ドバイ在住の日本人公認会計士・岡本信吾です。
本記事では、総務省が検討を始めた海外居住者への個人事業税について、今の仕組みとドバイ在住のオーナーへの影響を解説します。
2026年10月31日、日本経済新聞が「海外居住者の国内不動産、賃貸業所得に課税 公平性確保へ総務省検討」と報じ、Xでも話題になりました。日本に賃貸マンションや駐車場を持ったままドバイへ移住した方、これから日本の賃貸物件を相続する予定のある方に直接関わる論点です。
報道で示された検討の内容
報道によると、総務省は、国内で不動産賃貸業や駐車場業を営む海外居住者の所得に、個人事業税を課す方向で検討に入りました。政府・与党の2027年度税制改正大綱への反映を目指しています(ニュースプレミアの要約記事)。
| 項目 | 報道の内容 |
| 検討している税 | 都道府県が課す個人事業税 |
| 対象 | 国内で不動産賃貸業・駐車場業を営む海外居住者 |
| 今の扱い | 国内に事務所や住所がある場合に限って都道府県が課税 |
| 今課税されていない例 | 海外に住む外国人、海外に転居した日本人、国外に住む相続人 |
| 目指す時期 | 2027年度税制改正大綱への反映 |
現時点では総務省の検討の段階で、税率や対象の基準、いつの所得から課税するかは決まっていません。年末の税制改正大綱が最初の確認点になります。
今は海外居住者に課税されていない理由
事務所や住所のある都道府県が課税する税
個人事業税は、法律で定めた業種の事業を行う個人に、事務所や事業所のある都道府県が課税する税です。地方税法第72条の2は、事務所を設けずに事業を行う場合、その人の住所または居所を事務所とみなすと定めています。日本に住む大家さんは、賃貸専用の事務所がなくても、自宅の住所がある都道府県で課税されます。
国内に住所も恒久的施設もない人は対象外
一方、同じ条文は、日本に主たる事務所がない個人については、恒久的施設を事務所とするとしています。ドバイに移住して日本に住所も居所もなく、日本に事業の拠点もない人は、課税の基準になる場所がありません。賃貸物件そのものは日本にあっても、今の法律では個人事業税をかける根拠がない状態です。
つまり、日本で賃貸業をしていた人がドバイへ移住すると、同じ物件を同じ規模で貸し続けていても、個人事業税だけがかからなくなっていました。報道は、この国内居住者との差を公平性の問題として取り上げています。
所得税は今もかかっている
誤解されやすい点ですが、ドバイに住んでいても日本の不動産の家賃に所得税がかからないわけではありません。国税庁タックスアンサーNo.1926のとおり、国内にある不動産の貸付けによる所得は国内源泉所得で、非居住者でも日本で確定申告が必要です。日UAE租税条約でも、不動産から生じる所得は不動産のある国で課税できます。
| 税の種類 | ドバイ在住者が日本の物件を貸す場合 |
| 所得税(国税) | 課税される。翌年3月15日までに確定申告 |
| 家賃の源泉徴収 | 借主が20.42%を差し引いて支払う(個人が自分や親族の住まいとして借りる場合は不要) |
| 住民税 | 1月1日に日本に住所がなければかからない |
| 固定資産税 | 物件のある市区町村が課税(移住後も継続) |
| 個人事業税 | 国内に住所も事務所もなければ今はかからない。今回の検討の対象 |
源泉徴収については国税庁タックスアンサーNo.2880に説明があります。源泉徴収された20.42%は確定申告で精算するため、最終的な所得税は経費を差し引いた所得に累進税率をかけて計算します。
課税された場合の基準と税額の目安
対象になるのは一定の規模以上の貸付け
個人事業税は、すべての大家さんにかかるわけではありません。不動産貸付業や駐車場業に当たるかどうかは、都道府県が貸付けの規模で判定します。東京都主税局の認定基準では、次のような規模が目安です。空室も室数に含みます。
| 区分 | 東京都の認定基準の例 |
| アパート・マンション(住宅) | 10室以上 |
| 一戸建の住宅 | 10棟以上 |
| 住宅以外の独立家屋 | 5棟以上 |
| 住宅用の土地 | 契約10件以上または貸付面積2,000平方メートル以上 |
| 規模が大きい建物 | 総床面積600平方メートル以上かつ年間賃料1,000万円以上 |
| 駐車場 | 駐車可能台数10台以上 |
共有物件は持分に関係なく物件全体で判定し、税額は持分に応じて計算します。区分マンションを1〜2戸貸しているだけの方は、通常この基準には届きません。海外居住者に同じ基準を使うかどうかも、まだ示されていません。
税率は5%、事業主控除は年290万円
総務省の個人事業税の説明のとおり、税額は所得から事業主控除を差し引いた額に3〜5%の税率をかけて計算します。不動産貸付業と駐車場業は5%の区分で、事業主控除は年290万円です。所得税の青色申告特別控除は差し引けません。
たとえば、ドバイ在住の方が東京に12室のアパートを持ち、青色申告特別控除前の不動産所得が年800万円だとすると、(800万円−290万円)×5%で年25万5,000円が目安です。個人事業税は所得税の計算で必要経費になるため、手取りへの影響はこれより少し小さくなります。
ドバイ移住と出国税の観点で押さえる点
不動産は出国税の対象外でも日本の課税は続く
国外転出時課税、いわゆる出国税の対象は、国税庁タックスアンサーNo.1478のとおり、有価証券や未決済のデリバティブ取引などの金融資産で、不動産は含まれません。そのため、日本の不動産を持ったまま移住しても出国時に課税はされません。ただし、家賃の所得税と固定資産税は移住後も続き、今回の改正が実現すれば個人事業税も加わります。
一定規模以上の賃貸物件を持つ方にとって、ドバイへの移住で住民税と個人事業税がかからなくなる点は、これまで移住後の手取りが増える要因の1つでした。今後の移住計画では、この前提が変わる可能性を織り込んでおく必要があります。
相続で物件を受け継ぐ場合
報道は、国外に住む相続人も今は課税されていない例として挙げています。日本で個人事業税を納めていた親の賃貸物件をドバイに住む子が相続すると、今は個人事業税がかからなくなりますが、改正後は課税される可能性があります。相続後の収支計画を立てる際は注意が必要です。
実務で判断が必要な論点
自分の物件が基準に届くかの確認
まず、物件ごとに室数、棟数、駐車台数を整理し、物件のある都道府県の基準に照らします。複数の都道府県に物件がある場合にどこが課税するかは、報道でも今後の論点とされています。
納税の窓口を日本に置く
個人事業税は都道府県から納税通知書が送られてくる税です。ドバイに住んでいると通知を受け取れず、気付かないうちに滞納になるおそれがあります。所得税の確定申告で選任している納税管理人に、地方税の通知も受け取ってもらえるようにしておくと安心です。
法人化や売却は総合的に比べる
個人事業税だけを理由に、物件を法人へ移したり売却したりするのは得策ではありません。法人への移転には譲渡所得税や登録免許税、不動産取得税がかかり、法人には法人税や法人事業税がかかります。国税庁の説明のとおり、非居住者が国内の不動産を売却した場合も日本で譲渡所得の申告が必要です。売却の手数料にかかる消費税も、2026年10月から扱いが変わっています。
まとめ
📋 今回のポイント
- 2026年10月31日、海外居住者への個人事業税の課税検討が日本経済新聞で報道
- 今は日本に住所も事務所もない人には課税の根拠がない状態
- 所得税は移住後も課税され、20.42%の源泉徴収と確定申告が必要
- 対象は東京都の基準でアパート10室以上などの規模の貸付け
- 税額は所得から年290万円を差し引いた額の5%が目安
- 年末の2027年度税制改正大綱が最初の確認点
日本に一定規模の賃貸物件を持つドバイ在住の方は、改正の内容が固まる前に、物件の規模と納税の体制を確認しておくことをおすすめします。
当会計事務所は、日本とUAEの両方の税務を踏まえて、日本の不動産を持つドバイ在住の方の確定申告や物件の持ち方をサポートしています。移住後の賃貸経営や相続でお迷いの方は、当会計事務所までお気軽にお問い合わせください。
根拠条文・出典
- 日本経済新聞「海外居住者の国内不動産、賃貸業所得に課税 公平性確保へ総務省検討」(2026年10月31日) – 報道の公式投稿
- ニュースプレミア – 報道内容の要約
- e-Gov法令検索 地方税法 – 第72条の2(事業税の納税義務者等)
- 総務省 地方税制度 個人事業税 – 税率と事業主控除
- 東京都主税局 個人事業税 – 不動産貸付業・駐車場業の認定基準
- 国税庁 タックスアンサーNo.1926 – 海外勤務中に不動産所得などがある場合
- 国税庁 タックスアンサーNo.2880 – 非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき
- 国税庁 タックスアンサーNo.1478 – 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例
- 地方税法第72条の2第6項・第7項・第8項、第72条の49の14(事業主控除)、所得税法第161条第1項第7号(不動産の貸付け)、第212条(源泉徴収)、日UAE租税条約第6条(不動産所得)




