ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
本記事では、日本法人から受け取る非居住者の役員報酬に対する20%の源泉徴収について、見直し論の中身とドバイ在住のオーナーへの影響を解説します。
2026年10月20日、政府税制調査会の専門家会合で、財務省と国税庁が「租税回避等への対応」の説明資料を示しました。その中で、国外からリモートで働く役員の報酬が20%の源泉徴収だけで課税を終えている点が、税負担の不均衡として取り上げられています。日本法人の役員のままドバイへ移住した経営者の方にとって、直接関わる論点です。
政府税調の資料で示された問題意識
国内勤務は最高45%、国外のリモート勤務は20%
資料では、高額の役員報酬を受け取る場合、日本で勤務する役員は最高45%の累進課税となる一方、国外でリモート勤務する役員は20%の源泉徴収だけで済むと指摘しています。特に、居住地国が国外の所得に課税しない国の場合に負担の差が大きくなるとしています。
源泉徴収で完結する仕組みは維持する方向
一方で資料は、源泉徴収によって日本国内で課税関係を完結させる制度の骨格は維持しつつ、対応を検討するとしています。あわせて、次の3つの留意点も挙げています。
| 資料が挙げた留意点 | 意味 |
| 居住者並みの源泉徴収はなじまないか | 非居住者は1年を通して日本で勤務するとは限らない |
| 全世界所得課税の国の居住者 | 居住地国で外国税額控除による調整が行われる |
| 源泉徴収義務者の事務負担 | 支払う会社の負担を踏まえた簡素な制度設計が必要 |
現時点で、税率や対象になる金額、適用の時期は示されていません。決まったのは「見直しの検討を始める」という方向性だけです。
現行制度における非居住者の役員報酬
ドバイで勤務しても日本で課税される
日本の会社員がドバイへ赴任して非居住者になると、ドバイでの勤務に対する給与には原則として日本の所得税がかかりません。しかし、国税庁タックスアンサーNo.1929のとおり、内国法人の役員として受け取る報酬は、勤務地が国外でも日本で生じた所得として扱われます。日UAE租税条約の第15条も、役員報酬は法人の所在地国で課税できると定めています。
例外は、海外支店の支店長のように、使用人として常時国外で勤務する場合です。ただし、所得税基本通達161-42は、非常勤役員として国外で情報提供などをしているだけの場合は例外に当たらないとしています。
20.42%の源泉徴収で課税が終わる
非居住者に支払う役員報酬は、支払う会社が20.42%(所得税と復興特別所得税)を源泉徴収し、原則としてそれで課税が終わります。2027年分以後は防衛特別所得税が加わりますが、上記のタックスアンサーNo.1929でも合計の税率は20.42%のまま示されています。給与所得控除などの控除はなく、支払額の全額に税率をかけます。1月1日に日本に住所がないため、住民税もかかりません。
ドバイ在住者が見直しの中心になりやすい理由
UAEには個人の所得税がないため、日本で源泉徴収された20.42%が最終的な税負担になります。資料が特に問題視した「居住地国が国外所得に課税しない場合」に近い状況です。たとえば、年5,000万円の役員報酬で比べると次のようになります。
| 区分 | 日本での税額の目安 |
| 日本居住者(所得税・住民税) | 約2,200万円 |
| ドバイ在住の非居住者(20.42%の源泉徴収) | 約1,021万円 |
居住者の税額は、国税庁の所得税の税率表をもとに、給与所得控除だけを差し引いた概算です(合計所得金額が2,500万円を超えるため基礎控除はありません)。年に約1,200万円の差があり、資料が取り上げた不均衡はこの差を指しています。逆に、報酬が少ない方は控除のない20.42%のほうが重くなることもあるため、見直しでは高額の報酬を中心に検討されるとみられます。
今後の見通しと確認の時期
12月の税制改正大綱が最初の確認点
例年、翌年度の税制改正の内容は12月の与党税制改正大綱で決まります。今回の論点が2027年度税制改正の大綱に入るかどうかが、最初の確認点です。大綱に入った場合でも、法律の成立と施行日が決まるまでは、実際にいつの支払いから変わるかは分かりません。当会計事務所では、大綱が公表された時点で内容を確認し、本記事を更新します。
租税回避への対応という位置づけ
この論点は、同族会社の社債利子を使った租税回避への対応や、租税回避スキームの義務的開示制度(MDR)と同じ資料で扱われています。役員報酬の受け取り方を形式的に組み替える対策は、今後さらに厳しく見られる可能性があります。
実務で判断が必要な論点
役員報酬を改定できる時期は限られる
日本法人が損金にできる役員報酬は、原則として毎月同じ額の定期同額給与です。国税庁タックスアンサーNo.5211のとおり、額の改定は事業年度開始から3か月以内に行うのが原則です。改正の内容が分かってから報酬を見直す場合も、改定できる時期を事業年度ごとに確認しておく必要があります。
肩書きと実際の勤務内容を合わせる
使用人として常時国外で勤務する場合の例外は範囲が狭く、税負担のためだけに肩書きを変えても認められません。日本法人の役員を続ける必要があるか、ドバイで実際に何の業務をしているかを、会社の実態に合わせて整理することが大切です。
日本での滞在が増えると居住者と判定されるおそれ
日本法人の経営に深く関わり、日本に滞在する日が増えると、生活の本拠が日本にあると判断されることがあります。国税庁タックスアンサーNo.2012のとおり、居住者か非居住者かは住居や職業、家族の状況などから総合的に判断します。居住者とされれば、役員報酬は累進課税になります。
配当への切り替えは総額で比べる
役員報酬を減らして配当で受け取る方法もあります。日UAE租税条約により、個人が受け取る配当の日本での税率は10%に下がります。しかし、配当は日本法人の損金にならないため、法人税を払った後の利益から支払うことになります。法人と個人の税負担を合計で比べないと、かえって負担が増えることがあります。
まとめ
📋 今回のポイント
- 2026年10月20日の政府税調資料で、非居住者の役員報酬への20%課税を問題視
- 内国法人の役員報酬はドバイで勤務しても日本で20.42%の源泉徴収
- 源泉徴収で完結する仕組みは維持する方向、税率や時期は未定
- 最初の確認点は12月の2027年度税制改正大綱
- 役員報酬の改定は事業年度開始から3か月以内が原則
- 配当への切り替えは法人と個人の税負担の合計で判断
日本法人の役員としてドバイから報酬を受け取る形は、これまで税負担の面で有利でしたが、今後の改正で前提が変わる可能性があります。
当会計事務所は、日本とUAEの両方の税務を踏まえて、ドバイ在住の経営者の方の役員報酬や配当の受け取り方をサポートしています。今の受け取り方を続けてよいかでお迷いの方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 税制調査会 説明資料〔租税回避等への対応〕(2026年10月20日、財務省・国税庁) – 非居住者の給与・役員報酬の課題
- 税制調査会 納税環境整備に関する専門家会合(第5回) – 会合の資料一覧
- 国税庁 タックスアンサーNo.1929 – 海外で勤務する法人の役員の給与
- 国税庁 所得税基本通達161-41〜161-43 – 使用人として常時勤務する場合の範囲
- 国税庁 タックスアンサーNo.2885 – 非居住者等に対する源泉徴収のしくみ
- 国税庁 タックスアンサーNo.2260 – 所得税の税率
- 国税庁 タックスアンサーNo.5211 – 役員給与の損金算入と定期同額給与
- 国税庁 タックスアンサーNo.2012 – 居住者・非居住者の判定
- 財務省「アラブ首長国連邦との租税条約のポイント」 – 配当の限度税率
- 所得税法第161条第1項第12号イ(国内源泉所得)、所得税法施行令第285条第1項第1号、所得税法第212条・第213条(源泉徴収)、法人税法第34条(役員給与)、日UAE租税条約第10条(配当)・第15条(役員報酬)




