、有価証券などの金融口座 暗号資産、ステーブルコイン、一定のNFTなど
情報提供者 銀行、証券会社など 暗号資産交換業者、カストディアンなど
報告される情報 口座残高、利子、配当など 残高、送金・交換・決済などの取引情報
主な目的 富裕層の海外口座の捕捉 暗号資産による所得隠しの防止

これまで「見えにくかった」暗号資産の情報が、今後は各国税務当局にかなりの精度で共有されることになります。


UAEと日本のCARF導入スケジュール

次に、UAEと日本がこのCARFにどのようにコミットしているかを整理します。

UAE(ドバイ)の状況

UAE財務省は、OECDが用意したCARFの多国間協定に署名し、暗号資産を含む新しい情報交換の枠組みの導入に正式にコミットしています。公表されている情報や各種専門家レポート等から整理すると、おおむね次のようなタイムラインが想定されています。

想定される動き
2025年 UAEがCARF協定に署名、ガイダンス公表や業界向けコンサルテーション開始
2026年 国内法制化、暗号資産事業者への具体的なルール提示
2027年 UAE居住者等の暗号資産取引について本格的なデータ収集が開始
2028年
前後
日本など各国との初回の情報交換が開始される見込み

つまり、ドバイの取引所などを利用している場合、数年後にはその情報が居住地国の税務当局へ共有される前提で考える必要があります。

日本の状況

日本でも、令和六年度税制改正大綱で「日本版CARF」「日本版CRS」の整備が明記されており、非居住者を含む暗号資産取引情報の自動的交換制度の創設が進められています。

各種専門家解説では、次のようなスケジュール感が示されています。

  • 2026年前後 ―国内の暗号資産交換業者による報告義務の開始
  • 2027年日本の国税庁が他国から初回の暗号資産情報の提供を受ける予定

この日本側のタイムラインと、UAE側の動きが数年ずれを持ちながらも同じ方向に進んでいることがポイントです。


誤解されやすい「出国税」と暗号資産の関係

前回の記事では、「現在の税制では暗号資産も出国税の対象に含まれるケースが増えている」と読めるような表現がありましたが、これは現時点の法令を前提とすると誤りです。

改めて、国外転出時課税制度(出国税)を正確に整理します。

出国税の対象資産

国外転出時課税制度は、日本の居住者が出国する時点で、一定の資産について「未実現の含み益」に所得税等を課す制度です。

現行制度における対象資産は、次のように明確に限定されています。

  • 有価証券(株式、投資信託、社債など)
  • 匿名組合契約の出資持分
  • 未決済の信用取引・発行日取引
  • 未決済のデリバティブ取引(先物、オプションなど)

そして、複数の専門家解説でも、「2025年時点では暗号資産は出国税の対象外」と明示されています。国税庁のパンフレット等にも暗号資産は対象資産として列挙されておらず、現行法ベースでは「暗号資産は出国税の対象には含まれていない」と整理するのが正確です。

なぜ「暗号資産も出国税の対象になる」という話が出るのか

一方で、最近の日本の税制議論では、

  • 暗号資産を金融商品として再定義する動き
  • 富裕層の移住と暗号資産を組み合わせた節税スキームへの懸念

などを背景に、「将来的に出国税の対象に組み込まれる可能性」が複数の専門家から指摘されています。

実際に、

  • 暗号資産を金融商品に近い位置付けにする議論
  • その延長として、出国税の対象資産に含めるべきという論点整理

といった方向性が語られており、いつからどのような形で変わるかは未確定ながら、制度改正の有力候補であることは間違いありません。

したがって、現時点の法令上は、暗号資産は出国税の対象外ですが、将来的な税制改正により、対象に追加される可能性は高まっているという二段階で整理するのがより正確な理解になります。


CARF導入がドバイ移住に与える実務的な影響

ここからは、CARF導入とUAEの動きが、実際にドバイ移住者にどのような形で影響するのかを具体的に見ていきます。

影響パターン1. ドバイ移住後も日本居住者とみなされるリスク

形式的にはUAEのビザを取得していても、

  • 家族が日本に居住している
  • 日本に自宅を維持している
  • ビジネスの中心が日本にある
  • 年間の大半を日本で過ごしている

といった場合、日本の国内法上は、日本の「居住者」と判断される可能性があります。

この状態でドバイの取引所や海外取引所を使って暗号資産取引を行い、日本での申告をしていないと、

  • CARFを通じて「日本居住者であるあなたの海外暗号資産取引情報」が国税庁に届く
  • 届いた情報と日本の確定申告書が自動で突合される
  • 不一致があれば、AIによる抽出対象となり、調査につながる

これまでのように「海外取引所だから」「ドバイの口座だから」という理由で見えなくなるという前提は、今後急速に通用しなくなっていきます。

影響パターン2. 出国前の申告漏れや過去の所得の顕在化

次に、出国税そのものとは別に、出国前の暗号資産取引について申告漏れがあるケースも要注意です。

  • 過去に日本居住時に大きな含み益を得ている
  • 一部しか申告していない
  • 損益通算や経費計上の名目で過度に所得を圧縮している

こうした取引の痕跡は、海外取引所の履歴やウォレットの送金履歴と突合されることで、数年遡って把握される可能性があります。

CARFの情報交換開始時期と、日本側の調査・更正請求の時効(原則5年、重加算税相当の事案で7年など)が重なると、過去数年分の暗号資産取引が一気に問題となるケースも考えられます。

出国税とは別軸で、

  • そもそも日本居住時の所得税申告が適正だったか
  • 国外転出までの期間に、意図的な所得隠しがなかったか

という観点からのチェックが強化されていくと考えておいた方が安全です。


UAE側の税務とライセンスの問題

CARFはあくまで「情報共有の枠組み」ですが、暗号資産取引そのものについては、UAE側にも独自の規制や税務のルールがあります。

UAE法人でトレードしている場合の法人税

UAEではすでに一律9パーセントの法人税が導入されており、フリーゾーン法人であっても「適格所得」に該当しない収益は課税対象になります。

暗号資産の自己勘定トレードについては、

  • 投資ファンドとして適切なライセンスを取得しているか
  • 規制当局に登録されたアクティビティであるか
  • 実態としてどこでリスクテイクをしているか

といった点が論点になり、多くの場合は九パーセント課税の対象となり得る、というのが現地専門家の一般的な見解です。

「ドバイに法人を作れば暗号資産の利益は無税」という認識は、現在の法令や実務からは明確に外れており、法人税・ライセンス双方の観点から慎重な検討が必要です。

ライセンスとコンプライアンス

ドバイでは、暗号資産関連の事業は

  • VARA(ドバイ仮想資産規制当局)管轄のライセンス
  • ADGMなど他エミレーツの規制当局ライセンス

の枠組みの中で厳格に監督される方向に進んでいます。

無登録で第三者資産を預かる、助言を行う、運用を行うといった行為は、税務以前にライセンス違反やマネーロンダリング関連規制の観点から、重大なリスクを抱えることになります。

CARF導入により、こうした事業者や取引の存在は各国当局にとっても「見えやすく」なるため、ドバイ移住と暗号資産ビジネスを組み合わせる場合には、税務・法務・ライセンスの三つをセットで設計することが不可欠です。


情報の流れを整理

CARF導入後の情報の流れを、ドバイ移住者を想定して簡単に図式化すると、次のようになります。

1 本人
ドバイや海外の取引所で暗号資産取引を行う
2 暗号資産交換業者
あなたの名前、住所、生年月日、取引履歴、残高などを自国当局に報告
3 UAE財務省等の税務当局
国内事業者から報告を集約し、日本など他国の税務当局へ送信
4 日本の国税庁
受け取ったデータを、マイナンバーや過去の確定申告・銀行情報などと突合
5 リスク検出
申告内容と異なるケースや、不自然な資金移動があるケースをAIなどで抽出し、調査候補とする

ここで重要なのは、「自国の居住者であるかどうか」の判定は、あくまで各国の国内法で行われるという点です。

日本側から見てあなたが「日本居住者」と判断されれば、ドバイ経由の取引であっても、日本での課税対象として扱われる可能性が高いことになります。

ドバイ移住者が今から準備すべきこと

CARF導入と出国税の議論が進む中で、ドバイ移住を検討している方、すでに移住している方が準備しておきたいポイントを整理します。

生活実態としての「非居住者」要件の確認

形式的なビザや法人設立だけではなく、

  • 家族の居住地
  • 住居の状況
  • 主たる仕事の場所
  • 滞在日数

などを総合して、日本における「居住者か非居住者か」の判定を慎重に確認することが重要です。

単に「ドバイに会社がある」「投資用の口座がある」といった事情だけでは、日本の非居住者とは認められないケースが多く、これが暗号資産取引の課税関係にも直結します。

過去の取引・申告状況の棚卸し

CARFの初回情報交換が始まる前に、

  • 日本居住時代の暗号資産取引をどこまで申告してきたか
  • 申告していない取引がないか
  • 出国前後の大口取引に不自然な点がないか

を一度整理しておくことが、安全側の対応につながります。

必要に応じて、更正の請求や修正申告も含め、どこまでリスクを減らしておくかを専門家と検討する価値があります。

制度改正のスピードを前提にしたプランニング

暗号資産の税制、とりわけ出国税との関係については、

  • 現時点では対象外
  • しかし数年単位で大きく変わり得る

という前提で動いています。

「今は大丈夫だからこのままでよい」という発想ではなく、

  • いつ法改正が行われても対応できる余地を持った資産配分
  • 移住のタイミングや実現益の出し方のシナリオ
  • 万一、暗号資産が出国税の対象になった場合の影響試算

といった形で、先手の設計を検討しておくことが、今後ますます重要になります。

結論・まとめ

暗号資産版CRSともいえるCARFの導入は、ドバイ移住と暗号資産の税務環境を大きく変える転換点になります。

本稿の結論をあらためて整理すると、次の通りです。

  • 現時点の日本の出国税では、暗号資産は対象資産に含まれていない
    有価証券やデリバティブなどが対象であり、暗号資産は明示的に対象外とされています。
  • ただし、将来的に暗号資産が出国税の対象に加えられる可能性は高まっている
    金融商品としての位置付けの見直しや、富裕層の資産移転への対応として、複数の専門家から制度改正の可能性が指摘されています。
  • UAEも日本もCARF導入に明確にコミットしており、「海外だから見えない」という発想は通用しなくなっていく
    今後数年のうちに、暗号資産の保有残高や取引履歴は、居住地国の税務当局に自動的に共有される流れになります。
  • 形式的なドバイ移住や、過去の申告漏れを抱えたままの状態は、情報交換の本格稼働後に一気にリスクが顕在化する可能性がある
    居住者判定や過去の所得の有無を前提に、日本とUAE双方の税務リスクを見直すことが重要です。

弊社はドバイ現地の会計事務所として、

  • 日本からの移住前の税務シミュレーション
  • UAEでの法人設計、ライセンス検討
  • 暗号資産を含めた国際税務の整理

などを一体としてサポートしています。

既にドバイに移住されている方も、これから移住を検討されている方も、CARF導入が本格化する前の今のタイミングで、一度ご自身の状況を客観的に棚卸ししておくことをおすすめします。

 このブログを書いた人

税理士・公認会計士(日本・UAE)。ドバイ在住。日本とドバイで会計事務所を経営しています。税務顧問や会計監査、ドバイへの移住支援を行っています。

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